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現場から学ぶアンガーマネジメント ~怒りの連鎖を止める介護現場の工夫~

続 アンガーマネジメント

アンガーマネジメントは、怒りやイライラなどの負の感情を理解し、怒りと上手く付き合うためのスキルです。アンガーマネジメントを身につけることで、怒りの一時的な感情に流されず、冷静に状況を見ながら行動できるようになります。前回のコラムでは、怒りのメリット・デメリット、アンガーマネジメントの具体的な実践方法、メタ認知についてご紹介しました。→怒りの暴走を止める「アンガーマネジメント」と「メタ認知」のアプローチ(https://care-college.jp/expert-column/anger_management/
 アンガーマネジメントでは、6秒ルールや深呼吸の実践、メタ認知の視点は非常に有効だと言われています。一方で、介護の現場だからこそできるアンガーマネジメント、怒りを生まない職場作りもあるのではないでしょうか。
 今回のコラムでは、私が介護職員にインタビューを行い、それをもとに得られた「現場から学ぶアンガーマネジメント」について、ご紹介いたします。

現場から学ぶアンガーマネジメント

実際にインタビューを行った際には、10名の介護職員(介護主任含む)を対象に、利用者様への関わりで大切にしていること、職員との関わりで大切にしていること、イライラした時の対処法等について、質問しました。それらの質問から得た回答をもとに、アンガーマネジメントの視点で、ポイントをまとめましたのでご紹介いたします。

①イライラしてしまったときは、いったんその場から離れる

 職員や利用者様との関わりの中で、時にはイライラしてしまう瞬間もあるでしょう。そのような時は、一度その場から離れることで、イライラの原因となっている相手や状況と一定の距離を置くことができます。これにより、感情にまかせた行動(相手を怒ってしまう等)をとることを抑え、一度客観的に状況を見ることができ、冷静に解決策を見つけやすくなります。

②時には「仕方がない」と割り切る

 例えば、認知症は脳の疾患であり、どんなに経験を積み重ねたベテランの介護職員であっても、その方の行動や言動の予想が難しく、理想通りのケアができない場合があります。そのため、常に理想的な対応を追い求めすぎてしまうと、支援する側の心理的な負担が大きくなり怒りなどのネガティブな感情が生じやすくなります。時には理想的なケアができないことについて「仕方がない」と割り切り、試行錯誤しながらケアをしていく心構えをもつことで、ストレスや怒りを回避することができます。

③上手くいかなかった(失敗した)エピソードを共有する

 例えば、失敗したエピソードを他の職員と共有することで、同じような経験をした職員から共感や理解を得ることができます。これにより、孤立感や焦燥感を和らげることができ、心の負担を軽減し、感情の暴走を防ぐ効果があります。また、その失敗の原因や背景を冷静に振り返るきっかけにもなり、他の職員からのフィードバックやアドバイスを受けることで、同様の失敗を避けるための解決策を見つけることにもつながります。

④自分の中でため込まず、他職員に話をする(感情を放出する)

 イライラした感情をため込んでしまうと、ネガティブな思考を繰り返してしまい、さらに負の感情が蓄積され、怒りだけでなく、最悪の場合、虐待やハラスメントに発展する可能性もあります。そのため、他職員に、思いのままを話すことで、感情を放出することができ、ネガティブな感情の蓄積を防ぐことができます。
 ただし、非常に強いネガティブ感情がある場合はTPOをわきまえる必要あります。強いネガティブな感情をオープンな場所で、チーム内の複数の職員と共有することは、チーム全体にネガティブな影響(あきらめ、モチベーション低下など)を与えてしまうリスクもあります。そのため、オープンな場ではなく、個室などのクローズドな場で、話を聞いてくれる上司や先輩と1対1の対話で行うなど、配慮が大切です。

⑤職員の良いところ、頑張っているところを認め、言葉にして伝える

 ネガティブな感情を抱いてしまったとしても、上司や先輩、同僚から、良いところや頑張っているところを言葉にして伝えられることで、自分の努力が認められたと感じ、やる気や意欲が高まり、仕事に対する取り組み方も積極的になります。このようなコミュニケーションは、現場にポジティブな雰囲気を生み出します。ポジティブな雰囲気の中で働くことで、怒りの暴走を抑え、困難な場面でも前向きに仕事に取り組むことができ、チーム全体の結束力も高まっていきます。

⑥職員同士、感情の変化に気付き、お互いに声を掛け合う

 職員同士がお互いの感情の変化に気付き、声を掛け合うことは、怒りの暴走を抑えることに有効な方法です。職員同士がお互いの感情の変化に気付くことで、自己認識が促進されます。その結果、自分の感情や行動を客観的に見ることできるようになり(メタ認知)、冷静な行動をとることへとつながります。
 職員をよく観察し、怒りなどのネガティブな感情が蓄積していないか、日々の変化をみるのはリーダーの役割でもあります。リーダーは、職員が良い感情の状態で働くことが、良いケアにつながっていくことを認識し、積極的に職員に声をかけていく必要があります。もちろん、リーダーだけでなく、職員同士、気軽に声を掛け合えるような雰囲気をつくることが、お互いの信頼関係を生み、感情的な状況でも冷静に対処できるチームへと醸成されていきます。

より良い個人とチーム作りが怒りの暴走を抑える

介護の現場は、様々な職種、年代、考え方をもった多様な職員が一緒に働いています。時には、お互いの価値観の違いから、怒りや不満を感じたりすることもあるかもしれません。そのような感情が、職場内で増えていくと、怒りの連鎖が次から次へと広がっていき、コミュニケーションやチームワークのみならず、利用者様へのケアにも大きな影響を与える可能性がでてくるでしょう。
まずは、個人でできることを行いましょう。6秒ルールや深呼吸だけでなく、コラムで紹介したその場からいったん離れることや時には割り切ることも、怒りの暴走を抑える工夫や考え方の一つです。
 そして、次に、職員同士お互いに歩み寄り、価値観の違いをわかり合おうとすること、お互いの立場に立って助け合おうとすることが大切です。時には話を聞いてあげたり、お互いの良い所を言葉で伝えたり、お互いの感情の変化に気付き声をかけあったり・・・。そういった、お互いに気軽に声を掛け合えるような雰囲気の職場、ポジティブな言葉が飛び交う職場、つまり心理的安全性の高い職場作りが、前向きで強いチームへと発展していきます。
 介護の現場におけるアンガーマネジメントは、個人の力だけでなく、チーム全体のマネジメントが重要です。個人とチームのパフォーマンスをあげていく取り組み、そういったことの積み重ねが、怒りの暴走や、怒りの連鎖を止め、より良いケアにつながっていくでしょう。

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小山智彦

小山智彦

認定作業療法士 感謝の伝道師

日本作業療法士協会 認定作業療法士。介護現場の人間関係やチームワークで悩む日々の中、どん底の時に感じた深い感謝の想いと10000回の“ありがとう”に触れ、「人やチームの問題は感謝で解決できる!」と確信。 感謝を伝える「サンクスカード」の普及と独自の理念「サンクス道」を展開する。国際学会での発表、介護情報誌での執筆活動、研修や大学での講義など行い、講義では感動で涙する受講者が続出している。 ★「感謝の文化を作ることで『利用者様への感謝』が増え、ケアする人もされる人も幸せになる『寄り添いのイノベーション』が生まれます。私自身のこれまでの経験と想いを、コラムを通じて多くの方へ伝えていきたいです。

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