「人間関係が原因で辞めました」それ本当ですか?
医療・介護現場では、こうした言葉を耳にすることが少なくありません。
その言葉の奥にある本当の理由は、もう少し深いところにあります。
それは――「安心して働けなかった」という感覚です。
人は本来、危険やストレスを感じたとき、自分を守るための反応を無意識に起こします。
心理学ではこれを「自己防衛反応」と呼び、主に逃走(逃げる)・闘争(戦う)・凍結(固まる)の3つに分けられます。
医療・介護現場でも、この反応は日常的に起きています。
3つの防衛反応
■ 逃走:静かに離れていく看護師

ある看護師は、先輩からの強い口調の指導に日々さらされていました。
業務上の指摘ではあるものの、常に否定されているように感じ、「また怒られるのではないか」という不安を抱えるようになっていきました。
やがて、その看護師は必要最低限の会話しかしなくなり、笑顔も減り、次第に周囲との距離を取り始めました。
そしてある日、「自分には向いていないと思う」と言って退職していきました。これは単なる「人間関係の問題」ではありません。
心が危険を感じ、「ここにいてはいけない」と判断した“逃走”反応です。
■ 闘争:正しさで自分を守る看護師

別の現場では、ある中堅看護師が同僚に対して強い口調で指摘を繰り返していました。
周囲からは「きつい人」と見られていましたが、本人は「患者さんのために正しいことを言っているだけ」と感じていました。
しかし、その背景には、過去に自分が強く叱責された経験があり、「間違えると否定される」という恐怖が根づいていたのです。
そのため、先に相手を正そうとすることで、自分を守っていたのです。これは、攻撃ではなく自分の存在を守るための“闘争”反応です。
■ 凍結:動けなくなる新人看護師

新人看護師が、忙しい現場で先輩から矢継ぎ早に指示を受けたとき、何も言えず立ち尽くしてしまうことがあります。
頭では理解しているのに、体が動かない。何をすればいいのか分からなくなる。
その姿を見て「やる気がない」と評価されてしまうこともありますが、これは怠慢ではありません。
強い緊張や恐怖にさらされたとき、人は一時的に思考や行動が止まることがあります。これが”凍結”反応です。
世代間のズレが「安心感」を奪う
医療現場では、年代による価値観の違いも、安心感を損なう要因になります。
例えば、上の世代は「見て覚える」「厳しさが成長につながる」と考える一方、若い世代は「理由の説明」「対話」「尊重」を重視する傾向があります。
どちらが正しいという問題ではありません。ただ、この違いがすれ違いを生みやすいのです。
・「なんでこんなことも分からないの?」
・「どうしてそんな言い方をするの?」
こうした小さなズレが積み重なると、やがて「ここでは安心して働けない」という感覚へと変わっていきます。
コミュニケーションで“安心”はつくれる
では、この見えないズレをどう埋めていけばよいのでしょうか。
必要なのは、特別なスキルではなく、意識的なコミュニケーションです。
例えば――
・指導の前に「なぜそれが必要なのか」を伝える
・相手の背景や経験を前提に話す
・正しさよりも「伝わり方」を意識する
・「大丈夫?」「困ってない?」と一言添える
こうした関わりが積み重なることで、相手は「ここにいても大丈夫」と感じられるようになります。
まとめ

人は、「人間関係が嫌で辞める」のではありません。「安心して働けない」と感じたときに、その場を離れるのです。そしてその裏には、逃走・闘争・凍結といった誰にでも起こりうる自然な自己防衛反応があります。もし職場で誰かが距離を取っていたり、強く出ていたり、動けなくなっていたら――それは「問題行動」ではなく、「助けてほしい」というサインかもしれません。医療従事者が安心して働ける環境は、患者にとっても安心できる環境につながります。私自身も7回の転職を繰り返しました。それは期待と失望の繰り返しの中で、自分が未熟だから。至らないから と自分を責めることに逃げて、細かい条件や違和感の食い違いをその都度 伝えること、話し合い、意見を伝え、すり合わせをする労力をためらったことや勇気が無かったことも大きな要因でした。今となってはとても心残りに感じています。だからこそ、みなさんに伝えたいのです。ためらわず、言葉を飲み込まず、勇気を出して! 一人ひとりの丁寧な関わり合いが、職場の空気をつくります。「ここにいても大丈夫」そう思える職場を、人との関わりの中から育てていけたら、やがて職場全体の雰囲気も改善していくことでしょう。その結果、離職ではなく、定着という未来に変わっていくはずです。このコラムが医療従事者の皆さんのお役に立てれば幸いです。