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産業ケアマネとは 〜仕事と介護の両立を支える新しい専門職〜

皆さん、産業ケアマネという仕事はご存知でしょうか?

「ケアマネジャー(介護支援専門員)」という言葉は聞いたことがあっても、「産業ケアマネ」と聞くとピンとこない方も多いかもしれません。しかし今、この新しい役割が注目されています。高齢化が進み、働きながら家族の介護を担う「ビジネスケアラー(ワーキングケアラー)」が急増している今、企業と働く人の両方を支える“架け橋”として産業ケアマネが必要とされているのです。

産業ケアマネとは、従業員が家族の介護に直面したとき、仕事と介護の両立を支援する専門職です。介護保険や福祉サービスに精通したケアマネジャーの知識を生かしながら、企業の中で働く人たちに寄り添い、相談窓口としての機能を果たします。企業内の人事や産業保健スタッフと連携し、従業員一人ひとりの状況に応じた支援策を検討・提案するのが主な仕事です。

たとえば、介護が必要な家族を抱える従業員に対しては、まず状況を丁寧にヒアリングし、利用できる制度やサービスを案内します。介護保険の申請方法やデイサービス、訪問介護の利用、地域包括支援センターへのつなぎなど、行政との橋渡しも行います。加えて、企業の休暇制度や時短勤務制度の活用方法など、職場環境を踏まえた提案を行うのも、産業ケアマネの大切な役割です。

さらに産業ケアマネは、個別支援にとどまりません。企業全体に対して、介護に関する課題を“見える化”することも仕事の一つです。例えば、従業員アンケートを通じて介護リスクを把握したり、管理職向けセミナーを企画して介護に対する理解を促進したりするなど、組織としての意識改革にも取り組みます。

また、介護に関する社内研修の企画・実施も担います。研修では「仕事と介護の両立とは何か」「制度を活用するにはどうすればよいか」といった基本的な知識を共有し、介護に直面した従業員が孤立せず、早期に相談できる職場づくりを目指します。必要に応じて、企業とともに就業規則の見直しや、新たな支援制度の導入提案を行うこともあります。

日本では毎年およそ11万人が介護を理由に離職していると言われており、その損失は個人の問題にとどまらず、企業や社会全体に大きな影響を与えています。生産年齢人口が減少する中で、優秀な人材が介護を理由に職場を離れることは、企業にとっても大きな損失です。

そのため、2025年からは「改正育児・介護休業法」によって、企業に対して介護支援制度の周知や相談窓口の設置、研修の実施が義務化されます。こうした制度を実効性あるものにするには、実務に精通した専門職による支援が欠かせません。まさに産業ケアマネの出番なのです。

介護はある日突然始まります。誰もが明日は「ビジネスケアラー」になる可能性があります。そのとき、職場に産業ケアマネがいてくれたら、安心して働きながら家族の介護を続けることができるかもしれません。

産業ケアマネは、従業員の声に耳を傾け、職場の理解を育て、介護を理由とした離職を防ぐために行動する“つなぎ手”です。介護をする人が孤立せず、仕事と両立できる社会を実現するために、これからますます求められる存在といえるでしょう。

産業ケアマネとして活躍するための資格もありますので、ぜひケアマネジャーの新たな活躍の機会として検討してみてはいかがでしょうか。
介護と仕事が両立できる未来は、すでに始まっています。

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川上洋平

川上洋平

産業ケアマネ、ワークサポートケアマネジャー、主任介護支援専門員

株式会社Simple 彩りケアプラン 産業ケアマネ、ワークサポートケアマネジャー、主任介護支援専門員

  1. 産業ケアマネとは 〜仕事と介護の両立を支える新しい専門職〜

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