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専門家コラム

立ち上がり動作を理解する〜「立つこと」を学び直すことが、自立支援型起立介助の第一歩〜

はじめに

介護現場では、「立ち上がり介助」は毎日のように行われています。
しかし、その“立つ”という動作を、私たちは本当に理解できているでしょうか。
「立たせること」が目的になってしまうと、本来その人が持っている力を引き出せなくなります。すると、介助量が増え、利用者も介助者も身体を痛めやすくなります。
 
立ち上がりは、単純に筋力だけで行う動作ではありません。重心移動、支持基底面、関節運動、姿勢制御など、多くの要素が連動して成り立っています。これは理学療法士が動作分析で重視する“バイオメカニクス”の視点です。
つまり、「なぜ立てるのか」「立てないのか」をまず理解することが、正しい介助につながります。
 
今回は、立ち上がり動作を基礎から学び直し、自立支援型介助につながる考え方を整理していきます。

              「自分で立てる時は、自分で立ちたい…」

“立つ”を理解し直し、利用者の心の声を大切にし、自立支援につなげていきましょう!

第1章:人が立つとは? 〜立つ動きを学び直す〜

人が椅子やベッドから立ち上がるとき、身体の中では複数の動きが連続して起きています。
まず重要なのは、「立つ=上に伸びる動き」ではないということです。
介護現場では、「せーの!」で真上へ引き上げる介助を見かけることがあります。しかし実際の立ち上がりは、“前へ移動してから上へ”という流れで起こります。

立ち上がり動作は大きく分けると、
 1.  準備する(第2章参照)
 2.  前へ重心移動する
 3.  お尻を浮かせる
 4.  下肢を伸ばす
 5. 立位を安定させる
という流れで構成されています。
 
特に重要なのが「重心移動」です。人は重心が足の上に移動しなければ立てません。
つまり、適切かつ十分に前かがみになるのは“立つために必要な動き”なのです。
これはバイオメカニクスでいう「重心線を支持基底面内へ移動させる」という考え方です。足の裏という支える面の中に重心を入れることで、身体は安定して動けます。
また、立ち上がりでは骨盤~上半身、股関節・膝関節・足関節が連動します。特に骨盤~上半身の前傾運動が不足すると、膝や腰への負担が増えやすくなります。

“立つ”とは、重心を前へ運びながら下肢で身体を支える動きなのです。

第2章:立つための準備

立ち上がり介助で最も重要なのは、実は“立つ前”です。
準備が整っていない状態では、どれだけ力を使っても立ち上がりは不安定になります。

[椅子やベッドの高さを整える]

座面が低すぎると、股関節や膝関節の曲がりが大きくなり、重心は低く後ろに移動してしまうため、必要な筋力が増えます。
ポイントは、立ち上がりの際に「大腿が床と水平に近いか」を確認します。これは、下肢筋の力を効率よく使える高さだからです。

高さを整えない状態では、立つ“前”から辛い想いをさせていることになります。
これでは、利用者の力を十分に引き出すことはできません。

「低いベッド(椅子)では立つ前からしんどい…」に気づき、環境を調整していきましょう!

[お尻の位置を整える]

ベッドや椅子に座っっているとき、深く座りすぎていると足を引けなくなります。浅く腰掛けることで、重心移動がしやすくなります。
そのため、まず“浅く座り直す”ことが大切です。

浅く座り直すことは骨盤を動かしやすくし、その後の前傾動作を引き出すためでもあります。
さらには、重心と足を近づけ重心移動距離を短縮することにつながり、前傾運動も必要最小限で立ちやすくなっていきます。

[足を後ろに引く]

足を引くことには大きな意味があります。
足を後ろへ引くと、身体の重心と足の距離が近づき、前方への重心移動がしやすくなります。逆に足が前へ出ていると、立ち上がり時に後方へ倒れやすくなります。

また、足底全面で床を捉えることで、重心を支持基底面内に留めてバランスを取りやすくなります。これは生理学・運動学的にも重要なポイントです。

足を後ろに引くこと、引いた時に踵が浮かず全面床に着いているかを確認していきましょう!

[腰を起こす]

「前かがみ」が必要とはいえ、腰が丸まったままだと力がらず、重心も前に移動していきません。
一度腰を起こして骨盤を立てることで、股関節から前傾しやすくなります。
ここで重要なのは、“背中を曲げる”のではなく、“股関節から倒れる”ことです。

背が丸まった状態に、さらに上半身を前に曲げてしまうと、背骨が圧迫され腰椎の圧迫骨折や、胃が圧迫されることによる嘔吐にもつながりかねません。
イメージとしては、腰を起こした姿勢を保ったまま、へそを床に向けていくように前傾していきます。
 
身体に負担をかけずに十分に重心を移動していくために、腰を起こしてから前傾していきましょう!

[お辞儀をする]

立ち上がりで最も重要な動きが前傾動作です。
目安は、みぞおちが足の上に来るくらいまで前傾することで、重心が支持基底面へ移動し、お尻が浮きやすくなります。
介護現場では、この前傾が不十分なまま「立ってください!」となる場面が多くあります。
しかし、人は真上には立てません。必ず“前へ移動する”必要があります。

十分に前傾しないまま利用者が「これじゃ足に力も入らないし立てないわ…」とならぬよう、前傾を妨げないようにしましょう。

ここまで紹介した「高さ」「お尻の位置」「足を引く」「腰を起こす」「十分前傾する」の準備が整うだけで、利用者が発揮できる力も必要な介助量も大きく変わります。

“立つ前の準備”を整えて自立支援型起立介助につなげましょう!

第3章:介護現場でよくある起立動作の誤った理解と誤った介助 

介護現場では、良かれと思って行っている介助が、実は利用者の動きを妨げていることがあります。
よくあるのが、「脇を抱えて真上に持ち上げる介助」です。
この方法では、利用者自身の前傾運動や下肢の伸展が使えなくなります。結果として、“持ち上げてもらう動き”になってしまいます。
また、介助者側も腰を痛めやすくなります。
 
ここまでご紹介した通り、「相手を持ち上げる」のではなく、「重心移動を誘導する」ことが基本です。
さらに、「前かがみは危険」と考え、無理に身体を起こしたまま立たせようとする場面もあります。
しかし、前傾不足では重心が後方に残るため、お尻が浮きません。すると、介助者が力任せに引き上げるしかなくなります。これは利用者にとっても不安が強く、危険を伴う介助です。

誤った介助が繰り返されると、
 • 利用者の残存能力低下
 • 転倒リスク増加
 • 肩や腰の痛み
 • 介助依存
 • 介助者の腰痛

などにつながり、自立した生活を妨げる恐れがあります。

逆に、動作を理解した介助では、
 • 利用者が自分の力を使える
 • 動きに安心感が出る
 • 少ない介助で立てる
 • 介助者の負担が減る

という好循環が生まれます。

「自分で立てた!」といった利用者の自尊心を守ることにもつながります。
介助とは、“代わりにやること”ではなく、“できる動きを引き出すこと”なのです。
“持ち上げる介助”から卒業していきましょう!

まとめ・チェックポイント

今回は、自立支援型の立ち上がり介助のための、「人はどうやって立つのか」を正しく理解することを中心にご紹介しました。

理解が不十分なまま介助をすると、
 • 利用者の力を奪う
 • ケガや症状悪化につながる
 • 転倒リスクを高める
 • 介助者自身も身体を痛める
といった問題が起こります。

一方で、動作の流れや重心移動を理解すると、利用者の“できる力”を自然に引き出せるようになります。
立ち上がり介助は、単なる立ってもらう技術ではありません。
その人の生活を支え、「自分のこの足で立ち続けたい。」を支えられる大切な“自立支援”です。
ぜひ、今回の学びとチェックポイントを参考に、実践に進めていきましょう! 

次回は、明日から現場で使える「自立支援型立ち上がり介助の具体的なポイント」を解説していきます。

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山﨑隆博

山﨑隆博

理学療法士医療法人社団山川会 介護老人保健施設ケアセンター 芳川リハビリテーション部 アドバイザー RehaCareSmile代表

日々の臨床に理学療法士として励む傍ら、“リハビリテーション従事者と介護従事者とが腹を割って研鑽し合う”団体「リハビリテーション*介護Labo」を2017年に立ち上げる。その中で、介護技術関連のセミナーを主催し、“洗練された技術” “揺るぎない根拠”“潜在的な想い”を兼ね備えている介護技術のプロを養成。 中央法規出版(株)発刊のおはよう21にて、連載「場面別に見る 介護技術のチェックポイント」や特集「今日から使える基本の介護技術100のポイント」などを執筆。 現在は、老健のリハビリテーション部責任者として勤務しながら介護施設の職場内研修やケアマネ等の協会主催の研修会、全国各地のセミナー等にて伝達・指導を行う。

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