〜「もう限界」と感じる職員の声から見える希望〜
新潟県では高齢化率が全国でも高く、地域によっては3人に1人が65歳以上という現実があります。
特別養護老人ホームや老人保健施設、グループホームなどの現場では、入所希望者が増える一方で、働く職員の確保や心身の疲弊が深刻な課題となっています。
「もう少し余裕をもってケアしたいのに」「人が足りなくて心まで擦り切れてしまう」——そんな声が、今、現場から多く聞かれます。
ここでは、新潟県の施設現場が多く直面している5つの主な課題と、それに対する具体的な改善策を考えてみました。
① 入所希望者が多く、待機者が減らない問題
▶課題
新潟市など都市部では、特養の入所を希望する人が定員を上回り、待機期間が長期化しています。
その間、家族が在宅で介護を続けるケースも多く、家族の疲弊や共倒れが起こることもあります。
▶改善策
行政と地域包括支援センターが連携し、「在宅から施設まで切れ目のない支援」を行うことが求められます。
例えば、短期入所(ショートステイ)を柔軟に活用したり、医療機関と施設の連携を強化し、スムーズな入所調整を図る仕組みを整えること。
また、地域密着型特養など、小規模・分散型の施設を増やし、地域ごとの受け皿を広げていくことも有効です。
② 深刻な人材不足と職員の離職問題
▶課題
介護・看護職員の確保が難しく、特に夜勤や介護度の高い入所者が多い施設では、心身の負担が大きくなりがちです。
「残業が当たり前」「休みが取りにくい」「新人がすぐ辞めてしまう」——こうした声は、現場の“悲鳴”に近いものです。
▶改善策
人材定着のカギは、“待遇”だけではなく“職場の人間関係”にあります。
リーダーが「ありがとう」「助かったよ」と声をかけ合う文化を意識的に育てることで、心理的安全性が高まります。
また、業務を抱え込みすぎないようにチームで支え合う仕組みづくりが必要です。
ICT機器(記録システムや見守りセンサーなど)を導入し、ケアの質を落とさずに効率化する工夫も欠かせません。
③ 運営監査・指導内容への対応と職員教育の遅れ
▶課題
介護報酬請求や記録、運営管理などで県の指導を受ける施設が一定数あり、「書類整備」「説明責任」「運営基準」などの面で改善が求められています。
しかし、現場では「人がいない中で、書類ばかり増える」との声も多く、現場と運営のギャップが広がっています。
▶改善策
「記録を増やす」のではなく、「必要な情報を整理して残す」方向へ転換が必要です。
事務作業を一部事務職に分担したり、外部研修・オンライン学習を活用して知識をアップデートできるように支援することが効果的です。
職員が「なぜそのルールが必要なのか」を理解できれば、監査対応も“負担”ではなく“質を守るための手段”に変わっていきます。
④ 利用者ニーズの多様化に追いつかないケア内容
▶課題
入所者の要介護度は年々高くなり、医療的ケアや認知症対応の複雑化が進んでいます。
「昔ながらの介護」では通用しない場面が増え、看取りや終末期ケアの対応にも戸惑う職員が多いのが現状です。
▶改善策
医療職と介護職が“連携する文化”を育てることが最優先です。
たとえば、定期的なカンファレンスで「この方にとって今、何が最善か」を一緒に話し合う場を設ける。
看護師が医療的判断をサポートし、介護職が日常の小さな変化を共有できるようにすることで、チームケアの質が格段に上がります。
また、外部研修や地域包括支援センター主催の研修への参加を奨励し、「学び続ける施設文化」をつくることも重要です。
⑤ 入所調整・公平性の課題と家族の不満
▶課題
要介護度や家庭事情によって入所優先順位をつける現行制度は、合理的である一方、「なぜあの人が入れたの?」「説明が不十分」と感じる家族も少なくありません。
情報不足が不信感を生み、トラブルにつながるケースもあります。
▶改善策
入所基準や選定プロセスを「見える化」すること。
家族説明会やパンフレットなどで、入所決定までの流れを丁寧に伝えるだけでも、納得感は大きく変わります。
また、入所を待つ間も地域包括やケアマネと連携し、ショートステイ・訪問介護・通所サービスなど“繋ぎ支援”を提案できる体制を整えると、家族の安心感が増します。
心のケアが現場を救う

これらの課題の根底には、「人の心の疲弊」があります。
どんなに制度や設備が整っても、ケアを担う人の心が疲れきっていれば、本当の意味での“ケアの質”は維持できません。
私自身、看護師として23年間、医療・介護の現場を転々としながら、理想を追い求めるあまり、同僚や上司の“足りなさ”ばかりが目につき、誰かを「敵」に見立てては我慢の限界を超えて転職を繰り返してきました。
けれど、今振り返れば、その背景には「自分も認められたい」「わかってほしい」という、満たされない想いがあったのだと思います。
現場で働く人の心が癒され、自分を責めずに“等身大の自分”を受け入れられるようになったとき、チームの空気は変わります。
「できる人」ではなく、「支え合える人」が増えていくこと——それが、これからの新潟の福祉現場に本当に必要な変化です。
まとめ

介護・医療の現場は、制度や構造だけでなく「人の心」で動いています。疲れたとき、迷ったとき、「何のためにこの仕事をしているのか」を思い出せる職場であってほしい。そのために、現場の声を吸い上げ、誰もが安心して働き、笑顔でケアできる環境をつくることが、これからの新潟の介護を支える一番の力になると期待しています。このコラムが医療従事者の皆さんのお役に立てれば幸いです。