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介護職員の定着を促すオンボーディング施策とは ピーエムシー株式会社 斎藤洋

オンボーディングとは何か

 介護業界には、他業種からの転職者や外国人など、本当に多様な人材が入ってくるようになりました。
入職時期もバラバラなので、入職時研修の内容に一貫性を持たせることが難しくなっているのが現状です。コロナ禍以降は動画を用いたオンデマンド研修も一般化していますが、研修や現場での指導を受けても、なかなか仕事に慣れない、覚えられないという方もいらっしゃると思います。

 多様な新人職員が仕事を覚えて職場に馴染んでいく過程のなかでどのような課題があるのでしょうか。人材育成の専門家である立教大学教授の中原淳さんは以下の二点を指摘しています。ひとつは「職場に馴染めなくて、組織的かつ政治的な知識が手に入れられない」こと、ふたつめは「過去の会社で培った信念、仕事の仕方を棄却(アンラーニング)できない」ということです。そして、これらの課題解決のサポートは上司の役割だと述べています。

 このように「職場に馴染む」という課題に対して大きなヒントになるのが「オンボーディング施策」です。オンボーディングとは、新入職員が組織にスムーズに溶け込み、早期に戦力化できるようにするための一連の施策のことです。オンボーディングを実施することで、新入職員は組織の文化やルールを理解し、早期に仕事に慣れることができます。また、上司は新入職員のサポートを行い、早期離職を防ぐことができます。今回は、このような課題を解決できる「オンボーディング」という考え方について、特に中途採用者の課題に注目して説明していきたいと思います。

オンボーディングの機能

中途採用者のオンボーディング施策には、以下の3つの機能が重要だとされています。

1)「情報を与えること」
 新入職員に情報や道具、トレーニングを提供することです。介護現場の新人職員育成においても、OFF-JTおよびOJTという方法でこれらのリソースが提供されていると思います。

2)「迎えること」
 新入職員を歓迎すること、顔合わせできる機会を提供することです。新型コロナの影響で、ここ数年間「迎えること」に関する実践が不足している事業所が多いのではないかと思います。

3)「導くこと」
 個人的な指南役であるメンターやプリセプター制度を導入することです。現在、多くの事業所で指導担当者が専任されているようです。
 これら3つの機能が適切な時期に提供されることによって新人職員は現場に馴染み、自信を持って仕事に取り組めるようになっていきます。

オンボーディング施策の内容

オンボーディングは、新しく入社した従業員が企業に馴染み、能力を発揮して活躍できるようにするための施策です。日本企業においては、新卒採用者に対しては充実したオンボーディング施策が実施されている一方で、中途採用者に対してはほとんど整備されていないという課題が指摘されています。

 中途採用者に対する具体的なオンボーディング施策について、経営学者の尾形真実哉さんは「中途採用者研修の充実化」と「上司教育管理職研修の充実」の二点を挙げています。中途採用者研修では、企業の理念や文化、組織体制、業務内容などを学ぶことで、早期に職場に適応できるように支援し、上司教育管理職研修では、中途採用者の育成方法や評価方法などを学ぶことで、中途採用者の活躍を促進します。ここは介護業界でも全く同じで、中途採用者へのオンボーディング施策の整備は重要課題だと考えます。

表1 中途採用者に対するおんぼーでんぐ施策(尾形)

上司教育・管理職研修の充実1.コミュニケーションの活発な職場をつくる能力
2.面談力
中途採用者研修の充実1.脱色研修(信念やルーティンの変更)
2.染色研修(新たな知識やルールの習得)
3.人的ネットワーク構築支援

ちなみに、ピーエムシーの人材育成プログラムにおいては、上司教育としてアサーションやファシリテーション、1on1ミーティング等の具体的なコミュニケーション技法を学び、実践してもらっています。面談力の向上についても座り方から丁寧に教えています。

 中途採用者教育における「脱色研修」の重要性については、正直私自身、今回初めて知りました。確かに他職種から介護業界に入ってきた方の中には、介護の職場の価値観と自身の信念の折り合いをつけることに苦労している方や、前の職場の仕事のやり方にとらわれて苦しい思いをしている方は多いと思います。脱色研修を効果的に実践することで、他業種からの中途採用者にも早い段階で介護職の倫理やコンプライアンスの概念を理解してもらうことができるのではないかと思います。今後、ピーエムシーでも脱色研修の考え方を理解し取り入れていきたいと思いました。

まとめ

 今回は、職員の定着を促すオンボーディング施策について書きました。介護業界においては、オンボーディング施策に組織的に取り組んでいる事例はまだ多くないと思います。法人や施設が主体となって、他業種での知見や実践を取り入れながらオンボーディング施策を進めていく事が、職員の定着率や職員満足度を高めることにつながるのではないでしょうか。

参考文献
『中途入社者に活躍してもらう秘訣とは?中原教授に聞いた『中途入社者の早期戦力化』エン・ジャパン
『中小企業における中途採用者2のオンボーディング施策の現状と効果的な施策』尾形真実哉
『アンラーニングのやり方と注意点』Alue

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斎藤洋

斎藤洋

ピーエムシー株式会社 主任講師

介護職、介護支援専門員、介護教員等の職を経て、現在は介護現場における職員育成や職場環境改善のお手伝いをしています。介護職の成長について、専門性と組織性(社会性)の両方の視点を意識した研修・プログラムを実践しています。最近は特にSlackやlineworks等を使った受講生とのコミュニケーションやフィードバックに興味があり、色々試しているところです。 昨年度は人間福祉学会において介護職のリアリティショックに関する査読付き論文を書き、実践報告を行いました。今年度は介護現場のオンボーディング施策について論文をまとめるのが目標です! 趣味はサッカー観戦で、アルビレックス新潟を応援しています。

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