“つながり”を失いつつある社会 ― 便利さの裏にある静かな孤立
AIやデジタル技術の進歩によって、私たちの生活はここ数年で大きく変化しました。買い物はセルフレジ、相談はチャットボット、医療や教育の現場でもオンライン対応が当たり前になりつつあります。こうした技術の恩恵によって、私たちは便利さと効率性を手に入れました。しかし同時に、ふとした瞬間に「人と人との距離」が遠のいているようにも感じます。
かつては顔を合わせ、何気ない会話の中で気づけた小さなサインや変化が、画面越しでは見えにくくなっています。便利になればなるほど、「人と人が関わる」ことの価値が問われる時代になったのではないでしょうか。
AIにはできない“まなざし” ― 感情を支えるということ
福祉の現場は、まさに“人と人”が支え合う最前線です。AIがどれほど進化しても、人の苦しみや喜びをまるごと理解することはできません。福祉の仕事とは、相手の言葉の裏にある「思い」や「背景」に耳を傾ける営みです。
たとえば、いつもより少し元気がない利用者に「どうされましたか?」と声をかける。その一言に信頼関係が生まれます。あるいは、長く通ってくださる方が「今日は調子がいい」と笑顔を見せた瞬間、支援者として胸にあたたかいものがこみ上げます。こうしたやり取りには、数字では測れない“心の共鳴”があります。
人は人との関わりの中で安心を得て、自分らしさを取り戻していく――この関係の力こそ、AIには生み出せないものです。だからこそ、私たちは「人にしかできない支援とは何か」を問い続けていく必要があります。
AIと人が共に生きる ― 役割を見極め、力を合わせる
AIは福祉の敵ではなく、支援の可能性を広げる“新しい仲間”です。
AIが得意なのは、膨大な情報を整理し、素早く正確に提示すること。記録の要約、データの分析、支援計画書の作成補助など、時間のかかる業務をサポートしてくれます。たとえば、AIが記録を整理してくれれば、支援者は利用者と向き合う時間を確保できます。翻訳や要約機能を活かせば、多文化や障害の壁を越えた支援にもつながります。
一方で、人間にしかできないのは「相手の表情の奥にある感情を感じ取ること」「沈黙の意味を受けとめること」「希望を共に探すこと」。AIはデータから“答え”を導くことはできても、“寄り添いながら共に考えること”はできません。
だからこそ、AIと人の役割を見極め、互いの強みを生かすことが大切です。AIに任せられる部分は託し、私たちは「関係を築く」「共感する」「物語を聴く」といった、人間にしかできない支援に集中する。AIをうまく使いこなすことで、むしろ“人の力”が際立つ福祉が実現できると感じています。
“共感力×想像力”が未来をつくる ― つながりが生きる社会へ
では、これからの時代に求められる人材とはどのような存在でしょうか。
単に「優しい人」ではなく、「他者とつながる力」を持つ人だと思います。相手の話を聴くだけでなく、そこにある想いを受けとめ、共に考え、時には社会とつなげる。その力こそが、福祉の専門性の核心です。
また、今の時代は「正解がない問題」に直面することが増えています。そんな中で求められるのは、マニュアルに頼らず、相手の変化に気づき、その人のために何ができるかを考え続ける力です。相手の立場から物事を見つめ、「どうすればこの人が少しでも生きやすくなるか」を共に考える姿勢。その柔軟さと想像力が、これからの社会を支える基盤になります。
福祉の専門職は、困難を抱える人の「語り」を聴き、それを社会につなぐ“共創の職業”です。
AIが支える社会ではなく、AIと共に“人”が支える社会へ。
効率よりも共感を、知識よりも関係を――。
そんな価値観を大切にしながら、一人ひとりが人の温かさを伝えられる存在でありたいと思います。
“言葉”にできる支援 ― わたしの原点
現代社会では、人が抱える問題が複雑化・多様化し、参考書通りの対応が通じない場面が増えています。これは私自身にも言えることですが、知識を身につけること(インプット)はもちろん、得た知識を実践で活かすこと(アウトプット)、そして状況に応じて柔軟に応用する創造的な実践力がより重要になっていると感じます。
私たちには「言葉」という力が与えられています。自分の想いを伝えること、相手の苦しみを言語化し共有すること、その積み重ねが支援の原点です。
知識を超えて、言葉でつながり、人と人が共に生きる社会をつくっていく――それが、私が社会福祉士として大切にしている姿勢です。