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車椅子を「知る」ことから始まる自立支援型移乗介助 ~車椅子の基本構造・選び方・移乗前のチェックと準備①~

はじめに 

介護現場では、毎日のように車椅子への移乗介助を行います。 しかし、私たちは「車椅子そのもの」をどれくらい理解しているでしょうか。 「ブレーキをかける」「フットサポートを上げる」「車椅子をベッドに近づける」。 こうした操作は知っていても、なぜそれを行うのか、利用者さんの身体にどのような影響があるのかまで考えているでしょうか。 自立支援型の移乗介助では、介助者の技術だけではなく、利用者さんが使用する環境や福祉用具を適切に整えることが重要です。 今回は、車椅子の基本構造から選び方、そして移乗介助を始める前に欠かせないチェックと準備について整理します。

第一章 まずは車椅子の基本構造を知る

車椅子には、それぞれ役割を持った部品があります。代表的なものだけでも、・バックサポート(背もたれ) ・アームサポート(ひじかけ) ・シート  ・レッグサポート・フットサポート ・駆動輪(後輪) ・キャスタ(前輪) ・ハンドリム  ・ブレーキ・介助用ブレーキ ・ハンドグリップ ・ティッピングレバーなどがあります。

ここで大切なのは、「名称を覚えること」が目的ではないということです。
それぞれの構造を知ることで、移乗介助の場面で「どこをどう扱えば、利用者さんが動きやすくなるのか」を考えられるようになります。

例えば、フットサポート。
移乗時に足を乗せたままでは、利用者さんが立ち上がる際の足の位置を妨げることがあります。
反対に、適切に上げたり外したりすることで、足を床につけやすくなり、利用者さん自身の下肢を使った立ち上がりにつなげられます。

ブレーキも同じです。
単に「車椅子を動かさないためのもの」ではありません。
利用者さんが立ち上がる際に、車椅子が動いてしまえば、転倒につながる可能性があります。

つまり、車椅子の構造を知ることは、安全確保だけでなく、利用者さんの残存能力を引き出すための準備を知ることでもあります。

第二章 車椅子は「誰でも同じ」ではない

車椅子を選ぶとき、「とりあえず普通の車椅子」という考え方になっていないでしょうか。

画像のフローチャートにもあるように、車椅子には自走式、介助式、モジュール型、リクライニング型、ティルト・リクライニング型など、さまざまな種類があります。

選択するときに重要なのは、
「その人が、どのような身体状況で、何をするために車椅子を使うのか」
という視点です。

例えば、

  1. 上肢や下肢を使って自分で動かせるのか
  2. 姿勢を保持できるのか
  3. 座位が安定しているのか
  4. 自走が必要なのか、介助が中心なのか
  5. 食事や作業など、車椅子上で何をするのか
  6. 生活する環境に適しているのか

こうしたことを確認していきます。
さらに重要なのが身体に合ったサイズです。
座面が広すぎれば身体が左右に動きやすくなり、狭すぎれば圧迫や動きにくさにつながります。
座面の奥行き、背もたれの高さ、足の位置などが合っていなければ、姿勢が崩れたり、動作が行いにくくなったりすることがあります。

つまり、
「車椅子に身体を合わせる」のではなく、「その人に車椅子を合わせる」
という考え方が大切です。

そして、これは移乗介助にも直結します。
例えば、座面が高すぎれば、立ち上がるために必要な身体の前方移動が行いにくくなることがあります。
逆に、足がしっかり床につき、身体を前方へ移動させやすい環境が整えば、利用者さん自身の力を使った立ち上がりにつながる可能性があります。

車椅子選びは、単なる「福祉用具選び」ではありません。
利用者さんの動作能力や生活そのものを左右する重要な選択なのです。

第三章 移乗介助の前に欠かせない「チェック」と「準備」

移乗介助では、「利用者さんをどう動かすか」に意識が向きがちです。
しかし、自立支援型介助では、その前に確認することがあります。
それが、環境と車椅子の準備です。

画像では、車椅子を使用する前の手順として、

  1. 車椅子を適切に設置する
  2. ブレーキの効き具合を確認する
  3. タイヤの空気圧を確認する
  4. フットサポートの安全性を確認する
  5. ベッド柵の安全性を確認する
  6. ベッドの高さを調整する
  7. 靴を利用者さんの近くに置く


という流れが示されています。

どれも、一見すると「当たり前」に思えることです。
しかし、介護現場では、こうした当たり前の確認が忙しさの中で省略されることがあります。

例えば、ブレーキが十分に効かなければ、立ち上がりの瞬間に車椅子が動いてしまう可能性があります。
フットサポートが足元に残っていれば、足を動かす際の妨げになることがあります。
ベッドの高さが合っていなければ、利用者さんだけでなく介助者の身体にも負担がかかります。

そして、もう一つ重要なのが「物を置く位置」です。
移乗場面を想定すると、靴を何気なく利用者さんから離れた場所に置いてしまえば、利用者さん自身で取り履くことが難しくなるかもしれません。
一方、手を伸ばせば安全に届く位置に準備することで、「自分でできること」を残せる可能性があります。

これは自立支援の基本的な考え方です。
介助とは、何でも介助者が行うことではありません。
利用者さんができる部分は、できるだけ本人に行ってもらう。
そのために、介助者が環境を整える。
これも立派な介助です。
まとめ 「介助技術」の前に「環境を整える技術」がある
車椅子の基本構造を知る。
その人に合った車椅子を考える。
移乗する前に、安全性と環境を確認する。

一つひとつは、とても基本的なことです。
しかし、自立支援型の移乗介助を考えるうえでは、この「基本」が非常に重要です。

利用者さんを抱える技術を磨く前に、
「利用者さん自身が動きやすい環境になっているか?」
を考えてみましょう。

車椅子のブレーキ、フットサポート、座面の高さ、足の位置、ベッドとの距離。
こうした一つひとつの環境設定が、利用者さんの「できる」を引き出すことに繋がります。
反対に、車椅子の選択や準備を誤れば、利用者さんの動きを制限してしまう可能性もあります。

だからこそ、
「安全のために車椅子を確認する」から、
「利用者さんの力を引き出すために車椅子を整える」へ。

この視点を、日々の移乗介助に取り入れていきましょう。

ぜひ安全な自立支援型移乗介助や車椅子環境のため、チェックリストをご活用ください!

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山﨑隆博

山﨑隆博

理学療法士医療法人社団山川会 介護老人保健施設ケアセンター 芳川リハビリテーション部 アドバイザー RehaCareSmile代表

日々の臨床に理学療法士として励む傍ら、“リハビリテーション従事者と介護従事者とが腹を割って研鑽し合う”団体「リハビリテーション*介護Labo」を2017年に立ち上げる。その中で、介護技術関連のセミナーを主催し、“洗練された技術” “揺るぎない根拠”“潜在的な想い”を兼ね備えている介護技術のプロを養成。 中央法規出版(株)発刊のおはよう21にて、連載「場面別に見る 介護技術のチェックポイント」や特集「今日から使える基本の介護技術100のポイント」などを執筆。 現在は、老健のリハビリテーション部責任者として勤務しながら介護施設の職場内研修やケアマネ等の協会主催の研修会、全国各地のセミナー等にて伝達・指導を行う。

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