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あなたを苦しめる「認知の歪み10パターン」とその対処法

ネガティブ感情を抱きやすい介護の現場

医療・介護の現場は、肉体的にも精神的にも負担がかかり、職員のストレスが蓄積されやすく、メンタル不調になる職員が多い業種とも言われています。例えば・・・

〇人手不足で心も身体も余裕がなくなる
〇職員間・多職種間の人間関係のストレス
〇職員、職種間の考え方の対立
〇上司・同僚・部下との関係、派閥
〇認知症のケア、利用者様の対応に苦慮する

このようなことが多くなると、日々の業務の中でネガティブなコミュニケーションや負の感情が生じやすくなり、職場の雰囲気も悪くなってしまいますよね・・・。
今回のコラムでは、このような日常のストレスを不適切に増幅させてしまう「認知の歪み」について紹介し、その具体的対処法についてご紹介します。

ネガティブ感情にも役割がある

そもそも私たちは、情報を処理する際に、ネガティブな情報や出来事に対して、ポジティブな情報や出来事よりも強く反応し、より多くの注意を払う傾向があります。
それをネガティブ・バイアスと言います。
ネガティブ・バイアスは原始の本能とも呼ばれ、はるか昔の人類が狩猟採集生活を送っていた時代、ネガティブなことに注目しなければ、生き延びることはできなかったからだと言われています。
したがって、ついつい悪いところに意識が向いてしまうのは自然なことでもあり、生きていくために必要なことでもあります。
悲しみ、怒り、不安、恐れ、羞恥、苦悩、劣等感、不信、挫折感など、様々なネガティブ感情ありますが、ネガティブ感情にも以下のような役割があります。

〇危険を察知することができる
〇心のはたらきを制限し、目の前の危機に対処する
〇自分が無理をしていることに気づく
〇同じ思いを経験している人への理解が深まる
〇変化や成長のきっかけとなる

 危険を察知し冷静さを保ちながら目の前のことに対処する、そして自分への気づきが自己の変化と成長を生み出す。
私たちが抱きやすいネガティブ感情は、私たちが危機に対処し成長するための大切な感情とも言えますね。

不適切で不当なネガティビティ

ネガティブ感情も大切とする一方で、ポジティブ心理学者バーバラ・フレドリクソンが指摘する「不適切で不当な」ネガティビティもあります。
例えば「新人が初日から挨拶がしっかりできなくて、過度にイライラしてしまう」ことがある場合、その感情自体にメリットはあるでしょうか?
ほかにも「いつも自分のコンプレックスが気になって落ち込んでしまう」ことは、心の健康を維持することに役立つでしょうか?このように考えてしまう背景には、様々な経験による自分なりの考え方や信念が影響していますが、その中には間違ったものも含まれていることがあります。
それが、いつもあなたを苦しめ、イライラしてしまうもとになっていたとしたら、とても勿体ないことですよね。実はこのような不適切で不当なネガティビティは、「認知の歪み」から生じていると言われています。
以下に認知の歪みの代表的なもの10パターンを解説します。
ご自身の考え方、捉え方を振り返りながら、10パターンの中で当てはまるものがあるかどうか、チェックしてみましょう。

認知の歪み10パターン   

物事を白か黒かで判断する態度で「いつも完全でなければならない」などと思いこむ思考。例えば、仕事で一度でもミスを犯した場合に、「私は完璧ではない」と自己評価し、自分を全面的に否定してしまうことがあります。

1つ悪いことが起こると、全てダメだと考える態度。例えば、介護職員が理解力の低下している認知症の方に対し「この方は何を言っても理解できない」と一般的に考え、その方の個々の言動や意図に対して理解しようとする姿勢が欠如することがあります。

たった1つの悪いことにこだわって、そのことばかりをクヨクヨ考える態度。例えば、上司がアドバイスをした際、職員が「私の仕事の仕方を否定されているのではないか」という不安や疑念を繰り返し考えてしまうことがあります。

良いことを無視して、いいことや取るに足らないことも、全部悪い出来事にすりかえてしまう思考。例えば、職場で発生した問題や困難な状況に対して、職員が問題の解決よりもその難しさや苦労ばかりに焦点を当ててしまい、良いことには目を向けず職場の状況を否定的に考え込むことがあります。

事実と異なる悲劇的な結論をすぐに出してしまうこと。例えば、職場で新しく配属された職員が最初の数日で何かミスを犯した場合、「この人は仕事ができない」と結論づけてしまうことがあります。

失敗を大げさに考え、長所を過小評価する考え方。例えば、「この利用者はもう高齢だから何か新しいことを覚えることは難しいだろう」と過小評価することで、利用者の可能性を制限してしまう可能性があります。

自分の感情が真実を証明すると考える態度。例えば、上司が提案や指導を行った際、職員が「この人は私の意見を尊重していない」と感情的に決めつけてしまうことがあります。実際には建設的なフィードバックや協力の意図がある可能性があります。

「こうすべき」「こうあるべき」と考える態度。例えば、利用者の個々の状態や意向を尊重する必要があるのにもかかわらず、利用者が特定のケアや活動に参加しない場合「この利用者は毎回参加すべきだ」と考え、利用者に対して無理に参加を促すことがあります。

間違った認知で自分や他人にレッテル貼りをしてしまう態度。例えば、利用者が一度でも不機嫌な態度を見せた場合、「この利用者は難しい方だ」とレッテルを貼り、その後の対応やコミュニケーションに悪影響を及ぼすことがあります。実際にはその態度が一時的であったり、背後に理由があったりする可能性があります。

よくない出来事を理由もなく自分のせいにする態度。例えば、仕事で一度のミスやケアの失敗があった場合、「この利用者のケアに失敗したのは私の責任だ」と自責の念にかられることがあります。実際には複雑な状況や他の要因も影響していた可能性があります。

認知の歪みを解消する具体例

1) ABCDE日記 

最初にご紹介するのが、不適切な信念や思考パターンを解明するのに役立つアルバート・エリスのABC理論です。ABC理論については、以前紹介したコラム「逆境に負けない心『レジリエンス』を高める」(https://care-college.jp/expert-column/increase-resilience/)でも紹介しましたが、今回はABCの続きDEについてもご紹介します。
Aは「ActivatingEvent(出来事)」、Bは「Beliefs(信念・捉え方)」、Cは「Consequences(結果・反応)」とされ、出来事(A)に対して、信念・捉え方(B)が結果・反応(C)に影響を与えていると考えます。
例えば、「失敗して上司に叱られた(A)」に対して、「評価が下がったに違いない(B)」と捉え、「やる気がない。仕事にいきたくない(C)」と反応するパターンがあったとします。
そこで、D反論する(Disputation)を行います。
ここでの反論は、さきほどの「B捉え方」に対する反論または違う視点での考え方を追加することです。
1回の失敗で能力が低いと言えるのか?叱ってくれる上司がいなかったら?この失敗で学んだこともあった。といった風に捉え方に対して反論したり、違う視点の考え方を追加したりしていきます。そして最後のプロセスがE元気づけ(Energization)です。
ここでは当初の捉え方を新しい解釈へ統合していきます。先程の反論ででた考えを取り入れていくことがポイントです。
「仕事で失敗して上司に叱られたけど、大惨事にいたることなく最低限の対処はできた。上司のおかげで、失敗から学べたこともたくさんあった。この失敗が次の成功につながるよう頑張っていこう!」といった風に、最初の反応「やる気がない。仕事にいきたくない」を変えることができました。自分の考え方の癖を知り、対処法を身につけるのに効果的だと言われていますので、できれば日記として1日1つでもよいのでABCDEで整理して、習慣化することをおすすめします。

2)ネガポジ対話

次はグループで行うと効果的な方法です。職場において以下の方法で定期的に対話をする時間を創ることによって、認知の歪みへの気付きとネガティブ感情の解消が期待できますので、職場での実践をオススメします。

  1. 小グループ(4~6名程)で行います。
  2. 最近起こった「ネガティブな出来事」について、順番に語っていきます
  3. 1人の人が語ったあと、それ以外の人は語り手のネガティブ感情に共感します(「それはつらかったですね」「その気持ちわかります」など)
  4. そのあと、ネガティブ感情が解消されるような「ポジティブな認知」を皆で考え、意見を出し合っていきます(「〇〇なところは良かったことだよね」「頑張って乗り越えたあなたはすごい!」など)
  5. 1人の人が終わったら、次の人へと順番を回していきます。

前向きな展望に変える感謝の力

医療・介護現場において、認知の歪みやネガティブ感情の影響を最小限に抑え、ストレスに対処しながら業務にあたっていきたいものです。そのためには、まずは自分自身の認知の歪みに気付き、個々の事象に対しABCDEで整理したり、ネガポジ対話のように他者からの新しい視点や気づきを得る機会を持つことが重要です。
そして、私がコラムやブログでお伝えしている「感謝すること」も重要な役割を担います。認知の歪みが忍び寄ったとき、感謝の力はその歪みを修正する手段となります。例えば、ミスが生じた場合でも、その経験から得た教訓に感謝し、成長の機会と捉えることができます。感謝の視点は、認知の歪みを前向きな展望に変え、挫折を成長への階段に変えることができるのです。

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小山智彦

小山智彦

認定作業療法士 感謝の伝道師

日本作業療法士協会 認定作業療法士。介護現場の人間関係やチームワークで悩む日々の中、どん底の時に感じた深い感謝の想いと10000回の“ありがとう”に触れ、「人やチームの問題は感謝で解決できる!」と確信。 感謝を伝える「サンクスカード」の普及と独自の理念「サンクス道」を展開する。国際学会での発表、介護情報誌での執筆活動、研修や大学での講義など行い、講義では感動で涙する受講者が続出している。 ★「感謝の文化を作ることで『利用者様への感謝』が増え、ケアする人もされる人も幸せになる『寄り添いのイノベーション』が生まれます。私自身のこれまでの経験と想いを、コラムを通じて多くの方へ伝えていきたいです。

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