医療介護福祉の学び情報メディア

専門家コラム

産業ケアマネ×作業療法士が描く、これからの「働く人」支援

買い物帰りに立ち寄れる「相談の場」

 先日、新潟市にある商業施設「アピタ」へ足を運びました。 買い物客で賑わうフロアの一角に「Komachi介護転職カウンター」があり、 今回、この場所で、これからの働き方を支える大切なヒントを学ぶことができました。「Komachi介護転職カウンター」のサイトはこちら→https://komachi-kaigocounter.com/
 私を迎えてくれたのは、株式会社ドットコム・マーケティングの板垣さんです。 板垣さんは、単に仕事を紹介するだけの方ではありません。かつては学校の学科長として教壇に立ち、医療ソーシャルワーカー(MSW)として相談業務に従事し、現在は国家試験対策の講師として次世代を育てている、いわば「介護と教育のプロフェッショナル」です。
 そんな板垣さんと話していると、不思議と昔からの友人のような感覚になりました。それもそのはず、私たちは同世代。少年時代に「ミニ四駆」を走らせ、「ファミコン」のスーパーマリオにはまり、「ビックリマンチョコ」のシールに一喜一憂し、同じ景色を見てきた就職氷河期世代(笑)なのです。
そんなこんなでいろいろと話しているうちに、自然に、お互いが今感じている「課題」へと移っていきました。

誰にも言えず、悩んでいる人がいる

 板垣さんから聞いた話で、とても印象に残っていることがあります。 同社が発行している『老人ホームのあれこれ』というフリーペーパーについてです。県内のいたるところに配布、設置されたこの冊子が、アピタに設置すると、あっという間になくなってしまうのだそうです。
 これは、何を意味しているのでしょうか。 もちろん、冊子の内容が非常に充実しているので、それも理由の一つでしょう。しかし、それ以上に、生活の身近な場所で「介護の情報」を切実に求めている人が、これほど多くいるという事実ではないでしょうか。
 「親の介護が必要になったけれど、どこに相談すればいいかわからない」 「仕事と両立できるか不安だけど、職場には言いにくい」・・・誰にも相談できず、不安を抱え、買い物のついでにそっと冊子を手に取る。そんな、声にならない「SOS」が、私たちの日常の中に隠れているのではないでしょうか。

「産業ケアマネジャー」を知っていますか?

 ここで、板垣さんが今、力を入れている「産業ケアマネ」という存在についてご紹介します。 まだ耳慣れない言葉かもしれませんが、介護と仕事の両立に悩む方にとって、非常に頼もしい味方となります。
 背景にあるのは、「介護離職」という社会問題です。 家族の介護を理由に仕事を辞めざるを得ない人は、年間約10万人にものぼると言われています。 これまで、介護は「家庭の問題」とされがちでした。「親の面倒を見るのは家族の役割」「会社に迷惑はかけられない」、そんな責任感から、仕事を続けることを諦めてしまうケースが非常に増えてきているということです。
 そこで生まれたのが、2020年に「ケアマネジャーを紡ぐ会」によって創設された民間資格、産業ケアマネです。 その役割は「介護離職を減らすこと」です。具体的には、一般企業に社員として入社、あるいは外部から関わり、従業員からの相談窓口となります。 「家族の介護で、これまで通り働けなくなるかもしれない」 そんな社員の声に耳を傾け、ケアマネジャーとしての専門知識を活かして、仕事と介護を両立できる方法を一緒に考え、提案します。
 産業ケアマネは、主に「働く人(社員)」のために、仕事を辞めずに済む環境や方法をアドバイスします。つまり、会社の中に「介護のプロ」がいて、あなたのキャリアを守るために動いてくれる。それが産業ケアマネなのです。

医療の枠を超えて「ウェルビーイング」を創造する作業療法

 板垣さんという「産業ケアマネ」と話す中で、私の中に一つの可能性が見えてきました。 「板垣さんが『制度や環境』を整えるなら、私たち作業療法士(OT)は『働く人自身の心身』を支えられるのではないか」と。
 作業療法士(OT)は、リハビリテーションの専門職です。 世界作業療法士連盟(WFOT)の定義にもあるように、私たちは「人が、その人にとって意味のある活動(作業)を行うこと」を、健康と幸福のために支援します。
 以前、武蔵野大学ウェルビーイング学部の学生に向けて講義をした際、こんな反応がありました。「作業療法士って、病院でリハビリするだけの人だと思っていました」 「でも今日の話を聞いて、OTは建築、ファッション、教育、まちづくり……あらゆる分野とコラボレーションできる『触媒』のような存在だと感じました」 「OTの視点があれば、人々のウェルビーイングはもっと向上するはずです」。学生の反応からもわかるように、今、作業療法士は医療・介護の枠を超え、様々な分野で、人々のウェルビーイングに寄与することが期待されています。
 作業療法士は、その人らしく生きるための本人の「心と体」そして「強み」に焦点を当てます。新しい環境や介護生活の中で、いかに心身のコンディションを保つかという具体的なセルフケアの助言や、その人が何に価値を感じ、どんな仕事に喜びを見出すのかという、内面的な動機付けも支援できます。その人のやりたい「作業」、価値のある「作業」という視点から、日常の動作や仕事の進め方をその人に最適化することで、単に「辞めない」だけでなく、「より自分らしく働く」ための力を内側から引き出すことができます。

「自分らしく働く」をあきらめないために

 Komachi介護転職カウンターでの対話を終え、私はさらなる妄想にふけっていました(笑)。仕事探しは、一人で行うと不安なものです。特に、介護や家庭の事情を抱えていると、「本当にやっていけるだろうか」と足がすくむこともあると思います。 そんな時、求職相談から、転職後のフォローまで、専門家が支援してくれたら、どんなに心強いと感じるでしょう。
 「なんとなく仕事が決まった」ではなく、「ここなら、自分の生活を大切にしながら働ける」。 そう確信して一歩を踏み出せるように、私たちは専門職として、黒子のように寄り添うことができるのではないでしょうか。
 アピタの買い物ついでに、ふらっと立ち寄れるKomachi介護転職カウンター。そこには、新潟県内のあらゆる介護施設に足を運んで情報や人脈をもっている素晴らしいエージェント(板垣さん)がいます。一人で悩みを抱え込む前に、まずはこの温かな場所に足を運び、「自分らしく働く」ための対話を始めてみてはいかがでしょうか。

  • 記事を書いた専門家
  • 専門家の新着記事
小山智彦

小山智彦

認定作業療法士

「感謝には人やチームの課題を解決する力がある」と考え、感謝の気持ちを伝える「サンクスカード」の普及に取り組んでいる。国際学会での発表や執筆活動、研修や大学での講義などを通じて感謝の文化づくりと幸せな職場づくりを推進し、「ケアする人もされる人も幸せになる」ことを目指している。 日本作業療法士協会 認定作業療法士/日本実務能力開発協会 認定コーチ/一般社団法人Well-Being DESIGN 認定Well-Being Dialogue Cardファシリテーター/ポジティブ心理学実践インストラクター

  1. 産業ケアマネ×作業療法士が描く、これからの「働く人」支援

  2. まずは自分を抱きしめて ~セルフコンパッションと感謝の循環~

  3. チームを変える“起点”はどこにあるのか ~成功循環モデルとサンクスカードの実践~

関連記事

PAGE TOP