医療介護福祉の学び情報メディア

専門家コラム

理想のケアを目指して~介護スタッフと施設長の視点から~

現在の施設長という職について約5年経ちました。その直前までは特養の一介護スタッフとして13年ほど働いていました。 今回は「施設長」と「介護スタッフ」というそれぞれの立場で理想の認知症ケアに取り組み、失敗の連続から学んだ中から、一つでも皆さんのお役に立つことがあればと思い紹介させていただきます。

~異業種から介護の道へ~

私は住宅メーカー営業・企業や病院の総務経理の仕事に10年ほど就いてから介護の世界に転職しました。初めて介護の仕事に触れた時、「人に優しくしてお金をもらえるなんて!これは俺の転職だ!」と感動し、衝動的に介護の世界へ飛び込みました。許してくれたカミさんの懐の深さには今でも感謝しています。
33歳のオールドルーキーは、入職後半年で介護主任と対立しました(笑)。100歳の認知症ご利用者を「午前0時に必ず起こしてポータブルトイレに座ってもらう」という指示だったのですが、本人は毎晩大声をあげて大変嫌がりました。「なぜ嫌がることを無理に行うんですか?」と生意気な私は主任に意見しましたが、結局言いくるめられました。自分の想いを説明出来ず、歯痒くて悔しい思いをしたことを今でも鮮明に覚えています。

~パーソン・センタード・ケアとの出会い~

モヤモヤしながら仕事をしていた9年目、「認知症ケアマッピング基礎ユーザーコース」を受講しました。これは、認知症ケアマッピングとパーソン・センタード・ケアを学ぶ国内唯一の研修です。ぼんやりとしか理解していなかった認知症ケアに対し、自分の中に明確で太い柱が出来たと感じました。職場に戻り、すぐに施設長へ「我々に職場研修を開催させてください!」と直訴しました。
遅番終了後19時から20人ほど集めて、講義やロールプレイを1~2ヶ月に1回というハイペースで2年ほど実施しました。
初めは順調に進んでいたように見えましたが、私は燃えすぎて暴走してしまいました。自分の意見をスタッフに押し付け、意見が食い違えば上司にも噛みつく態度をとり、私は取り扱いが難しいスタッフになっていました。その結果、出勤している時はスタッフが一生懸命取り組んでいるように見えましたが、私が休みの日には「今日は相馬がいない!気楽に介護ができるな!」という声が上がっていたのです。この事実を知った時、「自己満足でしかなく、自分は裸の王様だった」とショックを受けました。

~転機が訪れる(2018年~現在)~

そんな想いを持ちながら13年が経った頃でした。現在の勤務先法人理事長である有田正知医師にお声掛けいただき、当時開設4年目であった今の勤務先介護施設の施設長となりました。
立場が変わり、理想実現のために燃えていましたが、以前の反省から「押しつけ」は避け地道に座学からスタートしました。しかし、研修内容はスタッフに活かされず、「認知症なんだから仕方ない」という気持ちが根底にあったため、想いがうまく浸透せずジレンマを感じました。なんとかしようと、数日間介護現場に入ってスタッフと一緒に考えることもありました。
ある日のミーティングでは、私が話したあとに小声で「綺麗事じゃ仕事はすすまねえんだよ」という声が聞こえました。思わずカッとなるところを我慢して「理想としているケアを全てやろうとは言わない。でも、一つでもいいから出来ることから取り組んでいこう!」という言葉に代えました。施設長に就任してから3年ほどはそんなことを繰り返していました。
ある時、恩師の一人である「パーソン・センタード・ケアを考える会」代表理事の村田康子先生から、「10年以上取り組んでいるある施設長さんが『最近になってやっと形になった』と仰っていました。相馬さんもこれからですね」とのお言葉をいただきました。「3年程度で浸透するなんて甘かった」と自分に喝を入れました。
それから2年が経過し、今に至ります。最近、外部研修に参加したスタッフが「外に出てみて施設長の言っていたこと意味が、やっと分かりました」と言ってくれて、自主的に研修を開催したいと申し出てくれました。もちろんすぐに了解し、実施してもらっています。
まだまだこれからですが、やっと芽吹いてきたこの大事なものを、あせらず丁寧に水をやって育て、やがて大きな花が咲くように、現場スタッフの後方支援をしていきたいと思っています。

最後に

・ポジティブな提案をしてくれるスタッフは、施設にとってとても貴重な存在です!「こんなことを施設長に言っても否定されるのでは・・・」とは思わず、まずは提案してみましょう!

・千里も道も一歩から!ちょっとずつでも職員の主体性を引き出す仕掛けを考えてみてはどうでしょう。そしてスタッフからのポジティブな意見には全面的に協力してみましょう!

  • 記事を書いた専門家
  • 専門家の新着記事
相馬房嘉

相馬房嘉

社会福祉法人ゆうしん特別養護老人ホームくるま乃施設長

住宅営業、企業や病院で総務経理を経て、ひょんなことから受けた介護実習で「これこそが私の天職だ!」と確信し33歳で介護の世界へ飛び込む。介護の現場でご利用者や認知症の人達と話し合いながら、日々新たな発見と成長を重ね、現在は新発田市の特別養護老人ホームくるま乃の施設長として勤務。その傍ら、認知症カフェモデレーターとして地域の認知症カフェ立ち上げや運営に関わったり、認知症ケアマッピングの上級マッパーとして認知症ケアのアドバイスや講演を行っている。

  1. 理想のケアを目指して~介護スタッフと施設長の視点から~

関連記事

PAGE TOP