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専門家コラム

人が人を想う気持ちを大切に~認知症介護指導者になるまで~

介護の道へ決意

中学生の頃、近所に止まっていた訪問入浴の車を見て私は「何の車だろう」と気になったことがきっかけで介護の仕事があることを知りました。「お年寄りの人と関われる仕事がしたい」と将来就きたい職業は、介護職だと中学生の時の私は決心しました。中学3年生の時の担任の先生に、介護福祉士になるにはどうしたら良いのかと相談し、高校卒業後に介護の専門学校へ進む道を目指すことになりました。介護の道を目指す一番のきっかけとなったのが、高校1年生の時に母が亡くなったことです。母は、難病を患い最期は癌が原因で亡くなってしまいました。母が亡くなる前に一時退院した時、ホームセンターで花壇に植える花を母が買おうとしましたが、反抗期真っ盛りだった私は「そんなのいらないでしょ」と冷たい言葉を投げかけてしまいました。花が大好きだった母が最期にどんな気持ちでいたのか、ずっと後悔が残り母との別れから時間が経過すると共に「人が大切にしている生きがいを私も大切にしたい」そして介護福祉士になり「高齢者の人の生きがいを一緒にみつけたい」という思いが芽生えました。その思いを胸に大学へ進学し介護福祉士になり、今も「高齢者の人の生きがいを一緒にみつけたい」という気持ちは変わらずにいます。

「ユマニチュード」認知症のケア技法との出会い

「ユマニチュード」を皆さんご存じでしょうか。新潟医療福祉大学を卒業後、務めた療養型の病院(医療院)で介護職として勤務していたとき、何気なく申し込みをした「病院勤務の医療従事者向け認知症対応力向上研修」でユマニチュードを学びました。それまで私は、大学で福祉の勉強も介護技術も学んできたからと自分のケアに自信がありました。しかし、「ユマニチュード」という知覚・感情・言語による包括的コミュニケーション技法を学び、認知症ケアに強く興味を持ったのと同時に今までの自分のケアがどれほど未熟であったかと落胆し、とても恥ずかしくなりました。
介護現場では、ケアする側とされる側に分けられてしまっているように感じます。介護が必要になった人も認知症の人も一人の人として、私たち専門職は関係を築いていくことが必要です。
ユマニチュードの4つの柱として、①「見る」技術②「話す」技術③「触れる」技術④「立つ」技術があります。この4つの柱は「あなたを大切に思っています」と相手にわかるように伝える技術です。ユマニチュードを学び、ケア方法を現場に周知し実践を行うと、認知症で食事が取れなくなり胃ろうを増設し寝たきりになった利用者さんの発語や笑顔が増えたという実践結果など経験を通して思うことは、言葉以外の方法で相手に「あなたを大切に思っています」と伝える方法の一つとして「ユマニチュード」という技法が効果的であるということです。なによりも「触れる」ということの効果は大きいと感じました。年を重ねるにつれ、自分の役割や存在感が薄くなり孤独に感じたりすることがあるかもしれません。その中で、人と人とが「触れる」ことで優しさやぬくもりが伝わり、自分の存在を認めることにつながります。

認知症介護指導者として

認知症ケアに興味を持ってからは、認知症に関する研修に隈なく参加しました。そして、認知症介護指導者研修を修了し認知症介護指導者としての活動を行うようになりました。そもそも、認知症介護指導者とは何をする人なのだろうと思う人もいるかもしれません。認知症介護指導者とは、主に役割として認知症介護実践研修等について企画・立案に参画し、講義、演習、実習を担当しています。また、介護専門職に対する人材育成の関与に加え、認知症介護指導者自身が所属する事業所を中心とした地域の指導者としての役割も担っています。全国そして新潟県でも多くの認知症介護指導者が人材育成や地域の認知症ケアの質の向上のために活躍しています。
私が認知症介護指導者になった時、指導者の先輩からのご紹介もあり新潟日報の方に認知症啓発キャンペーン「オレンジの輪」で取材をしてもらいました。記事の見出しに「人と人つなぐ懸け橋に」と掲げてもらいましたが、私自身が地域活動や講師活動、研修等を通してたくさんの人とつながることができています。
以前、息子と認知症カフェに参加した時、息子が8か月の頃だったのですが人見知りすることなく参加している皆さんに抱っこしてもらっていました。認知症カフェに参加されていた女性が帰り際に「母は認知症で今日、一緒に参加したんですけど最近では言葉がなかなか出てこなくなっていたんですが、赤ちゃんにだけは反応してしゃべっていたんです。ありがとうございました。」と話しかけてくれました。指導者になってから認知症について正しい知識と理解をしてもらい、現場で活かせるようなケア方法等を伝えてきました。確かにそれも大事ですが、認知症ケアとして何か特別なことをしなくても、認知症の人の気持ちを明るくして笑顔にすることができるということを息子に教えてもらいました。

チームオレンジ地域づくりセミナーにて

最後に

介護の仕事をしている人たちは、きっと「人が好き」なんだと私は思います。介護職は、専門職であり介護の仕事をしている人たちは誇りや責任を持って仕事をしています。「介護の仕事って大変でしょ?」とよく聞かれますが、確かに大変な仕事かもしれませんが、やりがいや楽しさは他の仕事と同じようにあると思います。そして「人を想う気持ち」があれば誰でも介護の仕事を始められます。そして、認知症ケアで大切なポイントを少しお伝えさせてもらうとすれば、①認知症の正しい知識と理解「その人を知る、相手の思いを聴くこと、考えること」②認知症の世界を受け入れる「その人らしさを尊重する」③笑顔でポジティブ思考「楽しく前向きな言葉かけ」④一緒にできることをみつける(役割)「認知症になったからといって何もわからなくなったり何もできなくなったりするわけではない」認知症について偏見や誤解がないようにこれからも多くの人に伝え続けていきたいと考えています。
どんな時も心は、人間の原動力になります。「人が人を想う気持ちを大切に」これは、介護の仕事において利用者さんにだけでなく職員同士、家族や周りの人たちすべての人たちへ大切にしてもらいたい想いです。介護や認知症に興味を持ち話を聞いてみたい方は、是非お声かけいただきたいと思います。

大切な家族

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本間友美子

本間友美子

社会福祉法人ゆうしん 小規模多機能型居宅介護支援事業所くるま乃 管理者 新潟県認知症介護指導者 「~人が人を想う気持ちを大切に~」

新潟医療福祉大学を卒業後、デイサービス、病院(医療院)、介護老人保健施設、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)と介護現場での経験を積み、グループホームの管理者としても経験を積んできた。 病院に勤務しているとき、目に留まった認知症研修に参加し「ユマニチュード」という知覚・感情・言語による包括的コミュニケーション技法を学び、認知症ケアに強く興味を持ったのと同時に今までの自分のケアがどれほど未熟であったかと落胆し、これではいけないと更に技術を習得していくこととなる。 働いていく中で、医療・介護の現場で認知症ケアに対する理解がまだ不十分だと感じ、認知症ケアの専門職育成に力を入れていきたいと思い、認知症介護指導者となる。 また、地域の人たちにも認知症の正しい知識と理解をしてもらいたいと思い、講演や研修会にて認知症啓発活動をしている。

  1. 人が人を想う気持ちを大切に~認知症介護指導者になるまで~

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