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新人・若手いじめの見えにくい実態──それ、指導じゃなくて虐めじゃないの?新人が感じる見えない圧力

「無視」「情報共有の排除」「あいまいな指導」がもたらす心の傷

医療現場には、命を守るという使命感と緊張感が日常的に存在しています。その一方で、見過ごされがちなのが「人間関係によるストレス」です。特に、新人若手スタッフに対するいじめハラスメントは、指導教育という名のもとに行われている場合も多く、被害を受けた本人さえ「自分が悪い」と感じてしまうことがあります。
本コラムでは、以下のような事例を通して、その心理的影響と、現場で取るべき対応策、そして本人ができるセルフケアについて考えていきます。

新人・若手いじめの事例10選「思い当たることありませんか?」

  1. 無視される・挨拶を返してもらえない
    毎日顔を合わせているのに、名前を呼ばれず、存在をないものとして扱われる。
  2. わざと情報共有から外される
    患者の情報や申し送り内容を教えてもらえず、ミスを誘発させる。
  3. 「そんなこともできないの?」と小馬鹿にされる
    業務が遅かったりミスをすると、周囲から冷笑されたり、見下した態度を取られる。
  4. あいまいな指示でミスを誘う
    「前にも言ったよね?」「自分で考えて」と明確に教えてもらえず、失敗すると怒られる。
  5. わざと忙しい時間に質問を無視・スルーされる
    「今忙しいから後にして」と言われ、結局質問に答えてもらえない。
  6. 雑用・重労働だけ押し付けられる
    誰もやりたがらない清掃や力仕事など、押し付けられる。
  7. ランチ・休憩に一緒に行ってもらえない(孤立させられる)
    グループでご飯に行っているのに、自分だけ誘われない。
  8. 指導のふりをして人格否定される
    「向いてないんじゃない?」「辞めた方がいいんじゃない?」と繰り返し言われる。
  9. 業務中に陰口を言われるのが聞こえる
    すぐそばで「ほんと使えないよね」「またやってるわ」など悪口を言われる。
  10. 一部の先輩だけからではなく、職場全体で無言の“空気”で圧をかけられる
    全員がそっけなく、質問しても最小限の返答しかされず、居場所がなくなる。

以上

実は私も新人ナースとして働き始めた頃、殆どといっていいほどこのようないじめに遭いました。
本当に毎日が辛くて孤独で地獄のようでした。
今回はこの中から3つの事例を取り上げて考察してみましょう。

事例1:無視される・挨拶を返してもらえない

ある看護師の新人Aさんは、配属初日から挨拶をしても返事がもらえない日々が続きました。業務中も誰にも話しかけられず、必要なことを聞こうとしても目も合わせてもらえません。 
                                                                     【心理的影響】
無視されることは「存在の否定」として感じられ、自尊心が大きく傷つきます。孤独感や不安、やがて「自分はこの職場に必要とされていない」「嫌われている」といった思い込みが生まれ、自己否定感が強まっていきます。

事例2:わざと情報共有から外される

Bさんは夜勤明けに申し送りが終わったと聞かされていたのに、実は患者の状態に大きな変化があったことを知らされていませんでした。その結果、処置が遅れて注意を受け、本人はなぜミスをしたのか分からないまま責められました。                                                                      

【心理的影響】
「わざと教えてもらえなかったのではないか」という疑念は、職場への不信感や恐怖心を強めます。繰り返されることで「また自分だけ情報をもらえないのでは」と常に緊張し、精神的に消耗していきます。

事例3:あいまいな指示でミスを誘う

Cさんは「昨日教えたよね?自分で考えて」と言われ、不十分な情報で対応を求められました。結果的に処置の手順を誤り、先輩から叱責されました。後で確認したところ、そもそも「昨日の説明」自体がなかったことに気づきます。

【心理的影響】
教えてもらっていないのに「覚えてないあなたが悪い」と責められることで、被害者意識だけでなく、記憶や理解力に対する自己不信が芽生えます。過度な自己チェックが始まり、学ぶことへの意欲や自信を喪失します。

上司や組織が取るべき対応策

組織として取り組むべき対応策は以下の通りです。

◎定期的な面談やアンケートによる現場の声の吸い上げ
 匿名でのアンケートや、メンタル面も含めた面談の場を設けることで、声なき声に気づくことができます。
◎「見えにくいハラスメント」についての研修や啓発
 無視や情報の排除、あいまいな指導などもハラスメントの一種であるという認識を広げる必要があります。
◎新人に限らず“支え合う文化”の醸成
 指導=上下関係ではなく、チームの中で育て合うという風土づくりが重要です。
◎明確な相談窓口と、報復を防ぐ仕組み
 安心して声を上げられる体制がなければ、問題は表面化しません。

本人ができるセルフケア・相談先

とはいえ、現場ですぐに環境が変わるとは限りません。本人が自分を守るためにできるセルフケア相談方法も大切です。

【自分を守るためのポイント】
①起きた出来事を日記・記録として残す
 日時・状況・相手の言動をメモしておくことで、いざ相談する際の証拠になります。
②「自分が悪い」と思いすぎない
 経験やスキル不足を責められる場面でも、人格を否定するような扱いは不適切です。
③信頼できる人に話す
 職場外の家族や友人、同じ業種の先輩など、感情を否定せず受け止めてくれる人に話すだけでも心が軽くなります。
④外部の相談窓口を利用する
 産業保健スタッフ、医療系労働組合、ハラスメント相談窓口、カウンセラーなどを頼るのも一つの手です。

最後に

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時田幸子

時田幸子

看護師

会社員、フリーター、主婦を経て看護師国家資格を取得。看護師歴23年。 病院・(特養・有料)老人ホーム・サ高住・ディサービス・訪問看護ステーション勤務。 多数の心理学を学びセミナーを主催。ガン患者様・ご家族様へ傾聴ボランティア歴10年。現在は講師業、セミナー主催、個人カウンセリング&LINE相談活動中。 NPO法人日本ゲートキーパー協会認定講師 ・ 一般社団法人日本ストレスチェック協会認定SMFT ・アンガーマネージメントキッズインストラクター・ 再決断療法心理カウンセラー・トラウマ解消心理セラピスト・ パステル画でイラストや曼荼羅アートを描くことや己書という筆文字を通して、心の癒しと自己表現する場作りのお手伝いも楽しんでいます。

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