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専門家コラム

移乗介助の理解と実践(前編)

はじめに:なぜ移乗介助をするのか?

私たちは日々、ベッドから車いす、車いすからトイレやシャワーキャリーなどへと、利用者の身体を何気なく移乗させています。しかし、他人の身体を移乗させる行為には常にリスクが伴います。転倒・転落、擦過傷、捻挫や骨折——手順の乱れが取り返しのつかない事故につながることもあれば、誤った介助方法は介助者自身の腰痛や脊柱疾患の引き金にもなり得ます。

一方で、適切な移乗介助は、利用者が見る景色を変えるだけではなく、外出先での風や日差しを感じられる。そんな機会をつくるきっかけになります。私たちにはごく当たり前のようなそんな時間も、それが難しい利用者にとっては大変貴重な時間です。一日に何十回も繰り返される移乗動作は、月単位・年単位で積み重なれば、その影響は計り知れません。だからこそ、私たち介助者は移乗介助が持つ意味・価値の大きさを常に念頭に置く必要があるのです。

第1章:移乗前に「確認すること」を怠らない

移乗介助の質は、動作を始める前の準備段階で決まると言っても過言ではありません。車いすをベッドの近くに設置し、前輪を後ろに向け、ブレーキがかかっているかを確認し、ひじ掛けとフットサポートを外す(上げる)——この4つのチェックを省略せずに確実に行うことが、事故防止の第一歩です。

さらに重要なのが、車いすを設置する「角度」です。ベッド側から30度の角度で置くのには理由があります。正面に置いてしまうと、利用者は身体を180度回転させなければならず、転倒するリスクの高い動作となります。30度の角度に置くことで方向転換の幅を最小限に抑えられます。もし、ひじ掛けを外せるタイプの車いすであれば、より角度を狭めることで、距離を短くすることもよいでしょう。片麻痺がある場合は、必ず麻痺側に設置し、事前に浅く腰かけてもらうようにします。そして、L字柵(ベッド柵)を活用することも忘れてはいけません。真横に柵があるだけでは十分な前傾姿勢を促せませんが、L字に曲がった前方に柵があることで支持基底面が広がり、立ち上がり時の前かがみ姿勢がとりやすくなります。

これらのように、移乗動作の以前に行うべき“準備”をしっかりと行うことが、転倒・転落などのリスクを軽減することはもとより、利用者の持つ力を引き出す“準備”となるのです。

第2章:一部介助から全介助まで——介助の程度に応じた支え方

移乗介助には、利用者の残存能力に応じた段階的な支え方があります。

[一部介助:手のひらを支える方法]
[中等度介助:前腕(手からひじ)を支える方法]
[最大介助:脇の後ろから肩甲骨に手を回して支える方法]

利用者の能力を見極め、過不足のない介助を選ぶことが、自立支援と安全確保の両立につながります。

介助の基本手順は「立ち上がり介助→方向転換→着座介助」の組み合わせです。座位を整え、介助者は足を前後に広げて腰を落とし利用者と目線の高さを合わせたうえで、前かがみを促し、腰から起き上がるように立ち上がってもらいます。この時「ひざだけを伸ばす」のではなく、“股関節から伸びる”よう声かけをすることがポイントです。 

立ち上がった後は、車いす側の足から斜め横へ一歩踏み出し、もう一方の足を揃えます。お尻を車いす側へ向け直して方向転換を完了します。その後、前かがみを促し、「お辞儀しましょう」「ゆっくり座りましょう」と声をかけつつ、座面の左右中央へゆっくり腰を下ろしてもらいます。
この時、介助者は利用者の前かがみを邪魔せず促せるよう、“前後に足を開いて姿勢を安定させ”膝を利用者と共に曲げていきます。そして最後に、「体を起こしてください」と声をかけ、上半身を起こして着座を完了します。

利用者にとって過不足のない望ましい介助・支持量の選択と、重心移動を引き出すための自分自身の構えを念頭に置くことが大切です。

第3章:動作の「なぜ?」を理解し、根拠ある介助へ

前述した移乗の手順そのものを覚えるだけでは、応用が利きません。大切なのは、一つひとつの動作の「なぜ」を理解することです。

なぜ中腰のままではなく、一度しっかりと立ち上がるのか——それは、腰が曲がったまま(中腰のまま)移乗すると、腰痛であったり、重心移動が不十分となり転倒につながるからです。お尻が座面から離れた後は、必ず身体を伸び上がらせ、しっかり立った状態を経てから移乗します。そうすることで、重心移動がしやすく、足の踏み替えが円滑となり、利用者・介助者双方にとって安全な移乗動作となります。

なぜ足を踏み替えて方向転換するのか——それは、足がねじれることなく安全に向きを変えられるからです。踏み替えを省いて無理に身体をひねると、ひざや腰を痛める原因になります。
こうした根拠を理解して身につけた手順は、ベッドと車いすの間だけでなく、トイレなど他の移乗場面にも応用が利きます。手順を「作業」としてではなく「根拠のある技術」として捉え直すことが、介護職としての専門性を高める鍵となります。

おわりに:根拠ある移乗介助が、利用者と介助者双方の未来を守る

移乗介助は、日々繰り返される何気ない動作に見えて、利用者の生活範囲と尊厳、そして介助者自身の身体と将来を左右する重要な技術です。角度、支持基底面、立ち上がりの姿勢、方向転換の踏み替え——1つひとつの動作には明確な根拠があります。その根拠を理解し、実践に落とし込むことこそが、事故を防ぎ、利用者の「生活の広がり」を支える介護職の専門性そのものだといえるでしょう。

ぜひチェックポイントを活用頂き、お互いに安全かつ力を引き出し続けられる介助を広めていきましょう!

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山﨑隆博

山﨑隆博

理学療法士医療法人社団山川会 介護老人保健施設ケアセンター 芳川リハビリテーション部 アドバイザー RehaCareSmile代表

日々の臨床に理学療法士として励む傍ら、“リハビリテーション従事者と介護従事者とが腹を割って研鑽し合う”団体「リハビリテーション*介護Labo」を2017年に立ち上げる。その中で、介護技術関連のセミナーを主催し、“洗練された技術” “揺るぎない根拠”“潜在的な想い”を兼ね備えている介護技術のプロを養成。 中央法規出版(株)発刊のおはよう21にて、連載「場面別に見る 介護技術のチェックポイント」や特集「今日から使える基本の介護技術100のポイント」などを執筆。 現在は、老健のリハビリテーション部責任者として勤務しながら介護施設の職場内研修やケアマネ等の協会主催の研修会、全国各地のセミナー等にて伝達・指導を行う。

  1. 移乗介助の理解と実践(前編)

  2. 車椅子を「知る」ことから始まる自立支援型移乗介助 ~車椅子の基本構造・選び方・移乗前のチェックと準備①~

  3. ポジショニングの準備~ポジショニングは「置く前」が結果を左右する~

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