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楽観主義のススメ

楽観主義は成功しやすい

 皆さんは、楽観的でしょうか。悲観的でしょうか。物事を楽観的にとらえる「楽観主義」は、幸せ(Well-being)を高める重要な要素の一つだと言われています。また、楽観的な人の方が、学校や職場、スポーツで好成績をあげることが分かっています。さらに、健康面も良い効果があると言われており、免疫力が高く長生きしやすいということが証明されています。
 今、介護の現場は人手不足の問題を抱え、認知症の方への対応など精神的な負担が多くなってきているため、悲観的になりやすい職場だとも考えられます。特に介護職員は利用者様やその家族と深く関わる機会も多いため、時には感情的な負担を抱えやすく精神的に疲労が蓄積されやすい傾向があります。
 今回のコラムでは、楽観主義のメリットを解説しながら、日常の悲観的になりやすい場面であっても、楽観的に捉え前向きになるための考え方のコツをご紹介します。

こんな楽観主義はNG

 最初にお伝えしますが、楽観主義であれば何でもよいというわけではありません。楽観主義には非現実的楽観主義と現実的楽観主義があります。非現実的楽観主義は現実から目を背け、ポジティブな面だけに注目し盲目的に将来を予測、自分には全く問題ないと幻想的な万能感を抱く傾向があります。この場合、問題を解決しようとせず努力することも怠るため成長を妨げる要因になります。  
 一方で、現実的楽観主義の場合は、ポジティブなこともネガティブなことも両方を認識。ネガティブなことは冷静に状況を把握し、解決できない問題からは距離をとる。その上で「上手くいくはずだという希望と信念に満ちた未来への前向きな姿勢」を保ち、自分のエネルギーをどこに注いだら良いかを見定め、解決できる問題に集中します。つまり現実に向き合い、柔軟に考え行動できることができるということです。

楽観主義のメリットとは?

 それでは、楽観主義であることのメリットについてご紹介します。これまでの研究で、楽観主義には様々なメリットがあることがわかっています。業務やケアの場面、チームメンバーとのコミュニケーションや連携の中で、どのようなメリットが考えられるのか、そのメリットを5つご紹介します。

●ネガティブな出来事に対する対処能力が高い
 例えば、ケアの中で何かしらの失敗があった場合。楽観的な人は失敗を負担と見なすのではなく、「学びの機会」と捉えます。楽観的な人は失敗から改善点を見つけ、同じ過ちを繰り返さないように、前向きに努力することができます。
 他にも、忙しい業務の中で急な緊急事態が発生した場合でも、楽観的な人は他のスタッフと協力して、効果的な対応策を検討し、業務を円滑に進めるために努力する傾向があります。そのため、共に働く仲間と良好な関係を気付きやすく、ストレスの軽減や問題解決につながります。

●ネガティブな出来事から学びや気づきを得る
 例えば、チームメンバーや上司から批判的なフィードバックを受けた場合であっても、楽観的な人は他者の意見を受け入れ、協力的な態度でそれを受け止めることができます。そして、チームメンバーと共に働き、批判から得た学びや気づきを活かしながら、協力して問題解決に取り組む姿勢を持つことができます。
 他にも、利用者に対する新しい介護計画が期待した効果を発揮せず、問題が発生した場合でも、楽観的な人は問題をただ悲観的に嘆くのではなく、その原因を明らかにし、効果的な解決策を見つけるために行動することができます。そのため、楽観的な人は、柔軟性を持ち、困難な状況に対して前向きな態度を維持することができるのです。

●逆境や困難なことに対し、ストレスを感じにくい
 例えば、新型コロナウイルスが流行した時のように、生活や業務が大きく変わるような時でも、楽観的な人は柔軟性を発揮し、変化に対応する能力が高いと言われています。楽観的な人は柔軟なマインドセットを持ち、新しい状況に対して素早く適応するよう行動するため悲観的になりにくい傾向があります。
 また、急なトラブルが発生した場合でも、楽観的な人は同僚やチームメンバーと協力し、助け合うことを重視するため、協力体制を築くことでストレスを分散させることができます。これらの理由により、楽観的な人は逆境や困難な場面に対して冷静かつ前向きな態度を保ち、ストレスを感じにくくなります。

●問題から逃げず、問題と向き合うことができる
 楽観的な人が介護現場で悪い状況にも向き合える理由は、楽観主義が問題を避けるのではなく、「成長する機会」と捉え、積極的に解決しようとする姿勢を持っているからです。例えば、対応が難しい利用者様へのケアについて、十分な対応策を講じることが困難な局面が生じた場合でも、楽観的な人はこの状況を成長の機会と見なし、何が問題だったのかを分析し、自己向上や「チーム全体の能力向上」につながるような経験と捉えて行動することができます。

●生産性が高まる
 楽観的な人が介護現場で生産性が高まる理由は、そのポジティブな態度が仕事に対するモチベーションや効果的なチームワークにつながるからです。これまで述べた楽観主義のメリットのように、柔軟性や協力関係の構築、問題解決能力を向上させることで、結果的に現場の生産性が向上します。楽観的な人がもつポジティブなエネルギーは職場全体に広がり、チームメンバーの協力により効率的かつ効果的なサービス提供が可能になると言えるでしょう。

悲観的でも成功している人はいる  

 一方で、悲観的な人の中にも、一定数成功する人がいることが研究で明らかになっています。それは単なる悲観主義ではなく「防衛的悲観主義」とよばれ、最悪の結果を想定し、対応策・回避策を考え、十分な準備をする態度のことです。一般的には、楽観主義よりも否定的な見方をする傾向がありますが、防衛的悲観主義にも、リスク回避・計画の慎重な立案・個人をより注意深く行動するなど、一定のメリットが存在します。

楽観的に考えるための3つの柱

 楽観的になるためのメリットを紹介しましたが、「楽観的になかなかなれない」「自分は悲観的な方だ」と感じる方も多いのではないでしょうか。しかし、楽観主義は後天的に身につけることが可能です。そこで、自分が楽観的か悲観的か、その傾向を知り考え方を修正するのに役立つ「説明スタイル」についてご紹介します。説明スタイルとは、物事の原因に対する捉え方のことで「永続性」「普遍性」「内的・外的」といった3つの基準があり、それぞれ楽観的か悲観的かで考え方が変わってきます。 
 1つ目が「永続性」です。例えば、仕事で失敗してしまったとき、楽観的な人は「こんな失敗は今回だけ」と考えますが、悲観的な人は「これからも同じような失敗が起きる」と考えます。また、よい出来事が起きた時は、この逆で、楽観的な人は「また同じような良いことが起きるだろう」と前向きになり、悲観的な人は「良いことは今回だけ」と捉えてしまいます。
 2つ目が「普遍性」です。仕事で上手くいった場合、楽観的な人は「同じような仕事ならまた成功できる」と考えます。一方で悲観的な人は「たまたま上手くいっただけ。今後のことはわからない」と思い込んでしまいます。
 3つ目は「内的・外的」です。仕事で上手くいった要因を考えた時、楽観的な人は「自分が頑張って取り組んだからだ」と考えます。一方で悲観的な人は「自分以外の人がしっかりしてくれたからだ。自分の力は関係ない。」と思い込んでしまいます。
 もし、自分が悲観的に物事を捉えそうになったとき、「永続性」「普遍性」「内的・外的」で整理して、悲観的な考え方を楽観的に変換してみてください。変換する練習を積み重ねることで、楽観主義を後天的に身につけることができます。

感謝の力と楽観主義

 最後に、感謝することと楽観主義の関係についてです。感謝と楽観主義は相互に補完しあうものだと言われています。身の回りのことに「ありがとう」と心から感謝の気持ちをもつことは、楽観主義における精神的な柔軟性や抵抗力を高め、逆に物事を楽観的に捉えることは感謝の深化を促進します。両者が結びつくことで、人は困難な状況であっても、その中から感謝の種をみつけ、前向きにとらえるようになり、希望や喜びを見出すことへと繋がっていくでしょう。
 現場における日々の業務やケアの場面において、悲観的になりやすい状況もあるかもしれません。そのような状況であっても、私たちが感謝の心を大切にし、現実的楽観主義の視点で向き合い、現状を前向きにとらえる視点があれば、希望と信念に満ちた未来へのポジティブな姿勢を持ち続けることができるのではないでしょうか。

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小山智彦

小山智彦

認定作業療法士 感謝の伝道師

日本作業療法士協会 認定作業療法士。介護現場の人間関係やチームワークで悩む日々の中、どん底の時に感じた深い感謝の想いと10000回の“ありがとう”に触れ、「人やチームの問題は感謝で解決できる!」と確信。 感謝を伝える「サンクスカード」の普及と独自の理念「サンクス道」を展開する。国際学会での発表、介護情報誌での執筆活動、研修や大学での講義など行い、講義では感動で涙する受講者が続出している。 ★「感謝の文化を作ることで『利用者様への感謝』が増え、ケアする人もされる人も幸せになる『寄り添いのイノベーション』が生まれます。私自身のこれまでの経験と想いを、コラムを通じて多くの方へ伝えていきたいです。

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