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専門家コラム

『正しさ』より『その人らしさ』を支える医療・介護・支援へ

―医療・介護・福祉職に求められる「人を中心にした支援」とは―

医療や介護、福祉の現場では、「エビデンスに基づく実践(EBP)」が重視されています。科学的根拠に基づいた治療やケアは、安全性や効果を高めるために欠かせないものです。しかし近年、「エビデンス通りに支援しているのに、患者さんや利用者さんが満足していない」という声も少なくありません。その理由は、エビデンスが「多くの人に有効な方法」を示す一方で、「目の前の一人が何を望んでいるのか」までは教えてくれないからです。これからの医療・介護・福祉職には、EBPに加えて、その人の人生や価値観を理解するナラティブ(物語)、心に寄り添う傾聴と対話、そして患者・利用者と共に選択する(患者・利用者中心の意思決定)を統合した支援が求められています。では、現場で生まれやすい五つのギャップを見ていきましょう。

治療成績よりも「納得して選べたか」が重要

治療成績(エビデンス)と「納得」のギャップ
・医療者:「最も効果が高い治療です」
・患者:「自分で納得して選びたい」

医療者は「最も効果が高い治療」を提案します。しかし患者さんが本当に求めているのは、「自分で納得して選べた」という実感です。たとえ医学的に最善の治療であっても、自分の価値観や生活に合わない選択であれば、不安や後悔が残ることがあります。だからこそ必要なのは、「何が正しいか」を伝えるだけではなく、「あなたは何を大切にしたいですか」と問いかける対話です。エビデンスは選択肢を示し、最終的な答えは患者さんと共に見つけていく。その姿勢が信頼関係を育みます。

身体のデータだけでは、心の痛みは見えない

身体データの改善と「心の苦しみ」のギャップ
・医療者:血圧・血糖値・検査データを重視
・患者:「不安や孤独を分かってほしい」

血液検査や画像検査の結果は改善しているのに、患者さんの表情は晴れない。そのような経験はないでしょうか?数値は回復していても、「仕事に復帰できるだろうか」「家族に迷惑をかけている」といった不安は残っています。医療者が見るのは身体の回復ですが、患者さんは人生そのものを生きています。だからこそ、「体調はいかがですか」だけでなく、「今、一番心配なことは何ですか」と尋ねる時間が必要です。心の声に耳を傾けることで、本当に必要な支援が見えてきます。

標準化されたケアの中にも、その人らしさを忘れない

標準化されたケアと「一人ひとりらしさ」のギャップ
・医療者:ガイドラインに沿った対応
・患者:「私は他の患者とは違う」

ガイドラインやマニュアルは質の高いケアを提供するための大切な指針です。しかし、患者さんや利用者さんは一人として同じ人生を歩んできた人はいません。同じ病名でも、家族構成も、生き方も、大切にしている価値観も異なります。その人らしさを理解するためには、「どんな人生を歩んできたのか」「何を大切にして生きてきたのか」というナラティブに耳を傾けることが欠かせません。標準化されたケアに、その人だけの物語を重ねることで、初めて「その人らしい支援」が実現します。

安全を守ることと、尊厳を守ることを両立させる

安全管理と「自由・尊厳」のギャップ
・医療者:転倒防止・事故防止を最優先
・患者:「危険でも自分らしく生活したい」

転倒予防や事故防止は重要です。しかし、安全を優先するあまり、「歩きたい」「自分で食べたい」「外に出たい」という本人の願いが失われてしまうことがあります。もちろんリスクへの配慮は必要です。しかし、「危ないから禁止する」という発想ではなく、「どうすれば安全に希望をかなえられるか」と考えることが、患者・利用者中心の支援です。リスクをゼロにすることではなく、その人の尊厳を守りながらリスクを最小限にする。その視点がこれからの支援には求められます。

忙しい現場だからこそ、「短い対話」の価値を大切にする

効率性と「寄り添う時間」のギャップ
・医療者:限られた時間で業務をこなす
・患者:「5分でもいいから、ちゃんと話を聴いてほしい」

「時間がないから、ゆっくり話を聴けない。」多くの医療・介護・福祉職が抱える悩みです。しかし、患者さんが求めているのは、必ずしも長時間の面談ではありません。たった一分でも、目を見て話を聴く。名前を呼んで声をかける。「何か困っていることはありませんか」と尋ねる。その短い対話が、「自分は大切にされている」という安心感につながります。忙しい現場だからこそ、一つひとつの関わりの質を高めることが、結果として信頼関係を築き、より良いケアにつながるのです。

「正しい支援」から「その人に合った支援」へ

エビデンスは、医療・介護・福祉に欠かせない土台です。しかし、その土台の上に築かれるべきものは、その人らしく生きたい」という願いに寄り添う支援ではないでしょうか。EBP、ナラティブ、傾聴と対話、そして患者・利用者中心の意思決定。この四つは対立するものではなく、互いを補い合う関係にあります。「この治療は正しいだろうか」だけではなく、「この人にとって最善だろうか」という問いを持つこと。その視点こそが、これからの医療・介護・福祉職に求められる専門性であり、患者さんや利用者さんが本当に求めている支援につながるのではないでしょうか? このコラムが少しでも医療従事者のみなさんのお役に立てれば幸いです。

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時田幸子

時田幸子

看護師

会社員、フリーター、主婦を経て看護師国家資格を取得。看護師歴23年。 病院・(特養・有料)老人ホーム・サ高住・ディサービス・訪問看護ステーション勤務。 多数の心理学を学びセミナーを主催。ガン患者様・ご家族様へ傾聴ボランティア歴10年。現在は講師業、セミナー主催、個人カウンセリング&LINE相談活動中。 NPO法人日本ゲートキーパー協会認定講師 ・ 一般社団法人日本ストレスチェック協会認定SMFT ・アンガーマネージメントキッズインストラクター・ 再決断療法心理カウンセラー・トラウマ解消心理セラピスト・ パステル画でイラストや曼荼羅アートを描くことや己書という筆文字を通して、心の癒しと自己表現する場作りのお手伝いも楽しんでいます。

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