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“寝たきりゼロ”はもう古い!寝たきりでも「重度化予防」こそを!⑤褥瘡への認識(その怖さと複雑さについて)

はじめに

しばらくお休みしてしまいました。これまで俗にいう“寝たきり”と言われる方々の身体に起きてくる疾病~障害状態について、説明してきています。「拘縮~筋緊張亢進」「呼吸苦」に続いて、今回は「褥瘡」がテーマです。

深刻な“褥瘡”は悲惨なもの

医療機関病棟・介護施設・在宅療養場面における健康管理として「褥瘡」は、今も大切なテーマです。『褥瘡とは、寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうことです。一般的に「床ずれ」ともいわれています。(日本褥瘡学会web)』褥瘡の初期症状は「皮膚の発赤や表皮剥離」といったものですが、今の若い介護スタッフさんは逆に、褥瘡といっても初期~軽度の「皮膚の発赤や表皮剥離」しか見たことがない、という方が多いのではないでしょうか?褥瘡が悪化し重度化すると、表皮~真皮~皮下脂肪~筋肉まで壊死して骨が見えてしまうような状態になります。そのような褥瘡を前にすると、見た目の酷さだけではなく激しく臭いものです。上記の「褥瘡についての医学的な説明」ではイメージしきれないかもしれませんが、褥瘡というのは結局、『人の体が生きたままに腐っていく状態』なんですね。生肉が腐っていくから激しい腐臭もするわけです。深刻な状態の褥瘡は、「人としての尊厳」をも壊していくものだと思います。

介護保険施行前に比べて最近は、このような深刻な褥瘡は本当に少なくなったと思います。それは褥瘡に対する知識が普及し深まると同時に、介護保険制度でエアマットが広く普及したことも大きいと思います。まだ様々な問題がある介護保険制度ですが、私としては「エアマットが普及し深刻な褥瘡が減った」その一点でも心から良かった、と思えます。ところが重度な褥瘡に直面したことがない多くの若い介護スタッフさんは、かえって「褥瘡の怖さ/深刻さ」を知らない、感じられないのではないか?と心配しています。怖さ/深刻さが実感しにくいから、「褥瘡の予防/治癒」ということについてもなかなか認識が深まらない、という面がないか?「発赤レベルの褥瘡ができたらエアマットを敷いて看護さんに処置してもらえばいい」といったような意識で留まっている方がいるのではないか?そんなふうに思いますので、以下に褥瘡発生の原因についてまとめてみます。

褥瘡発生の(局所)原因

褥瘡の原因として真っ先にあげられるのは「(局所の)圧迫」だと思います。ただし今となっては、圧迫が褥瘡の原因というだけではあまりに認識が不足している、と言わざるを得ません。局所に褥瘡が発生する原因としては以下の4つを認識し、日頃のケア業務内で褥瘡を発生させてしまう要因がないか?顧みる事が必要です。

局所の褥瘡発生原因:圧迫/剪断/摩擦/マイクロクライメット

*圧迫 一般的に70~100mmHgの圧力が2時間以上加わると圧迫部位に虚血性変化が起こる、とされています。また、皮膚の直下で皮下脂肪や筋肉が少なくてすぐに骨に届くような部位では、なおさら圧迫が局所に集中しやすくなります。これを解消するのが、体位交換やポジショニングクッションによる除圧~分圧、ということになります。圧センサーといった機器を扱うことがあれば、「100mmHg」がどの程度の圧迫か?!自身の身体で確認する機会を持てれば一番良いと思います。

*摩擦 圧迫といっても皮膚表面に対して「まっすぐ垂直に」圧がかかっている場合と、「圧がかかりながら横にズらす」場合では皮膚のストレスは全然違ってきます。垂直圧力自体は問題にならなくとも、そのままで横にズらす力が加わると褥瘡発生の原因になり得る、ということですね。これが褥瘡原因としての「摩擦」です。どうですか?特に重度の身体障害を抱えている方に対して、皮膚に摩擦ストレスを与えるような場面はありませんか?例えば、「左右の腸骨稜部に褥瘡ができて治らない」という方の場合、その原因は『仰臥位⇒側臥位へ全介助で体位交換後、“側臥位で腰部を背中側に引く”姿勢の整え』で腸骨稜部に摩擦を加えていたから、という事例があります。褥瘡を予防するための体位交換ケアが褥瘡発生の原因となっていたわけですね。

*剪断(せんだん) 剪断というのは、“段差部分で引きちぎられるような力”といえます。剪断部で引きちがれるように力がかかる局所には、すごいストレスがかかります。日頃のケア場面でいえば、例えば“仰臥位をとっている背中で上着の裾がたくしあがったままになっている”というようなことですね。その段差のところに褥瘡ができてしまう、ということです。皆さん、そういう意識をもって臥床姿勢をとっている方の衣服を整えていらっしゃるでしょうか?

ここまでの褥瘡発生原因:「圧迫」「摩擦」「剪断」について、簡単に触れている通り介護スタッフさんのケアのあり方も影響するのですが、その前に大きく影響するのが、『ベッドや車椅子上の“姿勢”そのもの』です。ベッド上臥床姿勢で局所が圧迫され続けたり、ベッドの背起こしをして身体がずり落ちそうになっていたり、身体に全然合っていない車椅子に座らされ続けたりといった、「苦しい姿勢のままで放置されること」が褥瘡発生の大きな原因となります。それらを改善するのが「臥位ポジションぐケア」「車椅子シーティング調整」ということになります。

もう一つの褥瘡発生局所原因:マイクロクライメット

*マイクロクライメット 褥瘡の発生原因として圧迫以外に、「摩擦」「剪断力」も原因になるということをご存知の方もきっといらっしゃるでしょう。では「マイクロクライメット」はいかがでしょう?こちらはまだまだ知られていないなぁ、という感想を私自身は持っています。クライメット(クライメート:Climate)は英語で「気候」を意味します。つまりマイクロクライメットで「局所の空気環境」というような意味合いになり、より具体的には「皮膚局所の温度・湿度」ということです。マイクロクライメットが世界的に褥瘡の発生原因と認知されたのは2010年のことですから、その時点で就業している方は学校で教えてもらう機会はなかったわけですね。

☝マイクロクライメット悪環境による褥瘡発生
皮膚温上昇⇒代謝促進⇒その状態で圧迫・摩擦・剪断⇒代謝亢進している状態で虚血性障害が発生しやすい⇒発汗による皮膚湿潤状態が皮膚のバリア機能や組織耐久性低下となり、なおさら褥瘡になりやすい。

分かりやすくまとめるとこのようになります。もちろん、ベッド上で寒い思いをさせるわけにはいきませんが、過剰に汗ばんでしまっているような状況も危ない、ということです。

ここまでの説明でも「体位交換とエアマット、看護師さんの行う褥瘡部処置」だけでは褥瘡予防~治癒のためには不十分である、ということがご理解いただけると思います。介護スタッフさんの行う起居動作介助や衣服の着脱介助仕上げなど、日常ケアの中で様々に、褥瘡の予防や治癒に大きく影響するポイントのあることが分かると思います。

褥瘡発生要因と褥瘡予防~治療

圧迫/摩擦/剪断力/マイクロクライメットは褥瘡が発生する「局所」の原因です。でも、それが全て、ではありませんね。褥瘡ができやすい身体の“状況”というものがあります。それを「褥瘡発生の身体要因」と呼び、“栄養状態、栄養不足・痩せ”が代表的なものです。その他にも、褥瘡発生が心配される状況なのに固いマットレスを使っているなどは「環境要因」となります。つまり、身体要因の栄養状態が悪くて環境要因として不適切な寝具を使っていては、局所の褥瘡原因:圧迫・摩擦・剪断・マイクロクライメットに配慮していても、やはり褥瘡のリスクは残ってしまう、ということです。

つまり、褥瘡の予防や治癒のためには、単にエアマットを使えばよい、とか、きちんと看護師さんに処置してもらえばよい、とかでは済まないお話しだということが理解できると思います。ケアの全場面を通じたケアの“質そのもの”が、褥瘡ができてしまうか?治せるか?を左右すると言えます。『褥瘡は貧困なケア場面でこそ発生する』と書いてしまうと現場の看護/介護スタッフさんにとって厳しすぎるかもしれませんが、やはりそれが実態に近い、とも思います。

見落としてはいけない褥瘡発生要因「交感神経過緊張状態」

ここまでの説明で、褥瘡は単なる皮膚局所の問題ではなくケア全体のあり方に関わる問題である、ということがご理解いただけたと思います。でも実は、褥瘡ができる/できない、治る/治らない、を大きく左右する、また別の大切な要因があります。それが節表題にもある「交感神経過緊張状態」ということです。交感神経が緊張している状態というのは分かりやすく言うと、要介護高齢者が『心身共に大きなストレスを感じながら』過ごしている状態であって、ストレスを与えているのは私たち自身だ、ということです。そして交感神経過緊張状態は今回の褥瘡だけはなく、これまで取り上げてきた、拘縮/筋緊張亢進にも呼吸状態の悪化にも、さらには他にも多くの健康項目について悪影響を与えます。次回はそのことについて、詳しく説明しますね。

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大渕哲也

大渕哲也

理学療法士

1985年理学療法士資格取得。1年間行政職員を経験の後、医療機関勤務。介護保険開始ともに社福介護施設に勤務し、その後民間介護事業所立ち上げ、福祉用具販売レンタル事業所勤務等経験。現在、(有)スマイルにて、法人内研修担当や現場のフォロー業務。その他、リハビリテーション工学協会・日本車椅子シーティング協会・テクノエイド協会の研修担当や民間介護セミナー事業社出講。(社)こうしゅくゼロ推進協会アドバイザー、(社)重度化予防ケア推進協会アンバサダー。

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