「触れる」という行為
介護の現場では、利用者の身体に触れる機会が日常的にあります。その一瞬の「触れる」という行為が、実は非常に重要な見逃してはいけない観察の機会であることをご存知でしょうか。
「触れる」という行為は、単に動作の介助の初段階ではなく、皮膚の温度・乾燥・浮腫(むくみ)の有無など、利用者の体調変化や疾患のサインを早期にキャッチできる重要な手段です。これらのサインを見逃してしまうと、症状が重症化したり、取り返しのつかないことにもなりかねません。
介護のプロとして、「触れる」意義と適切な触れ方について、普段の自分自身の介助場面での「触れる」ことと照らし合わせながら振り返ってみましょう。
実際に触れることの意味と観察ポイント
介助の際に「触れる」という行為には、「観察」という重要な役割も含まれます。つまり、「触察(しょくさつ)」を同時に行うのです。触れることで、利用者の皮膚の温度や乾燥、浮腫などといった情報は、介護職が日常的に得られる貴重なデータになります。
皮膚の温度を感じ取る

まず押さえておきたいのが「皮膚の温度」です。高齢者は加齢によって体温調節機能が低下しており、感染症や脱水症、循環障害があっても自覚症状が乏しい場合があります。そのため、介護職が利用者の一人ひとりの「普段の皮膚温」の傾向を把握しておくことが極めて重要です。普段と比べて手足が異常に冷たい、あるいは熱っぽいと感じた場合は、循環不全や感染症などによる熱発などを疑い、看護職や医師へ速やかに報告し対応する必要があります。

皮膚温が冷たいもしくは熱く感じられる場合には、それぞれいくつもの原因が考えられ、適切に早急に対処する必要があります。そのきっかけになる場面こそ、普段の介護場面なのです。重大なサインを見逃すことのないよう、普段から皮膚温も触察していくように心がけましょう。
☆ケアへの応用ポイント:皮膚温の異常を感じたら看護師や医師に早急に報告しよう!
皮膚の乾燥を確認する

触察のポイント2つ目は、「乾燥の有無」です。
皮膚の乾燥の原因としては、
1.加齢(皮脂腺や汗腺の活動低下や保湿因子の減少)
2.栄養状態の低下
3.糖尿病などの基礎疾患
4.服薬(利尿薬・ステロイド)による副作用など医学的背景
5.環境要因(乾燥した空気、入浴習慣など)
が主に考えられます。
乾燥が進むと皮膚の掻痒感(そうようかん)が生じ、掻き壊しによる感染リスクが高まるだけでなく、褥瘡(じょくそう:床ずれ)のリスク因子にもなります。
[触察方法]
手のひらや指の腹を皮膚の表面に軽くすべらせるように触れ、「カサつき」や「ざらつき」をチェックしましょう。利用者の皮膚を傷つけないようにやさしく行うことが大切です。
☆ケアへの応用ポイント:保湿剤の使用、加湿環境の整備、栄養指導につなげよう!
浮腫(むくみ)を観察する

3つ目に見逃せないのが「浮腫(むくみ)」です。
触察するなかでも浮腫の発見は、疾患の早期兆候を見抜く上で欠かせません。
[浮腫の触察方法]
指の腹で皮膚を約5mm程度、10秒間軽く圧迫して行います。
[結果の意味]

介護職は、日常の更衣や清拭、入浴、移乗といった「自然な接触」の中で、皮膚の変化・異常を意識的に観察することが求められます。浮腫は単に“むくみ”として見過ごされがちですが、その背後には循環動態や代謝異常など、身体全体のバランス変化が潜んでいます。特に高齢者では心疾患や腎疾患を併発している方が少なくないため、浮腫の観察は介護職が担う重要な見逃してはならないチェック項目です。
したがって、触察は医学的観察の一部として、介護職が日常的に実践すべき重要な身体アセスメントです。触れることに「意味」を持たせる感覚を養うことが、利用者の安全と早期発見につながります。日々の観察結果を記録・報告することで、重症化予防につなげていきましょう。
☆ケアへの応用ポイント:医学的リスク管理の観点からも根拠ある安全なケアを提供しよう!
自立支援につながる触れ方
介助する際、その触れ方によって、利用者の自立度を大きく左右します。適切な触れ方は「できる力」を引き出すことができます。一方、誤った触れ方は、「できる力」を奪ってしまいます。以下に適切に触れるためのポイントと、よく見かける誤った触れ方についてまとめました。

現場では、介助をする際に利用者の動きを感じ取ることはもとより、適切な触れ方ができていない場面が散見されます。何気なくつかむように持ち上げたり、素早く介助したりするなど、利用者は声に出さずとも不快な想いをします。さらには、皮膚はいつ誰が関わった時にできたかも分からない、皮下出血の痕や擦過傷ができるなど、怪我を負わせてしまう“傷害事例”後が後を絶ちません。
介護を必要としている人たちが望む生活時間を、主体性を持って安心して過ごせるよう支援する我々が、そのようなことを起こすことは本末転倒です。介助は動きを伴う場面だけを言うのではありません。前回のコラム「触れる前に大切なこと」はもとより、介助後に至る過程まで、自身の介助を見つめ直し丁寧に関わっていきましょう。
☆ケアへの応用ポイント:触れ方ひとつで「できる力」を引き出せることを見つめ直して実感し、適切な触れ方を支援に繋げよう!
まとめ
「触れる」というシンプルな行為の中には、身体の小さな変化を見逃さず、安全な生活を支えるためのヒントが隠されています。介護職は日常ケアの中で自然に観察できる力を身につけ、異常の早期発見・報告につなげていくことが求められます。
また、介助場面においても、単なる動作支援ではなく、観察・信頼構築・自立支援という多面的な意味を持ちます。
- 触れる前に声かけ・説明・同意を得ることで安心と尊重を提供。
- 触れる中で皮膚の温度・乾燥・浮腫を触察し、体調変化を早期発見。
- 適切な触れ方で「できる力」を引き出して自立を支援。
- 感謝やねぎらいの声かけや握手で心理的な支援も提供。
こうした一連のプロセスを意識することで、介護職は利用者の安全と尊厳を守りながら、専門職として介助場面における利用者の“できる”を引き出す役割を果たしていきましょう。
☆前回と今回のコラムまとめ特別チェックリスト✓
触れる前~触れる時~触れた後までをチェックリストにまとめました。
日々の自分自身の介助や教育場面などでぜひご活用ください。
