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専門家コラム

ヒヤリハット報告は本当に現場を良くしているのか?

「書かせる意図」から「学び合う意図」へ

医療・介護現場では、「ヒヤリハット報告を書くこと」が安全管理の基本とされています。
本来、ヒヤリハットとは重大事故に至る前の小さな異変やミスを共有し、同じ失敗を繰り返さないための仕組みです。
しかし現場では、「また報告書か…」「書いたところで何も変わらない」「結局、自分だけが責められる」そんな声が聞かれることも少なくありません。ヒヤリハットは本来、患者さんや利用者さんを守るための仕組みです。しかし運用の仕方によっては、職員の疲弊や萎縮を生み、本来の目的から外れてしまうことがあります。大切なのは、「書くこと」そのものではなく、「何を学び、どう活かすか」です。

ヒヤリハット報告の利点

重大事故を未然に防げる 
薬剤投与前に間違いに気づいた事例や、転倒しそうになった利用者を支えられた事例など、小さな異変を共有することで大きな事故を防ぐことができます。
現場の危険を見える化できる
報告が集まることで、・特定の時間帯・特定の場所・特定の業務にリスクが集中していることなどが分かります。
個人の問題を仕組みの問題として捉えられる
同じミスが複数人に起きている場合、「本人が悪い」ではなく、「仕組みに問題がある」と考えるきっかけになります。
新人教育に活かせる実際の事例は教科書以上の学びになります。 
現場で起こりうる危険を具体的に伝えられます。 
安全意識が高まる 
「気づいたら報告する」という習慣は、リスク感性を育てることにつながります。

一方で現場が感じる5つの弊害

「犯人探し」が始まる
本来は再発防止が目的なのに、「誰がやったの?」という空気になる職場があります。すると職員は、「報告したら損をする」と感じるようになります。 
報告を書くこと自体が負担になる
慢性的な人手不足の中、勤務終了後に報告書を書くことは大きな負担です。「記録だけで終わる」という感覚が強くなることもあります。
萎縮して挑戦できなくなる
報告件数が多い職員ほど、「ミスが多い人」というレッテルを貼られることがあります。すると必要以上に慎重になり、主体性が失われます。
改善につながらない
何枚報告しても、・フィードバックがない・改善策がない・同じことが繰り返されるとなれば、報告する意味を感じられなくなります。 
心理的安全性が低下する
人前で指摘されたり、報告書を根拠に責められたりすると、「本当は言いたくない」という気持ちが生まれます。結果として隠蔽や報告遅れにつながります。

ヒヤリハットが機能する職場と機能しない職場の違い

実は、ヒヤリハット報告そのものに問題があるわけではありません。問題は、「どんな意図で運用されているか」です。機能しない職場では、・ミス=能力不足・報告=反省文・指摘=叱責になっています。一方、機能する職場では、・ミス=学習機会・報告=情報共有・指摘=改善提案として扱われています。この違いは非常に大きいのです。

ミスから学べるチームになるために

人ではなく仕組みを見る
「なぜ起きたのか」を考えるとき、まず個人を責めるのではなく、・業務量・人員配置・情報共有・マニュアルを確認します。
報告した人を評価する
問題を発見し共有した人は、組織を守った人です。「報告してくれてありがとう」という文化が必要です。
小さな成功も共有する
事故を防げた事例も共有します。ヒヤリハットだけでなく、「良かった対応」を増やすことで学びが深まります。 
リーダーが安心をつくる
管理者やリーダーが、「責めない姿勢」を示すことが重要です。職員が安心して声を上げられる環境が安全につながります。

まとめ

ヒヤリハット報告は、書くことが目的ではありません。本来の目的は、患者さんや利用者さんの安全を守り、現場をより良くすることです。しかし、犯人探しや叱責の道具になった瞬間、その仕組みは機能しなくなります。医療や介護の仕事は、人が人を支える仕事です。だからこそミスをゼロにすることよりも、ミスを隠さず共有できる職場をつくることの方が重要です。ミスをした人を責める文化ではなく、ミスから学ぶ文化へ。
報告書を書くことに意味があるのではなく、その経験をチーム全体の知恵に変えることに意味があります。一人の失敗を組織全体の学びに変えられる職場は強い職場です。そして、安心して声を上げられるチームこそが、患者さんや利用者さんにとって最も安全で質の高い看護・介護を提供できる組織なのではないでしょうか。このコラムが、少しでも医療従事者のみなさんのお役に立てれば幸いです。

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時田幸子

時田幸子

看護師

会社員、フリーター、主婦を経て看護師国家資格を取得。看護師歴23年。 病院・(特養・有料)老人ホーム・サ高住・ディサービス・訪問看護ステーション勤務。 多数の心理学を学びセミナーを主催。ガン患者様・ご家族様へ傾聴ボランティア歴10年。現在は講師業、セミナー主催、個人カウンセリング&LINE相談活動中。 NPO法人日本ゲートキーパー協会認定講師 ・ 一般社団法人日本ストレスチェック協会認定SMFT ・アンガーマネージメントキッズインストラクター・ 再決断療法心理カウンセラー・トラウマ解消心理セラピスト・ パステル画でイラストや曼荼羅アートを描くことや己書という筆文字を通して、心の癒しと自己表現する場作りのお手伝いも楽しんでいます。

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