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専門家コラム

身寄り問題に挑む

身寄り問題とは

高齢者の相談窓口である地域包括支援センターの仕事をしていると様々な相談を受けます。最近多いのが「身寄り」問題です。身寄りがいないのでアパート契約できない、就職できない、施設入所できない、手術のときに立会を求められた、孤独死が怖い…我が国は現在でも家族がいるのを前提としています。
赤ちゃんのとき、けがをしたとき、病気になったとき、障害を負った、介護が必要となった、そして死んだとき…まさに生老病死すべての場面において家族による支援が当然とされています。まさに制度のはざまにあるのが「身寄り問題」でしょう。そんな現状を危惧し自ら発起人となり専門職(ケアマネジャーや医療相談員、弁護士等)の有志に声をかけて2017年6月に任意団体「身寄りなし問題研究会」が発足しました。

身寄りなし」の定義と三大課題

「身寄りなし」の法律的な定義はありません。研究会では「家族・親族がおらず、またはいても疎遠である、関係性の問題等で家族・親族からの支援が受けられない方」と定義づけしています。
「身寄り」問題は課題が多岐にわたり漠然としています。しかし解決すべき明確な課題を3つに分類しました。①医療決定 ②金銭管理 ③死後対応。どんな問題も細かく見て行けば必ず解決策があります。物事を大きくとらえ過ぎないことが肝心。そして逆にこの三大課題を解決する策があれば必要以上に「身寄り問題」を怖がる必要はなくなります。 

若者身寄り問題

高齢になると「身寄り」問題が顕在してきますが若者でも「身寄り」の問題はあります。虐待やなど、様々な理由で家族と
疎遠になっている方がいます。そうなると就職時の身元保証や家族からの経済的な支援が得られない若者は職業選択をしていく時間的、精神的な余裕がありません。そのため「夜のしごと」を現実的な選択肢として想定されます。そして「夜のしごと」の多くは、すぐに居住や仕事を与えてくれて就労時に身元保証を求められることもありません。さらに多くは給与がよく、シフトの自由もきくので、これほど柔軟で素早い対応ができる公的福祉制度はないです。そして「夜の仕事に福祉が負ける」と言われる所以でもあります。もしかしたら「夜のしごと」は身寄りなし若者や生活困窮者のセーフティネットになっているかもしれなません。いくら否定しても「夜のしごと」は絶対なくならない。否定や排除せずに受け入れたうえで福祉や社会とつながる方法を考えるべきだと思います。 

本人が希望するものを社会が本人の「身寄り」と認める

例えばマイノリティー(性的少数者)と言われるLGBT。「この人が自分にとっての身寄りである」と本人が主張しても、社会がこれを認めないことがあります。新潟市は令和2年4月1日より県内初で同性パートナーシップ制度が開始となりました。日本では同性カップルは法律的に婚姻関係を結ぶことはできません。制度に法的拘束力はないが、婚姻に相当する「パートナー」と行政が認めるという制度です。これは性的少数者だけの問題ではなく「身寄り」の問題でもあります。制度ができたことによって新潟市では市営住宅の入居が可能になりました。これが広まれば今後は民間企業の理解も進み、携帯電話の家族割引や生命保険の受取、アパートの身元保証、手術での同意のサインなど、親族しか認めない制度や慣習に関し本人が希望するものを社会が本人の「身寄り」として認めることとなるでしょう。ご本人が認めるもの、本人が希望するものを社会が本人の「身寄り」と認めるという社会的合意の形成が必要です。 

身寄りなし支援ガイドラインと互助

地域全体で『身寄り』問題を直視し,解決に向けて行動する必要があります。新潟県魚沼市では令和2年9月に身寄りなし支援ガンドラインができました。身寄りなし問題研究会もアドバイザーで参加しました。自治体によるガイドラインの作成は県内初となります。魚沼市は、行政はもとより社会福祉協議会やケアマネジャー、そして医療関係者などが一生懸命働きかけをしてくれました。このように行政や地域が本気を出せば「身寄りなし」解決の道筋はつきます。しかし、ガイドラインは法的な強制力はないため関係者に向けてガイドラインを用いて研修会を重ね「社会的な合意」が必要となります。このガイドラインができた当初は新型コロナが流行し始めたころで研修会はできなかったため「社会的な合意」を広めていくのがこれからの鍵となります。「身寄り」のない人は「家族による支援」を受けることができない。家族という「自分のことを説明してくれる人」がいない場合、病院や施設は身寄りのない人の受入れを時に排除をする。もしくはケアマネジャーや民生委員にさまざまのことを家族の代替として依頼する。そんな業務外のシャドーワークに疲弊する支援者も多いです。日本は30年以上経済発展していません。介護保険を含めた公的サービスがこれから良くなるとは思えず頭打ちでしょう。今後は「自助」「互助」が否応なしに必須になります。身の回り品の準備、入退院の付き添い、手術の立会など手間はかかるが専門性もいらない支援が多数あります。そこで身寄りなし同士が支え合う「互助会」はいかがでしょうか。今後は互助会の結成支援も身寄りなし問題研究会も力を入れていきます。

地域共生社会

「地域共生社会」とは、地域・分野ごとの縦割りや、「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が参画し、世代や分野を超えてつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会をいいます。個人的には「身寄り」問題を解決できなければ「地域包括共生社会」は絵にかいた餅になりかねないと考えます。『身寄り』問題は,排除の問題であり,権利擁護の課題です。まず,『身寄り』がなくても居住・医療・介護・就労等から排除されないような支援や仕組みが必要とされます。『身寄り』がないことはもはや「例外」ではなく,「第2のスタンダード」であると言ってもいいでしょう。人が自分のことを自分でできないとき誰がそれを支えるのか。「地域で」「みんなで」と答えたいです。最後に身寄りなし問題研究会のスローガンを紹介します「大丈夫、なんとかなる」です。

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須貝秀昭

須貝秀昭

NPO法人身寄りなし問題研究会 代表  「大丈夫、なんとかなる」

高齢者の相談窓口をしているときに「身寄り」問題を感じ、平成29年に有志で「身寄りなし問題研究会」を発足。代表を務める。「身寄りなし」軸にLGBT、依存症、ACP、風俗、生活保護など様々な社会課題の発信に取組んでいる。今年NPO法人化をしたのをきっかけに本業を退職し100日かけて沖縄から日本最北端宗谷岬まで徒歩で日本縦断しながら「身寄り問題」の啓発活動を行った稀有な人。

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