患者さんからのクレームで落ち込んだとき
医療・介護・福祉の仕事をしていると、避けて通れないものの一つが、患者さんや利用者さん、ご家族からのクレームです。
「どうしてこんな対応なんですか?」「ちゃんと説明してくれなかったですよね!」「あなたの対応には納得できません!」その場では、専門職として冷静に対応しようとします。「申し訳ありません」「ご不快な思いをさせてしまいました」「確認してまいります」何とかその場を収め、仕事に戻る。でも――。心は、そんなに簡単には切り替わりません。その人の言葉が、何度も頭の中で繰り返される。「私の対応、そんなに悪かったのかな」「もっと違う言い方をすればよかった」「私って、この仕事に向いていないのかな」「また同じことを言われたらどうしよう……」帰宅してからも思い出してしまい、家族と話していても上の空。眠る前になって、またあの場面が浮かんでくる。そんな経験はないでしょうか?クレームで傷つくのは、あなたが弱いからではありません。人と真剣に向き合って仕事をしているからこそ、言葉が心に残るのです。だから必要なのは、「気にしない強さ」ではありません。クレームを受けた後の自分の心を、きちんとケアすることです。今回は、心が傷ついたときの「5つの感情リセット術」を紹介します。
①「傷ついた自分」を否定しない
クレームを受けた直後、「気にしちゃダメ」「仕事なんだから仕方ない」「これくらいで落ち込むなんて……」と、自分の感情を抑えていませんか?
でも、強い言葉を向けられたら、悲しくなるのも、怖くなるのも、腹が立つのも自然な反応です。まずは、「私、今すごく傷ついているんだ」と認めてあげてください。ある看護師は、患者さんから強い口調で注意された後、スタッフルームでいつも通り仕事を続けました。「大丈夫?」と聞かれても、「大丈夫です」と笑いました。でも、帰宅して一人になると涙が止まりませんでした。そこで初めて、「本当は怖かったんだ」「あの言葉、すごく悲しかったんだ」と気づきました。感情は、無理に消そうとすると長引くことがあります。「そう感じた自分もいていい」と認めることが、心を落ち着かせる第一歩です。

②「言われたこと」と「自分の価値」を切り離す
クレームを受けると、「対応を指摘された」→「私の対応はダメだった」→「私は仕事ができない」→「この仕事に向いていない」と、どんどん自分自身を否定してしまうことがあります。でも、本当にそうでしょうか?「一つの対応について指摘されたこと」と、「あなた自身の価値」は別のものです。介護職のBさんは、ご家族から「もっと丁寧に対応してほしい」と言われました。その夜、「私は介護職に向いていない」と落ち込みました。そこで紙に、事実:ご家族から対応について指摘を受けた。自分の解釈:私は介護職に向いていない。と書き分けてみました。すると、「向いていない」というのは事実ではなく、自分が傷ついた心から出てきた言葉だと気づきました。クレームの内容は振り返っていい。でも、一つの出来事で自分の価値まで決めなくていいのです。
③「全部、自分のせい」にしない
医療・介護・福祉職には、責任感の強い人が多くいます。だからこそ、何か問題が起きると、「私がもっとちゃんとしていれば」と、自分一人で背負ってしまいます。しかし、待ち時間、病院や施設の体制、人員配置、情報共有、他職種との連携など、個人の努力だけでは変えられないこともあります。大切なのは、「私ができること」と「私だけでは変えられないこと」を分けること。責任を持つことと、すべてを背負うことは違います。「ここは自分の改善点かもしれない」と思える部分は受け止める。
一方で、「これは私一人の責任ではない」と手放すことも、自分の心を守るために必要です。
④ 反省会を「次への一歩」で終わらせる

クレームを受けた夜に、「もっとこう言えばよかった」「あのとき、こうすれば……」「どうして私はできなかったんだろう」と、頭の中で何度も反省会をしていませんか?反省は大切です。でも、何度繰り返しても過去は変わりません。そこで、「次に一つだけ変えるとしたら何?」と考えてみましょう。例えば、「説明の最後に、分からないことがないか確認する」それだけで十分です。反省の目的は、自分を責めることではありません。次の自分を少し楽にすること。「次はこれをやってみよう」と決めたら、その日の反省会は終了です。
⑤ 最後に「今日の自分」を労う
クレームを受けた日は、それだけで心が消耗しています。それなのに、「今日は最悪だった」「何もできなかった」と、一日全部を否定してしまうことがあります。でも、本当に何もできなかったのでしょうか? 患者さんに声をかけた。利用者さんの話を聴いた。忙しい中でも仕事を続けた。同僚に相談した。クレームから逃げずに向き合った。きっと、できていたこともあります。だから一日の最後に、「今日、私ができたことは何だった?」と、一つでもいいので思い出してください。そして、「今日もよく頑張ったね」と、自分に声をかけてあげてください。
クレームを受けた後こそ、自分を大切にする
クレームは、仕事の一部かもしれません。でも、傷つかないことまで仕事の一部にしなくていいのです。人を支える仕事だからこそ、傷つくこともあります。腹が立つこともあります。悲しくなることもあります。自信を失うこともあります。それは、あなたが弱いからではありません。人として、自然な反応です。大切なのは、傷ついた自分を責めないこと。必要なことは振り返る。改善できること先ずは一つだけ変えてみる。そして、それ以上は自分を責め続けない。「クレームを受けた私」と「価値のない私」は、同じではありません。あなたは、今日も誰かのために働きました。うまくできなかったことが一つあったとしても、あなたがこれまで積み重ねてきたものまで消えるわけではありません。だから、クレームを受けた日は、相手への対応だけで終わらせないでください。
最後にもう一人、ケアしてほしい人がいます。それは―――クレームを受けて、傷ついた「あなた自身」です。「今日もよく頑張ったね」「つらかったね」「明日は、また明日の自分で大丈夫!」優しく自分に声をかけて、一日を終えていいのです。
いかがでしたか。このコラムが少しでも医療従事者の皆さんのお役に立てれば幸いです。
