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専門家コラム

医療同意に挑む

身寄り問題三大課題

「身寄り」問題は課題が多岐にわたり漠然としています。しかし解決すべき明確な課題を3つに分類しました。
①医療決定 ②金銭管理 ③死後対応。
どんな問題も細かく見て行けば必ず解決策があります。物事を大きくとらえ過ぎないことが肝心。そして逆にこの三大課題を解決する策があれば必要以上に「身寄り問題」を怖がる必要はなくなります。

医療同意に挑む

「病院に軟禁されてます。助けてください」ケアマネージャーからの電話だった。
担当の利用者(90歳要介護1生活保護)が自宅で転倒。
たまたま訪問診療で訪れた開業医が発見。なぜかケアマネージャーが呼び出され無理やり救急車に同乗させられて病院へ搬送。レントゲン等の検査にて大腿部頚部骨折と膝の骨折の所見あり。入院になるかと思われたが病院の医師は「親族の同意がないと治療、入院ができない」と言っている。ストレチャーに乗ったまま2時間が経過していた。ケアマネージャーが帰ろうとすると看護師に止められて軟禁状態とのこと。
その電話を受けて包括支援センターは関係機関に連絡。市役所の生活保護のケースワーカーと地区の民生委員そして包括支援センターの3人で病院にかけつけた。病院医師に身寄りがいないと説明したが医師は納得しなかった。その後なんとか市役所経由で甥と連絡がとれた。甥が病院にきてようやく入院となった。
救急搬送されて5時間が経過し21時を過ぎていた。包括支援センターの経験上、身寄りがいない場合は関係者が集まり医師に事情を説明すれば入院となることがあった。しかし今回そのようにはならず非常に入院まで時間がかかった。
翌日にその病院の医療相談員に経過を報告し、なぜこのような事態になったのか聞いた。どうやら以前この医師は家族の同意なく治療を始めてトラブルになったことがあったので非常に慎重になっていたとのことだった。
それにしてもだ。実はその甥は今回本人に会うのが20年ぶりだった。20年ぶりにあう甥の医療同意にどんな意味があるのだろうか。そもそも医療同意は本人しかできないはずである。
あきらかに病院の過剰なリスクマネジメントと言えるだろう。

医療同意の大原則

患者は自らの意思に沿った最善の医療を受ける権利がある。そして医療行為を選択し、決定できるのは患者本人のみである。これが医療同意の大原則となります。ではなぜ、医師は親族等に医療同意を求めるのでしょうか?それは事後的な訴訟リスクをさけるため、そして親族や身元保証人に同意を得ることが慣行化していると思われる。
さらに言えば「手術」はなぜ傷害罪にならないのか?通常は他人のカラダに傷をつけると傷害罪になる。
手術はメスや注射器などの医療機器で患者のカラダを傷をつける行為である。それは本人から治療の同意を受けているからに他ならない。

ACP(人生会議)

医療同意問題を打破するには本人の同意がキーワードになる。そのために現在国が注目しているのがACPだ。ACP(アドバンス・ケア・プランニング)。愛称を「人生会議」と呼びます。
もしものときのために、あなたが望む医療やケアについて前もって考え、繰り返し話し合い、共有する取り組みである。ちなみにACPを実践するときの注意点としては
①契約行為ではない②事前指示書ではない③意思決定支援を大事に④関係者による本人の意思を支える合意形成
が必要。

人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン

実は国は身寄りない方の医療同意については一定の答えをだしています。
それは平成30年に改訂された「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」です。ガイドラインできた経緯としては2006年におきた射水市民病院人工呼吸器取り外し事件が発端である。
それから尊厳死の議論の高まりからコンセンサス(複数の人による意見の一致、合意)の得られる範囲に限ったルール作りが始まった。2007年の「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」を経て、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」となった。

医療同意というより医療決定

医療同意は本人しかできないため「医療決定」というのが良いだろう。
ガイドラインを簡単に説明すると医療同意については本人の意思があれば本人に同意を取る。本人の意思が確認できない時は本人にとって「最善」をチームで考えると書いてます。医療職は当然だが在宅生活をよく知っている、本人ならこう考えるだろうと推定できる人、本人の生活から、本人の価値や大事にしてきたことがより理解できる人。
親族がいなければもしかしたらケアマネジャーやヘルパー、民生委員がその役目を担うことになるかもしれない。
今後は意思決定支援チームがあちこちでできるはず。それは退院前カンファレンスかもしれない。
ケアマネのサービス担当者会議かもしれない。
ガイドラインは法的な強制力はありません。
みんなで話し合い「社会的合意」を形成していけば医療同意問題も「大丈夫、なんとかなる」。

なんとかなる
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須貝秀昭

須貝秀昭

NPO法人身寄りなし問題研究会 代表  「大丈夫、なんとかなる」

高齢者の相談窓口をしているときに「身寄り」問題を感じ、平成29年に有志で「身寄りなし問題研究会」を発足。代表を務める。「身寄りなし」軸にLGBT、依存症、ACP、風俗、生活保護など様々な社会課題の発信に取組んでいる。今年NPO法人化をしたのをきっかけに本業を退職し100日かけて沖縄から日本最北端宗谷岬まで徒歩で日本縦断しながら「身寄り問題」の啓発活動を行った稀有な人。

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