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逆境に負けない心「レジリエンス」を高める 小山智彦

仕事も人生も困難がつきもの

 こんなことはありませんか?上司に叱責されショックを引きずってしまう、大きな失敗をしてひどく落ち込んだ、何でもマイナスに考えてしまい仕事が辛い・・・。このような場合、メンタル不調や仕事のパフォーマンスに影響がでてしまい、最悪退職につながってしまうかもしれません。

 そもそも、日本人は不安を感じやすいと言われています。幸せホルモンとも言われているセロトニンの働きに関係するセロトニントランスポーター遺伝子には、3つのタイプがあります。その中で、セロトニンが働きにくく不安を感じやすいSS型をもっている日本人は、全体の62.2%と言われています。一方でセロトニンの働きがよくなるLL型はわずか1.7%。アメリカ人はSS型が18.8%で、LL型は32.3%ですので、他国と比べても日本人は不安を感じやすく神経質になりやすいと言われています。

 しかし、仕事も人生も、介護の仕事も…様々な人間関係やトラブルがつきものです。そのような時、心が折れずに柔軟に適応できる力・立ち直れる力が今注目されています。

今注目されている「レジリエンス」とその効果とは?

 逆境やトラブル、強いストレスに適応する力・立ち直る力のことをレジリエンスと言います。例えば、レジリエンスが低いと、失敗をして上司に叱責されたとき、その出来事をネガティブに捉え落ち込んでしまいます。一方で、レジリエンスの高い人は「失敗して迷惑をかけてしまった。でも失敗して学ぶこともできた。熱心に指導してくれる上司がいるなんて有難い。またがんばろう!」とポジティブに捉え、また前に進むことができます。

 レジリエンスの効果として、ストレスを軽減できること(心のリスクマネジメント)や、自己効力感(やればできると自信をもつこと)が高まることがあげられます。また、レジリエンスが高い人は、ウェルビーイング(幸福感)も高く、その結果パフォーマンスも高い(創造性や生産性が高く、離職率が低いなど)と言われています。

 幸せな人というのは、何も困難なことが起こらない人ではありません。困難があっても出来事の意味合いを捉えなおしたり、感情面で対処できたりする人なのです。

レジリエンスを高めるおすすめの方法

レジリエンスを高める方法は様々ですが、ここでは私がおすすめする2つの方法をご紹介します。

1.  「感謝」でポジティブ感情を増やす
逆境を乗り越えるためには、心の栄養が必要です。心の栄養補給には、前向きで幸せな気持ち、ポジティブ感情が大切です。そこで、ポジティブ感情を増やすオススメの方法として「サンクスワーク」を紹介します。一日の終わりに、その日の感謝した出来事を3つ書くというものです。どんな些細なことでもかまいません。「〇〇さんが笑顔で挨拶をしてくれた」「○○さんが業務を手伝ってくれた」など日常にはたくさんの「ありがとう」があることに気づき、心が前向きで幸せな感情で満たされ、逆境にもポジティブに対処できるようになります。

2.  アルバート・エリスのABC理論
 次に不適切な信念や思考パターンを解明するのに役立つアルバート・エリスのABC理論を紹介します。Aは「ActivatingEvent(出来事)」、Bは「Beliefs(信念・捉え方)」、Cは「Consequences(結果・反応)」とされ、出来事(A)に対して、信念・捉え方(B)が結果・反応(C)に影響を与えていると考えます。例えば、「上司に叱られた(A)」に対して、「評価が下がったに違いない(B)」と捉え、「やる気がない。仕事にいきたくない(C)」と反応するパターンがあります。この状況を客観的にみた上で、別の捉え方(B)を考えます。例えば「叱られたけど、指導してもらえて有難い(B)」と捉えます。その結果「指導されたことを活かし、また明日がんばろう(C)」となり、出来事(A)に対する反応がポジティブに変化します。

 自分の中にあるパターン化された信念・捉え方(B)が、思い込みや決めつけなど不適切な信念となっていないか、一度客観的に確認してみましょう。別の捉え方を考える習慣をつくることで、結果・反応(C)をポジティブな方向に変換する思考が身に付き、強いストレスにも対処できるようになります。

誰かの一言が希望や勇気を生み出す

 一方で、実際は一人では対処できない困難や逆境もあるでしょう。そんな時、上司に勇気づけられたり、同僚に話を聞いてもらって気持ちが楽になったことはありませんか?「君が信じたことを続ければ、必ず道は開けてくる!」「大丈夫、一人じゃないんだから、不安なことは何でも話していいんだよ」・・・こういった誰かの一言が前に進む希望と立ち上がる勇気を与えてくれることもあります。

 逆境を乗り越えるのは、孤独では難しいのかもしれません。お互いに励まし合い、支え合い、感謝し合う関係性こそが、逆境を乗り越える強いレジリエンスになり得るでしょう。

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小山智彦

小山智彦

認定作業療法士 感謝の伝道師

日本作業療法士協会 認定作業療法士。介護現場の人間関係やチームワークで悩む日々の中、どん底の時に感じた深い感謝の想いと10000回の“ありがとう”に触れ、「人やチームの問題は感謝で解決できる!」と確信。 感謝を伝える「サンクスカード」の普及と独自の理念「サンクス道」を展開する。国際学会での発表、介護情報誌での執筆活動、研修や大学での講義など行い、講義では感動で涙する受講者が続出している。 ★「感謝の文化を作ることで『利用者様への感謝』が増え、ケアする人もされる人も幸せになる『寄り添いのイノベーション』が生まれます。私自身のこれまでの経験と想いを、コラムを通じて多くの方へ伝えていきたいです。

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