医療介護福祉の学び情報メディア

専門家コラム

ペット飼育と福祉をつなげる (新潟医療福祉大学 五十嵐紀子)

「猫との暮らしをあきらめない」のその後

 昨年のコラムで、新潟県では初となる飼い猫と入居できる老人ホームの広報活動を新潟医療福祉大学学生ねこ部が協力する、ということを書きました。ペット同伴での施設入所は社会的ニーズが高く、メディアでも大きく取り上げられたのですが、未だ猫を連れての入居者が誕生していない状況に変わりはありません。施設側も、入居を検討している方も、それぞれの不安がどのように解消されるのかイメージできなければ無理もありません。まもなく、そのイメージをわかりやすくお伝えするリーフレットが完成します。猫と暮らすイメージがわくようなモデルルームづくりもねこ部の学生たちとしてきました。その写真もリーフレットに挿入される予定です。お披露目までもう少し。お楽しみに!

100均DIYの脱走防止柵を窓に取り付ける学生たち

Q&A形式のリーフレット

飼い主支援と社会福祉

 ペットの飼い主の突然の死亡や緊急搬送、認知症などの病や障がい、貧困などのためにペットの飼育を含めた生活環境全体が破綻してしまうケースが社会問題となっています。いわゆる「ごみ屋敷問題」や「猫の多頭飼育崩壊問題」が代表的なものです。多くが飼い主さん本人からの相談ではなく、ご近所からの苦情や家族・知人からの相談により問題が発覚し、ボランティア団体、動物愛護センターや生活保護課などの行政が介入し、支援にあたっています。今やペットは家族同然と言われていますが、法律的には本人の財産であるため、法律家との連携も欠かせません。加えて、飼い主さん本人に福祉的なケアが必要なケースが多く、福祉との連携が求められています。
 本学社会福祉学科では、今年度、NDN新潟動物ネットワークの皆さんにご協力いただき、ペット飼育と福祉の問題を考える講演会+保護犬とのふれあいタイムという教育プログラムを不定期で取り入れています。ペットと触れ合うことで癒されるというアニマルセラピーを超えて、飼い主もペットも幸せに暮らし続けることができる社会づくり、そして福祉の専門職として何ができるかを考える、その学びを深めています。

保護の経緯を聞きながら犬と触れ合う学生たち

社会的孤立とペット飼育の問題を考える

 新潟医療福祉大学では、多職種連携、チーム医療を学ぶ「連携総合ゼミ」が科目として設置されています。異なる領域で学ぶ学生たちがチームとなり、それぞれのゼミで設定された事例への支援策を検討したり、テーマを議論したりする1週間のプログラムです。今年、私が担当したゼミのテーマは「社会的孤立と猫の多頭飼育崩壊」。海外の大学からも20名近くがオンライン参加しました。ペットを適切に飼育できずごみ屋敷状態になってしまったAさん(仮名)のお宅を訪問し、清掃を行うというフィールドワークも活動に含まれました。猫を不妊去勢手術をしなかったら、いつのまにか適切に管理できない頭数まで増えてしまったという、多頭飼育崩壊の事例ではなかったのですが、家の中はペットの排泄物とごみであふれかえっている、いわゆるごみ屋敷でした。猛暑の中、床にこびりついた排泄物をへらではがし、水でふやかしてブラシでこすり取り、ひたすら床を磨く、という作業でした。合計で150キロものごみも清掃センターに持ち込みました。空き缶や紙くず、ペットの排泄物、虫の死骸など、誰が見てもごみと言えるものもたくさんありましたが、じゅうたん、カーテン、洋服、化粧品などなど、Aさんにしてみたら、ほとんどがごみではなく生活そのものだったかもしれません。学生、教員、その他ボランティアのみんなでゴミ出しと清掃を行い、部屋は見違えるようにきれいにはなりました。ですが、それは解決ではなく、この問題のほんの入り口に立ったに過ぎません。実際、数日後には家の中は再びペットの排泄物だらけになってしまいました。病気が原因でそのような状況になってしまったと考えられますが、Aさん本人を孤立させないためには様々な角度からの慎重かつ根気強いケアが必要です。ペットの飼育に失敗した人、ではなく、福祉的・医療的ケアを必要とする人として、その人に合った支援につなげていくことが欠かせません。
 今回の訪問の際、近所の方が「どうしてこんなになっちゃったんだか・・・」とつぶやいていらっしゃいました。決して悪意のある言葉ではなかったのですが、このようなまなざしが常に家の外にあるという状況は怖かったことでしょう。見ず知らずの私たちが家に入ってくるのも緊張したに違いありません。ですが、今回、清掃に入ることを受け入れてくれたAさんの、わずかではありますが開けてくれた心の扉が再び閉じてしまわないようにしなければなりません。家の清掃は根本的な解決ではなくても、目の前に見えている問題をひとつひとつ解決していくしかない。どんな専門性を持っていても連携しなければ何も前に進まない。そんな現場から学んだことは150キロ以上の重みがありました。

清掃前のAさんの家の中

  • 記事を書いた専門家
  • 専門家の新着記事
五十嵐紀子

五十嵐紀子

新潟医療福祉大学 教育・学生支援機構 中央教育センター 准教授

介護や福祉、医療の資格はおろか、運転免許すらありませんが、おもしろいことを見つけるのが得意です。専門のコミュニケーション学の視点から、ケアに関する様々な問題を前向きに解決していくことを日々考えています。趣味は猫と遊ぶこと。猫をこよなく愛していますが、犬やペンギン、カラスも大好きです。

  1. ペット飼育と福祉をつなげる (新潟医療福祉大学 五十嵐紀子)

関連記事

PAGE TOP