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介護現場に潜む「確証バイアス」の罠

確証バイアスとは?

 私たちが日々生活し、仕事をする中で、頭の中で無意識のうちに膨大な量の情報処理が行われています。その際、私たちの思考や判断に大きな影響を与えているのが認知バイアス(思考の偏り)です。中でも、対人援助職である介護やリハビリテーションの現場、そして組織マネジメントにおいても特に注意すべきなのが「確証バイアス」です。
 確証バイアスとは、「自分の仮説や思い込みを支持する情報ばかりを無意識に集め、それに反する情報を無視したり、過小評価したりしてしまう心理的傾向」のことを指します。人は誰しも「自分の考えは正しい」「自分の見立ては間違っていない」と思いたい心理が働いています。そのため、人は自分の都合のよい証拠ばかりを探すフィルターを自動的にかけてしまうことがあります。
 本コラムでは、この確証バイアスが私たちの「認知」そのものをどうゆがめてしまうのか、そして介護現場における利用者様との関わりやチーム連携にどのような影響を及ぼすのかを紐解き、私たちがプロフェッショナルとして持つべき心構えについて考えてみたいと思います。

確証バイアスが引き起こす「認知のゆがみ」

 確証バイアスが本当に恐ろしいのは、それが単なる考え方のクセに留まらず、最終的にはその人の「認知そのものを大きくゆがめてしまう」点にあります。「そうじゃないはずなのに、そういうふうに見えてしまったり、聞こえてしまったりする」という現象が起きてしまいます。
 たとえば、あなたが「Aさんは私のことを快く思っていない、嫌っているのではないか」という思い込みを持っていたとします。すると、Aさんがただ別の考え事をしていて偶然目が合わなかっただけなのに、「やっぱり意図的に避けられている」と確信してしまいます。あるいは、Aさんが単純に仕事で疲れてため息をついただけなのに、「私に対する呆れのため息だ」「私のやり方が気に入らないのだ」と聞こえてしまいます。
 客観的に見れば何の悪意もない行動や言葉が、確証バイアスのフィルターを通すことで、すべて「自分が嫌われている証拠」として脳内で変換・処理されてしまいます。しかも、脳が自動的に情報を書き換えてしまっているため、本人は「それが紛れもない事実だ」と信じ込んでしまいます。
 一度この罠にハマると、自分の力だけで客観的な事実へと軌道修正することが非常に困難になります。自分の見ている世界だけが「真実」になってしまうからです。

利用者様との関わりにおける確証バイアスの弊害

 この確証バイアスは、介護やリハビリの現場における利用者様との関わりにおいて、時として深刻なすれ違いを生む原因となります。
たとえば、「Bさんはいつも怒りっぽく、ケアやリハビリに対して拒否的だ」という先入観をスタッフが持ってしまったとします。すると、Bさんが少しでも不機嫌な態度をとったり、アプローチを断ったりした時に、「ほら、やっぱり今日も怒っている」「この人はこういう性格だから仕方ない」と、その思い込みをさらに補強する事実ばかりが記憶に強く刻まれていきます。
 しかし、実際にはどうでしょうか。Bさんが穏やかに窓の外を眺めている時間や、他愛もない会話で小さな笑顔を見せた瞬間、あるいはケアの後に「ありがとう」と口にしてくれた瞬間があったかもしれません。確証バイアスが働いていると、こうしたBさんののポジティブな姿は、「今日はたまたま機嫌が良いだけだ」と例外処理されてしまうか、最悪の場合はスタッフの認識にすら入らなくなってしまいます。
 その結果、Bさんの「拒否」の背景にある「身体的な痛み」や「先の見えない不安」、あるいは「環境への不快感」といった本当の理由を探ろうとする視点が失われてしまいます。「怒りっぽい人だから」という画一的な解釈で思考停止に陥ってしまうと、利用者様が本来もっている個性や姿や強みを引き出すことはできず、信頼関係を築くことも困難になってしまいます。

チーム連携を阻害する確証バイアス

 利用者様に対してだけでなく、スタッフ同士のチーム連携においても、確証バイアスは大きな障壁となります。多職種が連携する現場では、お互いの信頼関係と情報共有が不可欠ですが、ここにバイアスが入り込むとチームの機能は著しく低下します。
 「C職員は仕事が雑で、いつもミスをする」という先入観を周囲が持ってしまったとしましょう。すると、C職員が提出した記録にほんのわずかな誤字があるだけで、「やっぱりCさんはいい加減だ」「いつまで経っても成長しない」とマイナス面ばかりがクローズアップされます。一方で、C職員が誰よりも早くナースコールの音に気づいて対応したり、利用者様の些細な体調の変化に気づくポジティブな行動をしても、「誰かがフォローしたのだろう」「あれくらいやって当然だよね」と正当に評価されなくなってしまいます。
 このような偏った見方が定着すると、C職員への風当たりは強くなり、職場内の心理的安全性は著しく低下します。C職員自身も「どうせ自分は評価されない」「何を言っても否定される」と感じ、チーム内の報告・連絡・相談でさえも躊躇するようになります。その結果、ミスを隠したり、重要な情報の伝達漏れが発生しやすくなり、最終的には利用者様へのケアの質を落とし、重大な事故につながってしまうかもしれません。

確証バイアスに囚われないための「心構え」

 では、私たちはこの確証バイアスとどのように向き合えばよいのでしょうか。完全にバイアスをなくすことは不可能です。だからこそ「自分にも必ず確証バイアスがある(自分の認知は完璧ではない)」という前提に立つことが、最初のステップとなります。その上で、以下のような心構えを持つことが重要です。

①自分の認知を疑う(メタ認知の視点)
 利用者様やスタッフに対して「この人はこういう人だ」「絶対にこうだ」と決めつけている自分に気づいたら、「ちょっと待てよ、これは自分の思い込みや偏見ではないか?」と一旦立ち止まる癖をつけましょう。自分の思考をもう一人の自分が上から観察するような「メタ認知」の視点を持つことが大切です。

②あえて「反証」を探す
 自分の仮説とは逆の事実がないかを意識的に探す習慣をつけましょう。「Bさんはいつも拒否的だ」と思ったら、「Bさんが拒否しなかったのはどんな状況の時か?」「笑顔を見せた場面は本当に一度もなかったか?」と、自分の思い込みを覆す材料を意図的に拾い集めます。ネガティブな面だけでなく、ポジティブな側面に光を当てることで、見え方が大きく変わってきます。

③チームの多様な視点を活かす(対話の重視)
 自分一人ではバイアスの罠から抜け出せなくても、他者の目は有効なストッパーになります。「私はCさんのこういう部分が気になっているのだけれど、あなたから見てどう思う?」と、フラットに意見を求めてみましょう。自分とは違う職種、違う経験を持つ人の意見に耳を傾けることで、「そういう見方もあったのか」と、ゆがんでいた認知のレンズを正常に戻すことができます。

おわりに

 確証バイアスは、気を抜けばいつでも私たちの思考に偏りを生み、事実をゆがめてしまいます。しかし、その存在を知り、「自分も間違えることがある」という謙虚さを持つことで、私たちは見落としていた利用者様の本当の笑顔や、仲間の陰ながらの努力に気づくことができるはずです。
 事実をありのままに捉え、多角的な視点を持とうとする姿勢。それは、利用者様のQOL(生活の質)を向上させる最適なケアの提供に直結するだけでなく、スタッフ同士が互いの強みを認め合い感謝し合う、風通しの良い組織づくりにも欠かせない要素なのではないでしょうか。

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小山智彦

小山智彦

認定作業療法士

「感謝には人やチームの課題を解決する力がある」と考え、感謝の気持ちを伝える「サンクスカード」の普及に取り組んでいる。国際学会での発表や執筆活動、研修や大学での講義などを通じて感謝の文化づくりと幸せな職場づくりを推進し、「ケアする人もされる人も幸せになる」ことを目指している。 日本作業療法士協会 認定作業療法士/日本実務能力開発協会 認定コーチ/一般社団法人Well-Being DESIGN 認定Well-Being Dialogue Cardファシリテーター/ポジティブ心理学実践インストラクター

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