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専門家コラム

境界線が引けない本当の理由と境界線を守るための実践策

『NO』と言えない心の背景

境界線を引けない人に影響する幼少期体験

こうした傾向の背景には、次のような体験が重なっていることがあります。
①条件付きの愛情で育った経験
「いい子でいれば褒められる」「役に立てば認められる」家庭環境では、NO=愛情を失うという無意識の恐怖が形成されます。
そのため、大人になっても「期待に応え続けること」が自己価値の証明になります。
②親の感情を先回りしていた子ども時代
親が不安定・多忙・余裕がない場合、子どもは空気を読み、感情を抑え、調整役になります。その結果、自分より相手を優先する癖が定着します。波風を立てないことが最優という対人スタイルが定着します。
③NOを言うと責められ・怒られ・否定された経験
意見を言うと怒られた、わがままと責められた経験は、「断る=悪いこと」という思い込みを残します。NOを言うこと自体に罪悪感を持つようになります。そのため、限界でもYESを選び、後から自分をすり減らします。
④早くから“役割”を背負わされた
長子、ヤングケアラー、母子家庭などで「しっかり者」「頼れる子」を求められると、助ける側でいなければならない自己像が固定されます。これらは性格ではなく、過去に必要だった生存戦略です。しかし医療現場ではそれが過剰適応となり心身を消耗させます。                                
⑤ 自分の感情を後回しにする癖が身についた
「我慢が当たり前」「弱音は禁止」の環境では、自分の限界や不調に気づく感覚が鈍くなります。結果として、境界線を引く“感覚”そのものが育ちません。

医療従事者のメンタルを整え、境界線を引くための対策

対策① 境界線の再定義
境界線は冷たさではなく、安全と質を守るための自己管理です。
実践例
1.「断る=無責任」という思考を書き換える
2.NOは患者ではなく“状況”に向けていると理解する
3.長く働くための技術だと捉え直す

対策② 身体感覚を無視しない
境界線が崩れると、心より先に身体が悲鳴を上げます。
実践例
1.疲労・動悸・皮膚症状を「警告」として扱う
2.不調が出たら業務量を可視化する
3.体調を理由に調整することを正当化する

対策③ 安全にNOと言うことを練習する
境界線は、関係を壊さず表明できます。
実践例
1.「今日はここまでなら可能です」と範囲を示す
2.代替案を添える
3.小さなNOを言うことから練習する                                                                   

対策④「役に立たなければ価値がない」という思い込みを手放す
境界線を引けない背景には、「期待に応え続けなければ存在価値がない」という無意識の信念があります。
実践例
1.役割や成果ではなく「存在そのもの」に価値があると言語化する
2.「今日は何をしたか」より「今日も無事に終えた事実」を認める
3.感謝や評価がなくても、自分で自分を労う習慣を持つ    

対策⑤ 一人で抱えない“仕組み”をつくる
境界線は、根性や我慢ではなく「支え合う構造」があってこそ守れます。
実践例
1.相談できる相手を事前に決めておく
2.限界サインが出たら必ず誰かに共有するルールを作る
3.心理職・産業保健・外部相談を日常的な選択肢にする

医療現場で必要な「境界線」の種類と対策

① 業務の境界線
役割を超えて抱え込みすぎない線引き。
実践
1.職務範囲を書き出す
2.組織課題と個人責任を分ける
3.頼まれごとを即答しない

② 感情の境界線
他人の感情を自分の責任にしない。
実践
1.相手の不機嫌を背負わない
2.共感と同一化を分ける
3.感情を持ち帰らないルーティンを作る

③ 時間の境界線
休む時間・回復する時間を守る。
実践
1.休憩を削らない
2.仕事を家に持ち込まない
3.回復予定をスケジュールに入れる

④ 心理的境界線
評価=自己価値にならない線。
実践
1.ミスと人格を切り離す
2.承認を外に求めすぎない
3.「十分やっている」と自分に言う

おわりに

境界線が引けないのは、あなたが優しく、責任感が強かった証です。
しかし、自分を削り続けて守れる医療は存在しません!
医療従事者が健康であることは、患者さんにとって最大の安心材料です。
あなた自身を守ることは、結果として“誰かの命を守ること”につながります。
どうか、今日から少しずつ、
「NOと言っても大丈夫な自分」を育ててください。                                                                                                           多くの方にとって、仕事に従事している時間が人生の中で最も長い時間だと思います。今の職場で自分の得意なこと、才能を活かして社会貢献できることは素晴しいことですが、それは『自分』という存在を最優先し、大切にすることが前提条件です。自分で限界だと感じたら、立ち止まること「休職」や、「助けを求める」こと、「転職」で新しい可能性やキャリアを豊かにするチャンスを掴むことも視野に入れて頂きたいと思います。進む道も方法もいくらでもあります。「自分にとって納得できる働き方」に出会えますように、少しでも私の経験も役立てばと願っています。 このコラムが医療従事者の皆さんのお役に立てれば幸いです。 

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時田幸子

時田幸子

看護師

会社員、フリーター、主婦を経て看護師国家資格を取得。看護師歴23年。 病院・(特養・有料)老人ホーム・サ高住・ディサービス・訪問看護ステーション勤務。 多数の心理学を学びセミナーを主催。ガン患者様・ご家族様へ傾聴ボランティア歴10年。現在は講師業、セミナー主催、個人カウンセリング&LINE相談活動中。 NPO法人日本ゲートキーパー協会認定講師 ・ 一般社団法人日本ストレスチェック協会認定SMFT ・アンガーマネージメントキッズインストラクター・ 再決断療法心理カウンセラー・トラウマ解消心理セラピスト・ パステル画でイラストや曼荼羅アートを描くことや己書という筆文字を通して、心の癒しと自己表現する場作りのお手伝いも楽しんでいます。

  1. 境界線が引けない本当の理由と境界線を守るための実践策

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