介護の現場は、利用者様一人ひとりの尊厳を守り、その人らしい生活を支えるために、多様な専門職が協力し合うチームワークが不可欠です。チームをまとめ、目標に向かって全員が力を合わせられるよう導くリーダーの役割は、これまで以上に重要性を増しています。
しかし、介護の仕事は肉体的にも精神的にも負担が大きく、人員不足や離職率の高さが問題となることも少なくありません。そのような状況下で、職員のモチベーションを維持し、チーム全体の力を最大限に引き出すために、リーダーに求められるものが大きく変わってきています。
本コラムでは、現代の介護現場において、リーダーがどのような役割を果たすべきか、そして、効果的なチームビルディングを実現するために、リーダーが持つべき資質や心構えについてご紹介していきます。
介護職のチームビルディング ~リーダーの在り方編~
①信頼される愛のあるリーダーであること
リーダーは、職員一人ひとりを尊重し、感謝の気持ちを言葉で伝えることが大切です。日々の業務の中で、職員の貢献を具体的に示し、感謝の言葉を伝えることで、職員は自分の仕事がチームにとって重要であると感じ、よりやりがいをもって働くことができます。またリーダーはただ指示を出すだけではなく、自ら率先して行動し、その結果を職員と共有することが大切です。その結果、職員はリーダーの行動を参考にしながら、自分自身の行動を改善することができます。
一方で、忘れてはいけないのが、リーダーも人間であるということです。完璧な人間である必要はありません。弱いところもありますし、ミスをしたりすることもあるでしょう。しかし、それを隠すのではなく、率直に認め、改善しようとする姿勢を見せることで、職員はリーダーをより身近な存在として感じ、チーム内の信頼関係を築くことにもつながっていくでしょう。
リーダーは職員一人ひとりと真摯に向き合い、敬意と感謝の気持ちで信頼関係を築くことが大切です。そうすることで、チームは一体感を持ち、より高い目標に向かって進んでいくことができます。
②「ダメなものはダメ」を貫く強さ
職員一人ひとりの個性を認め、多様な職員が働く職場を目指すことはとても大切です。一方で、リーダーは、職員一人ひとりの個性を尊重しつつも、「ダメなものはダメ」というルールをしっかりと守り、チーム全体で共通の価値観を共有していく必要があります。例えば、利用者様への不適切ケアや、職員間のハラスメント等については、その理由を丁寧に説明し、厳しく禁止することが重要です。
もちろん、職員から様々な反応があるかもしれません。中には、ルールに不満を感じる人もいるかもしれません。しかし、リーダーが毅然とした態度でルールを貫き、その理由を丁寧に説明することで、より強い信頼関係をつくることができます。なぜなら、職員は、リーダーが利用者様や職員の安心や尊厳を第一に考えていることを理解し、心理的に安全な状態で仕事に取り組めるようになるためです。また、ルールが明確であることで、職員間の対立やトラブルを防止し、チーム全体の円滑な運営にもつながっていくでしょう。
③何を語るか以上に、どのような存在であるか
リーダーが何を語るかは、チームの方向性を定め、職員のモチベーションを向上させる上で非常に重要な要素です。しかし、いくら素晴らしいビジョンや目標を語ったとしても、リーダーの言動がそれに伴っていなければ、職員は不信感を抱き、その言葉に耳を傾けようとしません。大切なのは、リーダーが何を語るのか、ということ以上に、どのような存在であるか、ということです。つまり、言葉と行動の一致が求められます。
例えば、「チームワークを大切にし、お互いを尊重し合いましょう」と呼びかけながら、実際には自分だけが目立とうとし、他の職員を無視するようなリーダーは、決して信頼を得ることができません。言葉と行動の一致は、リーダーの信頼性を高め、チーム全体の士気を向上させる上で不可欠な要素です。もちろん、完璧な人間はいないため、常に一致している状態を保つことは難しいかもしれません。しかし、言葉と行動のギャップを認識し、一致させるよう努力する姿勢を見せることがチーム内の信頼関係を強固にしていきます。
④あなたがいてくれてよかった、ありがとう
「あなたがいてくれてよかった、ありがとう」という言葉は、単なる感謝の言葉を超え、相手に大きな喜びと安心感を与えることができます。この言葉には、「存在承認」という、相手の存在そのものを認め、価値があることを伝えるという意味が込められています。
「今日はありがとう。すごく助かった!」「イベントも無事におわった。○○さんがいてくれて、本当によかった!」「君のおかげで、いつも助かっているよ。ありがとう」といった言葉は、具体的な行動や成果に対する感謝だけでなく、その人がチームの一員として不可欠な存在であることを伝えています。
これらの言葉は、相手を励まし、モチベーションを高める効果があります。特に、日々の業務の中で、なかなか目に見えない貢献をしている人に対して、このような言葉をかけてあげることは、非常に大きな意味を持ちます。なぜなら、人は誰しも、自分の存在が認められたいという欲求を持っているからです。感謝の言葉によって、その欲求が満たされると、人は自信を持ち、より一層仕事に打ち込むことができるようになります。
⑤感情を共有する=「一緒に喜ぶ」「一緒に悔しがる」
介護の現場では、リーダーの感情的な姿勢がチーム全体の雰囲気に大きな影響を与えます。しかし、残念ながら「一緒に喜ぶ」ことが苦手なリーダーも少なくありません。職員が成果を上げた時や利用者様の小さな変化を報告しても、「当たり前だ」という態度をとるリーダーがいると、職員のモチベーションは下がりがちです。
一方で、喜びや悔しさをチームで共有できるリーダーは、チームの信頼関係を強化します。たとえば、利用者様が新しいリハビリに挑戦し成功した時、その成果を職員と一緒に喜び合うことで、職員は「自分の努力が認められている」と実感できます。また、目標が達成できなかった場合にも一緒に悔しがり、共に改善策を考えることで、職員は「一人で抱え込む必要はない」と安心感を得られるのです。
感情を共有することは、単なる一瞬のやり取りではありません。それはチーム全体の絆を深め、働きやすい環境を作る大切なステップです。一緒に喜び、一緒に悔しがる姿勢を持つリーダーが増えることで、介護現場はより温かく、活力に満ちた場所となるでしょう。
リーダーが一番大切にしたいこと
チームビルディングにおいて最も大切なことは、リーダーが職員を「承認」する姿勢をもつことです。たとえば、「この人は失敗ばかりする」「勉強もしないダメな職員だ」といったネガティブな先入観から入れば、リーダーの態度は自然とその人の成長を妨げる方向に向かってしまいます。一方で、良いところも未熟なところも含めて、職員を認めて受け入れるリーダーは、職員の可能性を引き出す力を持っています。「このチームにはあなたが必要だ」「あなたには価値があり、成長できる」と信じる姿勢は、職員の自己肯定感を高め、チーム全体のエネルギーを引き出します。このように、個々の力を尊重し、可能性を信じることで、チームもまた大きな可能性を秘めた集団へと進化していくのではないでしょうか。