●チームレジリエンス低下の背景と悪循環のメカニズム
レジリエンスとは、逆境やトラブル、強いストレスに適応し、立ち直る力のことです。そして、チームレジリエンスとは「チームが逆境に適応し、回復し、成長する力」を指します。困難を成長の糧にできるチームがある一方で、問題が起こると責任を押しつけ合い、関係性が悪化してしまうチームもあります。
私たちはいま、「VUCA」と呼ばれる先の見えにくい、曖昧で不安定な時代を生きています。医療・介護業界も例外ではなく、制度や業務の変化、人材不足、感染症への対応などでストレスが蓄積しやすくなっています。こうした中で人は、自分を守るために他者を責めたり、事実を曖昧にしたりといった「自己防衛的な行動」をとるようになり、結果としてチームの信頼関係が損なわれ、レジリエンスが低下する悪循環が起こりがちです。
では、レジリエンスの高いチームにはどのような特徴があるのでしょうか?

●チームレジリエンスを支える「関係性」の3つの要素
職場内の負の連鎖を断ち切り、チームの回復力を育むために最も重要なのが「関係性」です。なかでも、レジリエンスの高いチームに共通する3つのポイントがあります。
1つ目は「チームの一体感」です。共通の目標を持ち、互いの強みを認め合うことで、困難を共に乗り越える意識が高まり、協力し合える風土が育まれます。失敗や成功を共に分かち合うことで、感情的なつながりも強まり、チームの絆は深まります。
2つ目は「心理的安全性」です。客観的な事実や個人の意見を率直に共有できる安心感があるチームは、挑戦や改善がしやすく、協働による問題解決が活発になります。逆に「批判」や「忖度」が蔓延する職場では、チーム内で本音や真実を共有できず、チームとしての力が発揮されません。
3つ目は「存在承認」、つまり「リーダーがちゃんと見てくれている」という感覚です。頑張りや努力をリーダーが見てくれているという実感は、個々の自信と意欲につながります。見てもらえていないと感じると、ほめ言葉も響かず、叱責には反発しか残りません。
では、こうした関係性をどう築くのか。具体的な実践として有効な方法をご紹介します。

●「感謝」でつながるチームレジリエンス
職場の人間関係において、「ありがとう」の一言が持つ力は思っている以上に大きいものです。日々の業務の中で、つい見過ごしがちな小さな配慮や気遣いでさえも、ちゃんと感謝を伝えることで、チームの関係性に温かい信頼関係が生まれていきます。
こうした感謝のやりとりが日常化すると、メンバー同士がお互いを尊重し合い、心理的な安心感が高まります。そしてその積み重ねが、困難やストレスに直面したときにチームを支える土壌となり、チーム全体の「レジリエンス=立ち直る力」が育まれていくのです。
特に医療や介護の現場では、感情労働が多く、緊張が続きやすい環境です。だからこそ、「感謝の見える化」が重要となります。サンクスカードなどの仕組みを活用することで、感謝の気持ちが広がり、ポジティブな感情の循環がチームを強くします(図:サンクスカードの効果)。サンクスカードとは、職員同士が感謝の気持ちを手書きで伝えるカード。カードで感謝の気持ちが可視化されることで、「ありがとう」「嬉しい」といったポジティブな感情がチームに循環します。誰かの存在や行動が認められることで「あなたには価値がある」というメッセージが伝わり、存在承認と信頼関係を高める仕組みになります。
「ありがとう」という言葉には、相手の存在を肯定し、心の距離を縮める力があります。感謝を伝えることで、私たちは人とのつながりを深めていくことができます。感謝の言葉が行き交う職場には、安心感と信頼が生まれます。チームにとっての本当の力とは、困難な状況でも支え合い、希望を見いだせる関係性にあります。サンクスカードや日常のやりとりを通じて、感謝が循環する文化を育てること。それが、どんな変化にも柔軟に対応できる、しなやかで強い「チームレジリエンス」につながるのです。今こそ、感謝の力でチームの未来を育てていきませんか。