高齢者の身体の変化(骨、筋肉、関節を中心に)

高齢になると身体は徐々に衰え、骨・筋肉・関節にもさまざまな変化が起きます。
【骨】
まず骨密度の低下により骨粗鬆症になりやすく、骨折しやすくなります。特に転倒はもちろんですが、介助場面でも骨折の危険性と隣り合わせであることを、介助者は常に意識しなくてはいけません。例えば、移乗介助場面で「ドスン!」と着座させると、椎骨が圧迫骨折します。また、足踏みをせずに「ぐるっ!」と向きを変えると、足が捻じれ足首付近を骨折するといったことを、予測して介助しなくてはいけません。
【筋肉】
筋肉量・筋力も低下してサルコペニア(筋力低下症)となり、立ち上がりや歩行など日常動作が困難になりがちです。筋繊維も徐々に細く、硬くなっていくため、誤った動かし方によって損傷しやすくなることを念頭に置いて介助をしましょう。
【関節】
関節の取り囲む筋繊維や靭帯、血管や神経も硬く変化していくことから、関節の可動域も狭くなっていきます。加えて、関節の中にある潤滑液の役割をしている、関節液も減少するために、骨の関節面にある軟骨が磨耗し、変形性関節症を生じていきます。脊椎の関節にある、椎間板もクッション性が低下したり薄く変性していくなどから、背中が丸くなる円背が生じやすくなります。
このように高齢者の身体は多方面で機能低下が進み、ちょっとした不意の動きでも転倒や怪我につながりやすい状態があります。特に我々が関わっている要介護高齢者では、骨折や疾病などがベースにあって介護を必要としています。ですから、一層これらの変化に配慮した安全な介助を欠かしてはいけません。
☆ケアへの応用ポイント!:高齢者の身体的な変化を十分に理解した上で介助しよう!
関節は不安定

関節は本来、多方向に動く自由度が高い構造のため、骨だけでは完全に固定されていません。高齢者では筋力低下で関節を支える力が弱まり、関節自体の安定性がさらに低下します。
特に肩関節や股関節は球関節であり、周囲を支える筋肉や靭帯が衰えるとグラグラしやすくなります。肩甲帯(肩甲骨と鎖骨)の場合、土台が脊柱上に浮いているため元々とても不安定な構造です。
介助場面で、例えば肘や手だけを持たれて腕を動かされると、肩甲帯が動かずに肩関節に大きな負担がかかってしまいます。一方、股関節も一見機能的には比較的安定していますが、骨粗鬆症で骨質が弱くなると脱臼や骨折のリスクが高まりやすい構造です。
このように、高齢者の関節は見た目以上に不安定なものと考え、次に紹介するように必ず関節部位を支えて動かすことが重要です。
☆ケアへの応用ポイント!:関節の不安定さを意識して支え、動かすようにしよう!
利用者を動かす際のポイント

利用者の身体を動かすときは、安全で痛みのない介助が基本です。以下のポイントを押さえましょう。
①関節に触れて関節運動の支点を安定させる
動かしたい関節そのもの(肩・股関節など)に手を添えて、支点をしっかり固定します。これによって関節のグラつきが減り、利用者はリラックスして安全な運動可動域を確保しやすくなります。
②上から引っ張らず下から支える
①で添えた手と反対側の手で動かしていきますが、この時、上から持ってしまうと緊張を生み、本来の動きとは異なった動きを誘発してしまいます。①で添えた手の近いところ(肩であれば上腕、股関節であれば大腿)を下から支えることで、関節は安定し安全に動かせます。
③支える面積を広くとる
手のひらだけで小さく支えるより、前腕を身体に沿わせたり、身体と接する面積を広く使いましょう。面積が広いと力が分散し、介護する側もされる側も安定感が増します。
④姿勢を近づけて介助する
利用者さんに近づき、自分の足を広く開いて支持基底面を確保します。介護者側も安定姿勢を保つことで、利用者に安心感を与え、余計な力を入れずに動かせます。また、手先で動かすのではなく、なるべく体重を移動させることで介助が安定し、利用者の動きも自然と安定しやすくなります。
これらを組み合わせることで、少ない力でも効率よく動かすことができ、お互いにかかる負担を最小限に抑えられます。
☆ケアへの応用ポイント!:いきなり動かさずに必ず①~④の準備を経てから動かそう!
身体を動かす際の手順

介助の際は以下の手順を守って動かし、利用者の持つ力を引き出しましょう。
1.触れる前に声をかける
「○○さん、これから腕を上げますね」といった声かけを行い、何をするかを伝えます。移乗など転倒リスクのある場面では、事前に声をかけて安心感と信頼感を与えることが大切です。職員の声かけで利用者は心構えができ、安心して介助に協力しやすくなります。
2.ゆっくり触れて関節に手を添える
前回までの記事にも書きましたが、急には触れず、まず介助者の手を利用者の身体にそっと当てるように接触します。この際、単に手のひらだけではなく、前腕部も併用し体に接触させ面積を広げます。前腕を添えることで不要な圧や摩擦といった不快要素や不安定さが減ります。不快要素や不安定さは身体を動かす時の阻害因子になるため、適切な触れ方はそれを取り除き、利用者の動きを引き出すことに繋がります。
3.利用者の動きを感じながら動かす
利用者自身が少し動かそうとしたら、その動きを感じ取り、その方向やスピード、タイミングを合わせるようにして一緒に動かします。介護者本位に強引に先行して動かすことは禁忌です。利用者の動きを感じ取ることができたら、それに瞬時に追随するイメージで介助することで、その動きをサポートする効果が得られます。関節を不自然な方向にねじったり引っ張るなどのリスクを無くし、緊張を緩和しながらスムーズに動作を引き出すことに繋がっていきます。
4.終わるときも慎重に
動作が完了したら、利用者の身体をベッドや車椅子などに、必ず着地面との接触を確認しながらゆっくりと手を離していきます。急に手を離すと、利用者がバランスを崩したり、緊張させたり関節を傷める恐れがあります。最後の最後、身体が安定する状態になるまで支えの手を緩めず、十分な支持やリラックスした状態を確保・確認した上で介助を終了していきましょう。
以上の手順を守ることで、利用者は痛みや不安なく身体を動かすことができ、その分介護者の負担やケガのリスクも同時に軽減していくことができます。
☆ケアへの応用ポイント!:介助前~介助後も含めて意識し、手順を1つ1つ守って介助しよう!
事例で振り返る:望ましい動かし方と誤った動かし方で起こること

例えば更衣場面における肩関節(上肢)を上げる介助を考えます。
【誤った動かし方】
利用者の手首や前腕のみを上から持ち、上方に引っ張るだけで動かすとします。この場合、肩関節と肩甲骨周りが不安定なまま引かれるため、利用者は肩関節付近に痛みを感じたり筋肉が緊張して抵抗しやすくなります。肩甲骨が適切に固定されておらず、誤った動きが強いられることで、「肩関節周囲炎」や「靭帯損傷」といったことにもなりかねません。さらには、持続的な緊張や疼痛反射で関節が硬くなり、「肩関節拘縮」を招き、利用者自身、また介助においても動かせなくさせてしまうリスクがあります。
【望ましい動かし方】
まず、肩関節に一方の手を添えて支えます。もう一方の手で肩関節に近い上腕(二の腕付近)を下支えます。このとき、手だけでなく介助者の腕全体で利用者の上肢全体を下から支えることがポイントです。そうすることで、利用者は上肢の重みを預けることができ、肩関節が安定し、痛みや誤った動きを生じず、利用者は余計な力を入れずに腕を上げやすくなります。
☆ケアへの応用ポイント!:望ましい動かし方は、利用者の筋力や関節可動域を保ち、動きを引き出すことで自立支援に繋がっていく!
まとめと実践チェックポイント
利用者の身体を動かすことは、介護現場では常日頃当たり前のように行われています。一方で、そこには高齢者、要介護高齢者特有のリスクがあることを忘れてはいけません。あくまでも、我々が支援している目の前の人は他人であり、リスクを極力最小限とし、利用者の自ら動けることや生活の営みを支援するプロです。
今回紹介した望ましい動かし方を実践し、利用者の持つ力や動きを引き出し、日頃の関わりを自立支援につながるものへとアップデートしていきましょう!
☆まとめ特別実践チェックリスト✓
動かす前~最中~動かした後までをチェックリストにまとめました。
日々の自分自身の介助や教育場面などでぜひご活用ください。
