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専門家コラム

感謝の心が良いチームを創る

なぜチームワークに感謝の心が大切なのか

 多くの職種が働く医療・介護現場において、職員・職種間の連携や協働性は最も重要な要素の一つと考えられています。しかし、このような要素は、単なる役割分担だけでは達成されるものではありません。お互いの職域を超えて支え合い「感謝し合う心」のつながりが、チームの連帯を強化し、チームとしての成果を向上させることにつながっていきます。そして、感謝し合うコミュニケーションは、それぞれの職員・職種が持つ得意なスキルや知識、経験、アイディアを活かし協働することを促していき、チームにより良い成果を生み出していきます。さらに、チームワークを発揮し、職員同士の結束力が高まると、それぞれの仕事に対するノウハウや情報がオープンに共有されやすくなり、チーム全体の問題解決力が高まっていきます。
 医療・介護の現場は、患者様やご利用者様だけでなく、チーム内でも複雑な課題に直面することが日常茶飯事です。感謝の文化が浸透しているチームは、個々の貢献が認められ、その結果、メンバーのモチベーションも高まっていきます。また感謝の心は相手を尊重することへとつながります。お互いに尊重しあえる関係性をつくることは、プロフェッショナルとしての情熱と使命感を共有し、個人だけでなくチーム全体の成長につながっていくでしょう。

感謝を失ったチームはどうなってしまうのか

 反対に、感謝の心が欠如しているチームはどうなってしまうのでしょうか。感謝の心やコミュニケーションを失ったチームは、個々のパフォーマンスや職員同士の関係性に深刻な悪影響を及ぼす可能性があります。
 感謝の心を失うと「入浴介助を手伝ってもらって当然」「こんな仕事できて当たり前」など、相手に配慮し思いやるコミュニケーションが減少し、反対に批判や職員同士の対立(コンフリクト)が一気に広がっていきます。その結果、個人主義が台頭し、チーム内の協力体制が崩れていきます。そして人間関係の葛藤や対立がさらに増加していくと、チーム全体の機能不全へとつながる悪循環が生まれてきます。
 このようなチームはコミュニケーション不全となり情報共有が不十分になるため、患者様や利用者様の情報のやりとりでも誤解や不確実性が生じ、質の悪いケア、事故や怪我へもつながっていきます。また職員のモチベーション低下にもつながり、離職やメンタル不調につながるケースも増加する可能性が高まります。

職員には感謝の気持ちを伝える「スキル」が必要

 では、チーム内に感謝のコミュニケーションを生み出す上で、課題となることはどのようなことでしょうか。その一つに感謝の気持ちを伝えるスキルの問題があります。感謝は感情です。誰でも仕事をしていれば「有り難い」と感じることはあると思いますが、その気持ちをどのような言葉を選んで、どのようなタイミングで、また非言語的コミュニケーション(表情、態度など)も大切にしなければ、感謝の心は伝わりにくく、言葉の選択やタイミングを間違えると十分に伝わらないで終わってしまうケースも多くあります。
 例えば、日常の業務で忙しい中、すれ違うときに「昨日のイベントで、手伝ってくれてありがとね」と言われた場合、悪い感情は抱かないと思いますが、一瞬の言葉のやり取りのため十分に感謝の心が伝わっているとは言えません。一方で、休憩時間や少し落ち着いた環境の中で「昨日のイベント、〇〇さんが優しくみんなに声掛けしてくれたおかげで、とても良い雰囲気が作れたよ。忙しい中手伝ってくれて本当にありがとね」と笑顔で伝えられたとしたらいかがでしょう。先ほどのすれ違いざまに言われるより、何倍も感謝の心が伝わるのではないでしょうか。
 このように、感謝の心と、それを伝える「スキル」は、感謝の文化をチーム内で醸成していく上で、とても重要な要素になります。それでは、感謝の心と伝えるスキルをカバーしてくれるツール「サンクスカード」について紹介いたします。

気持ちが伝わる「サンクスカード」の活用方法 ※画像ファイル名:様々なデザインのサンクスカード

 サンクスカードは、感謝の気持ちを伝えるためのカードで、学校や企業、医療・介護の分野等でも導入している施設は増えてきています。それほど、チームやコミュニティにおいて、感謝の心や言葉のコミュニケーションが重要視されている傾向が強まっていると考えられます。サンクスカードの運用方法は様々な方法がありますが、専用のポストを作り、職員は自由にメッセージを書きポストに投函する、といった仕組みで行っている施設が多いようです。
 カードの大きさは様々で、名刺サイズを使用しているケースが多いですが、私は葉書サイズを推奨します。理由は二つあります。1つ目の理由は、感謝のメッセージに加え、背景にあるエピソードや、感謝以外の感情(嬉しい、楽しいなど)も一緒に書くスペースを確保できるからです。サンクスカードに「昨日は話を聞いてくれてありがとう」と一言書いてあるより、「昨日は話を聞いてくれてありがとう。不安な気持ちで仕事に集中できていなかったけど、〇〇さんが親身に話を聞いてくれたおかげで、気持ちが前向きになったよ。」と書いてあった方がより伝わり、もらった方も嬉しい気持ちになります。もう1つの理由は、短いメッセージを即時的に書くより、少し文章を考えて自分自身の感謝の気持ちを味わいながらじっくり書くことで、マインドフルネスになるためです。深呼吸し心を落ち着かせて、葉書サイズのカードに感情を味わいながら書く作業は、書く瞑想とも言われるジャーナリングと同じ効果を生み、幸福感やポジティブな気持ちに繋がっていくでしょう。
 また、サンクスカードを導入してから最初の2~3か月は、自然とポストへの投函枚数も増えますが、それ以降はマンネリ化し、活動がフェードアウトしてしまうケースも少なくありません。その際は、カードのデザインを変えてみる(季節のカード、ハロウィンやクリスマスなど)、サンクスカードを用いたイベントを企画する、意識的に書くサンクスウィークをつくるなど、職員がカードを書くきっかけをつくることで、マンネリ化を防ぐことが大切になってきます。また素敵な感謝のエピソードが書かれたカードや、カードにまつわる良い出来事や変化などを職員間でシェアすることで、カードを書くモチベーションに繋がることもあります。

最も感謝を表現すべきはリーダーである

 チームワークにおいて「クロスオーバー」という現象があります。これは、上司と部下や同僚同士など、ある人の感情や態度が同じ環境に置かれた別の人に伝播する現象(島津,2014)のことで、チームの中ではリーダーが最も影響を与えやすい立場であると考えられます。そのため、サンクスカードを書くことにより、もっともチームに影響を与えることができるのは、チームリーダーなのです。私が職場で実施したサンクスカードに関するインタビュー調査では、リーダー自身が感謝の心を大切にすることで、個人レベルだけでなく対人レベルにも影響及ぼし、それが良循環を生む可能性があることがわかっています。例えば、感謝を感じ・伝える頻度が向上(個人レベル)すれば、対人関係の改善(対人レベル)につながり、結果としてさらに感謝する意識が高まる(個人レベル)などといったプロセスが考えられます。リーダー自身も成長し、チーム全体にもポジティブな影響を生み出すことができます。


 最後に、ある介護リーダーが部下にサンクスカードを書き続けた取り組みについて振り返った感想を紹介します。「リーダーの発する言葉が周りに与える影響は大きいと思いました。マイナスな言動は、簡単に相手に不快な影響を与えかねません。サンクスカードを通して、どんな状況であっても『ありがとう』の言葉をかけるだけでプラスの力が働き、チームや組織が変わっていくのを実感できました。リーダーとして不安な事が多かったのですが、まずは『人の良い所を見つける力』を養うことができ、チームをまとめる立場の自分にとっては大きな自信となりました。ユニットの環境改善を図りたいと思って始めた活動が自分自身を変え『自分が変われば、周りも変わる』ということに気づくきっかけになりました。」
 感謝の心が良いチームを創ります。そして、良いチームには多様な職員と多様なつながりの在り方があります。お母さんのような職員に悩みを聞いてもらったり、心が少し弱い所も優しく受け止めてくれる先輩がいたり、前向きに働いている70歳の職員から元気をもらったり…。困難や強いストレス、不安に苛まれたとき、人は孤独では乗り越えることができません。人もチームも、お互いを分かり合い、認め合い、時には我慢したり、感謝の言葉で支え合っていく…。人を大切にし感謝の心とコミュニケーションを生み出せるチーム、そして感謝の心を大切にするリーダーの存在が、いま医療・介護の現場に必要なのではないでしょうか。

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小山智彦

小山智彦

認定作業療法士 感謝の伝道師

日本作業療法士協会 認定作業療法士。介護現場の人間関係やチームワークで悩む日々の中、どん底の時に感じた深い感謝の想いと10000回の“ありがとう”に触れ、「人やチームの問題は感謝で解決できる!」と確信。 感謝を伝える「サンクスカード」の普及と独自の理念「サンクス道」を展開する。国際学会での発表、介護情報誌での執筆活動、研修や大学での講義など行い、講義では感動で涙する受講者が続出している。 ★「感謝の文化を作ることで『利用者様への感謝』が増え、ケアする人もされる人も幸せになる『寄り添いのイノベーション』が生まれます。私自身のこれまでの経験と想いを、コラムを通じて多くの方へ伝えていきたいです。

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