アンガーマネジメントとは?
アンガーマネジメントは、怒りやイライラなどの負の感情を理解し、怒りと上手く付き合うためのスキルです。アンガーマネジメントを身につけることで、怒りの一時的な感情に流されず、冷静に状況を見ながら行動できるようになります。介護現場では、職員間だけでなく利用者様との間においても、様々な感情が影響し合っています。
また様々な年代、性格、職種…そして多様な価値観をもった職員が共に働いています。そのため、価値観の相違から、ついつい感情にまかせた言動や行動をとってしまい、負の感情やチームのコミュニケーション不全、人間関係の悪化につながることもあります。また怒りの感情はパワハラや虐待の要因の一つにもなるため、注意が必要です。
一方で、怒りも人間がもつ大切な感情の一つです。今回のコラムでは、怒りのメリット・デメリットに触れ、感情の暴走を止める「アンガーマネジメント」と、自分の感情を客観的に捉えるための「メタ認知」について、その具体的な実践方法をご紹介します。
そもそも「怒り」とは何か?
「怒り」とは、一般的には強い憤りや敵意、不満などの感情を指し、個人が他者や状況に対して感じる不快や不公平に対する反応として現れることがあります。例えば、介護現場においても人手不足やケアの問題など、職場全体でのストレスが常に存在しています。このような状況下では、職員同士のコンフリクト(対立)や上司・部下における感情の摩擦などが怒りを引き起こす要因となることがあります。
怒りは自然な感情であり、時には適切な状況下での表出も重要ですが、コントロールを失うと人間関係やチームワークにおいて取り返しのつかない結果をもたらすこともあります。したがって、怒りの感情を上手くコントロールすることは、個人の心の健康、人間関係やチームワークの健全性を保持する上で、非常に大切な要素になります。
怒りのメリット・デメリット
一方で、怒りは「全て悪」ではありません。怒りも人として大切な感情の一つです。ここでは、怒りのメリットとデメリットについてご紹介いたします。
怒りのメリット
①自己防衛
怒りは自己を守るための反応として機能することがあります。他者からの攻撃や侵害に対して、怒りを感じることで自己を防御しようと反応します。怒りは「大切なもの・価値観を守るため」に生まれます。自分自身の価値観、自分らしさなど、大切な自分を失わないようにするための防衛感情とも言えます。
②自分を動かすエネルギーになる
怒りは、不満や不公平に対処し、問題を解決するための動機付けとして機能することがあります。負けた時の悔しさや、馬鹿にされた時の怒りをエネルギーにして、状況を改善するための行動を起こすことへつながっていきます。
③真剣な気持ちが伝わる
怒りは、自己や他者の権利を主張するための手段として使用されることがあります。相手が本気で怒って伝えてくる主張は、真剣さや必死さが伝わってきます。逆に言えば、私たちが本気で何かを伝えようとする場合、時には怒るくらい真剣に訴えることも必要なのかもしれません。
怒りのデメリット
①人間関係・職場の雰囲気の悪化
怒りは、人間関係や職場の雰囲気の悪化につながっていきます。
例えば、職員のイライラや怒りは、職員間・他職種間で攻撃的・威圧的なコミュニケーションを生み、それらが摩擦や誤解を作りだし、人間関係の悪化につながっていきます。
そして、このように感情が管理されず、業務上の問題や不満が解決されないまま放置されると、職場の雰囲気は目に見えて悪化していきます。
②虐待やパワハラにつながる
介護現場において、怒りが虐待につながる可能性があります。
介護者が怒りやストレスの感情を適切にコントロールできない場合、その感情が不適切な行動や言動につながることがあります。例えば、介護者がケアの場面で利用者様に対して怒りを抱いてしまった場合、その怒りを暴力等の身体的虐待や心理的虐待として表現されてしまうことがあります。
したがって、怒りが適切にコントロールされず放置されると、介護現場で虐待が生じるリスクが高まります。
これは、パワハラも同じです。
怒りの感情がコントロールを失うと、上司から部下への不適切な言動やハラスメント行為につながっていくことは容易に想像できます。
③怒りは伝染し、チームの生産性が低下する
職場において感情的に怒ることが多くなると、話しかけにくくなったり、相談しにくくなったりしてしまい、円滑なコミュニケーションが行われなくなります。
またストレスも増大し、集中力の低下、注意の散漫など個人のパフォーマンスも低下します。
さらに、怒りに限らず、喜怒哀楽の感情は周囲に伝染していきます。これを情動感染と呼びます。
ポジティブな感情はチームの良質なコミュニケーションを促進していきますが、怒りなどネガティブな感情がチーム内に蔓延すると、コミュニケーション不全やパフォーマンスの低下が生じ、結果的にチームの生産性が低下していまいます。
人は怒りに対して怒りで反応します。そして、人は身近な人に対してよりその感情が強まる特性もあるので、職場のチーム内においては特に注意が必要です。
アンガーマネジメントの実践方法
①6秒ルール
人は怒りを感じてから、冷静に考えられるようになるまで6秒かかると言われています。
この6秒ルールは、怒りや感情が高ぶったときに冷静さを保ち、感情的な反応を抑制し、より建設的な対処方法を見つけるための手法として知られています。具体的には、怒りやイライラが湧き上がったときには、まず息を深く吸い込んで6秒間数えます。
この間に、自分の感情や状況について客観的に考えることを意識します。少しずつ感情が収まり、冷静な状態に戻った後に、より理性的な判断をとることができるようになります。このルールは、感情的な暴走を防ぎ、怒りやイライラが適切なレベルに抑えられることで、人間関係や仕事上の問題を解決することに役立ちます。
また、ネガティブ感情やストレスのコントロールスキルを向上させるのに役立つと言われています。
②深呼吸する
アンガーマネジメントにおける深呼吸は、怒りやストレスなどの強い感情を抑えるのに役立つ技術の一つです。深呼吸は、感情的になり視野が狭くなっている状況を落ち着かせ、冷静な状態に戻るのに効果的です。具体的には、座位か立位で、背筋を伸ばし、リラックスした姿勢をとります。
腕や足はゆっくりと伸ばしてリラックスさせます。そして、鼻からゆっくりと息を吸い込みます。息を吸うときに、お腹や胸がゆっくりと膨らむように意識します。吸い込むときは、数秒間かけて徐々に息を吸います。
その後、口からもゆっくりと息を吐き出します。吐くときにも、お腹や胸が徐々に沈んでいくように意識します。息を吐くときも、数秒間かけて徐々に息を吐きます。
これを繰り返していくことで、感情的になっている心を落ち着かせ、冷静な判断ができる心理状態に近づくことができるでしょう。
自己を客観視する「メタ認知」とは?
メタ認知とは、「自分が物事を認知している状態を客観的に認識している状態」のことを言います。例えば、イチローの言葉で「自分のナナメ上にはもうひとりの自分がいて、その目で自分がしっかりと地に足がついているかどうか、ちゃんとみていなければならない」と言われたことがあります。
イチローは打席に立つときに、自分自身を客観的に冷静な目で認知することを実行していた、と考えられます。そしてこのメタ認知の中でも「感情のメタ認知」が低いと・あるいは高いとどうなるのでしょうか。
感情のメタ認知が低いと感情的になったときに「イライラする!あの人のせいだ!」「不安だ。もう何をしてもうまくいかない」と思い込みが強く、感情に任せた行動をとりやすくなります。一方で感情のメタ認知が高い場合「なんか私ちょっとイライラしている」「あ、今不安になっている自分がいる」といった風に自分の感情を一歩引いて客観視できます。その結果、状況を俯瞰し冷静に考え行動することへとつながっていきます。
このメタ認知を高めるためのワークを一つ紹介します。ご紹介するのは「ジャーナリング」という手法で、「書く瞑想」とも言われています。用意するのは紙とペンだけで、頭に思い浮かんだことをありのままに書くだけです。事実や自分の気持ちなどを、あまり深く考えずに、短時間集中して書くことがポイントです。
これを行うことで、自分を客観視することへとつながり、自分自身の理解や気づき、気持ちの整理、ストレス軽減につながると言われています。時間は5分からでもよいです。
短時間で集中して書くこと、習慣化することが大切で、メタ認知を高めることで、自分自身が感じている感情を俯瞰し、適切に対処できる能力が身に付きます。また、ジャーナリングはテーマを決めて行う方法もあります。例えば今日よかったこと・感謝したことなどをテーマにしてもよいでしょう。
「感謝の心」のマネジメント
アンガーマネジメントは他にも様々な方法があります。まずは、メタ認知を高め自分自身を客観視し、自分の思考のパターンや感情の特性に気付くことが大切です。その上で、私がおすすめするのは「今日、感謝したこと」をテーマにしたジャーナリングです。一日の終わりに、その日感謝したことに意識を向けることで、ポジティブ感情を増やし、不適切な怒りの感情の増幅を抑えることができます。
感謝することは、どんな些細なことでもかまいません。「〇〇さんが笑顔で挨拶をしてくれた」「○○さんが業務を手伝ってくれた」など日常にはたくさんの「ありがとう」があることに気づき、心が前向きで幸せな感情で満たされるようになります。
アンガーマネジメントから、感謝の心のマネジメントへ。以前のコラムで書いた「感謝の心の良いチームを創る」もぜひご覧ください
・「感謝の心の良いチームを創る」
https://care-college.jp/expert-column/heart-of-gratitude/