何もかもうまくいかなくなったとき、どんなSOSを出せばいいのか
医療・介護・福祉の仕事をしていると、「人を支えること」が当たり前になります。
患者さんの不安に寄り添う。利用者さんの生活を支える。ご家族の悩みを聴く。同僚の相談に乗る。
けれど、ふと立ち止まったとき、自分自身は誰に支えてもらっているでしょうか?
「これくらいで弱音を吐いてはいけない」「みんな頑張っている」「専門職なのだから、自分で何とかしなければ」
「患者さんや利用者さんのほうが大変なのだから……」そうやって、自分の苦しさを後回しにしていないでしょうか?
そして気がついたときには、何もかもうまくいかない。自分に自信が持てない。仕事に行くことさえつらい。
そんな状態になってしまうことがあります。
「助けて」と言えなくなるまで頑張ってしまう
SOSというと、「助けてください」とはっきり言うことを想像するかもしれません。
しかし、本当に苦しくなったとき、人はその言葉さえ出せなくなることがあります。
「大丈夫です」「たいしたことありません」「自分がもっと頑張ればいいんです」
そう答えながら、心の中では「もう限界」と叫んでいる。だからこそ、SOSは「助けて」という言葉だけではありません。
「最近、眠れていません」「仕事に行くのが少し怖くなってきました」「何をしても自信がありません」
「以前できていたことができなくなりました」「今は一人で抱えるのがしんどいです」これも立派なSOSです。
大切なのは、限界まで我慢してから助けを求めるのではなく、「少し苦しい」と感じた段階で誰かに伝えることです。
事例1 「私が弱いだけ」と思い込んだ看護師

ある看護師は、とても責任感の強い人でした。新人の頃から「患者さんのために」と努力し、後輩の指導も引き受け、忙しい日には誰よりも早く出勤し、最後まで残っていました。周囲からも「責任感が強い」「頼りになる」と評価されていました。ところが、少しずつ変化が起きました。
小さなミスが気になる。同僚の何気ない一言が頭から離れない。家に帰っても仕事のことばかり考えてしまう。以前なら普通にできていたことにも、「自分はダメだ」と感じる。それでも誰にも相談できませんでした。「こんなことで弱音を吐いたら、仕事ができないと思われる」「みんな大変なのだから、自分だけ休むわけにはいかない」そして、ある日、仕事に行こうとしても身体が動かなくなりました。それでも本人は、「こんなことで休むなんて、私は弱い」と思っていました。本当に必要だったのは、さらに頑張ることではありません。「今の私には、一人で抱えることが難しい」そう伝えることでした。
上司や同僚、産業保健スタッフなどに状態を具体的に伝え、業務量や役割を調整する。必要であれば医療機関や相談機関につながる。それは逃げではありません。専門職として自分を守るための、適切なリスクマネジメントです。
事例2 「少し聴いてもらえますか」と言えた介護職

一方、別の介護職も、決して楽な状況ではありませんでした。職場は忙しく、家庭のことや人間関係の悩みも重なり、少しずつ心の余裕を失っていきました。それでも利用者さんの前では笑顔でした。「私は支援する側だから」そう思い、自分の苦しさを誰にも話しませんでした。ある日、同僚から「最近、ちょっと元気がないね」と声をかけられました。最初は「大丈夫です」と答えました。しかし少し間を置いて、「実は……最近、何をしても自信がなくて。少し話を聴いてもらってもいいですか」と伝えました。これが、最初のSOSでした。話したからといって、家庭の問題や職場の忙しさがすぐに消えたわけではありません。けれど、「話していい」「頼っていい」と思えたことで、一人で抱え込む状態から抜け出す一歩を踏み出すことができました。
二人の違いは「強さ」ではない
この二人は、どちらも責任感があり、人を大切にする専門職です。違ったのは、どれだけ頑張れるかではなく、SOSを出せる環境があったか。そして、自分のしんどさをSOSとして認められたかです。ここに、今の医療・介護・福祉の現場が考えるべき大きな課題があります。知識や技術、エビデンスに基づく支援はもちろん必要です。しかし、それだけでは人を支えきれません。もう一つ必要なのは、「支援する人も支援されていい」という文化です。患者さんや利用者さんには「困ったら相談してください」と伝えながら、職員には「困っても頑張ること」を暗黙のうちに求めてはいないでしょうか?
まとめ ー 求められているのは「弱さを見せられる職場」
これからの医療・介護・福祉に必要なのは、職員が「弱音を吐かない強い人」になることではありません。弱さを見せても、安心して働き続けられる環境をつくることです。「最近どう?」「ちゃんと眠れている?」「何か抱えていない?」「今、一人で頑張りすぎていない?」そんな何気ない声かけが、誰かの命綱になることがあります。そしてSOSを出した人に、「よく伝えてくれたね」「一緒に考えよう」「今は何を減らせるだろう」などと返せる職場であること。SOSを「弱さ」や「能力不足」と評価するのではなく、傾聴し、対話し、必要な支援につなげる。それは患者さんや利用者さんへの支援と同じではないでしょうか。
SOSは「助けて」だけではありません!何もかもうまくいかなくなったとき、自信を失ったとき。「助けて」と言えなくてもいいのです。「少ししんどい」「話を聴いてほしい」「今は一人で抱えられない」「どうしたらいいのか分からない」それだけでも十分なSOSです。SOSを出すことは、弱さではありません。自分を守り、仕事を続け、誰かを支え続けるための大切な力です。
人を支える専門職だからこそ、自分自身も支えられていい。「あなたが倒れないこと」も、医療・介護・福祉の大切なケアの一つなのです。もし今、「何もかもうまくいかない」と感じているのなら、まず一人だけでもいい。勇気を出して、「少し話を聴いてほしい」と伝えてみませんか?それは、あなたの心が出している、とても大切なSOSかもしれません!
このコラムが少しでも医療従事者のみなさんのお役に立てれば幸いです。
