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専門家コラム

新潟県の高齢福祉施設における現場課題と改善策

〜「もう限界」と感じる職員の声から見える希望〜

ここでは、新潟県の施設現場が多く直面している5つの主な課題と、それに対する具体的な改善策を考えてみました。

① 入所希望者が多く、待機者が減らない問題

▶課題
新潟市など都市部では、特養の入所を希望する人が定員を上回り、待機期間が長期化しています。
その間、家族が在宅で介護を続けるケースも多く、家族の疲弊や共倒れが起こることもあります。
▶改善策
行政と地域包括支援センターが連携し、「在宅から施設まで切れ目のない支援」を行うことが求められます。
例えば、短期入所(ショートステイ)を柔軟に活用したり、医療機関と施設の連携を強化し、スムーズな入所調整を図る仕組みを整えること。
また、地域密着型特養など、小規模・分散型の施設を増やし、地域ごとの受け皿を広げていくことも有効です。

② 深刻な人材不足と職員の離職問題

▶課題
介護・看護職員の確保が難しく、特に夜勤や介護度の高い入所者が多い施設では、心身の負担が大きくなりがちです。
「残業が当たり前」「休みが取りにくい」「新人がすぐ辞めてしまう」——こうした声は、現場の“悲鳴”に近いものです。
▶改善策
人材定着のカギは、“待遇”だけではなく“職場の人間関係”にあります。
リーダーが「ありがとう」「助かったよ」と声をかけ合う文化を意識的に育てることで、心理的安全性が高まります。
また、業務を抱え込みすぎないようにチームで支え合う仕組みづくりが必要です。
ICT機器(記録システムや見守りセンサーなど)を導入し、ケアの質を落とさずに効率化する工夫も欠かせません。

③ 運営監査・指導内容への対応と職員教育の遅れ

▶課題
介護報酬請求や記録、運営管理などで県の指導を受ける施設が一定数あり、「書類整備」「説明責任」「運営基準」などの面で改善が求められています。
しかし、現場では「人がいない中で、書類ばかり増える」との声も多く、現場と運営のギャップが広がっています。
▶改善策
「記録を増やす」のではなく、「必要な情報を整理して残す」方向へ転換が必要です。
事務作業を一部事務職に分担したり、外部研修・オンライン学習を活用して知識をアップデートできるように支援することが効果的です。
職員が「なぜそのルールが必要なのか」を理解できれば、監査対応も“負担”ではなく“質を守るための手段”に変わっていきます。

④ 利用者ニーズの多様化に追いつかないケア内容

▶課題
入所者の要介護度は年々高くなり、医療的ケアや認知症対応の複雑化が進んでいます。
「昔ながらの介護」では通用しない場面が増え、看取りや終末期ケアの対応にも戸惑う職員が多いのが現状です。
▶改善策
医療職と介護職が“連携する文化”を育てることが最優先です。
たとえば、定期的なカンファレンスで「この方にとって今、何が最善か」を一緒に話し合う場を設ける。
看護師が医療的判断をサポートし、介護職が日常の小さな変化を共有できるようにすることで、チームケアの質が格段に上がります。
また、外部研修や地域包括支援センター主催の研修への参加を奨励し、「学び続ける施設文化」をつくることも重要です。

⑤ 入所調整・公平性の課題と家族の不満

▶課題
要介護度や家庭事情によって入所優先順位をつける現行制度は、合理的である一方、「なぜあの人が入れたの?」「説明が不十分」と感じる家族も少なくありません。
情報不足が不信感を生み、トラブルにつながるケースもあります。
▶改善策
入所基準や選定プロセスを「見える化」すること。
家族説明会やパンフレットなどで、入所決定までの流れを丁寧に伝えるだけでも、納得感は大きく変わります。
また、入所を待つ間も地域包括やケアマネと連携し、ショートステイ・訪問介護・通所サービスなど“繋ぎ支援”を提案できる体制を整えると、家族の安心感が増します。

心のケアが現場を救う

これらの課題の根底には、「人の心の疲弊」があります。
どんなに制度や設備が整っても、ケアを担う人の心が疲れきっていれば、本当の意味での“ケアの質”は維持できません。
私自身、看護師として23年間、医療・介護の現場を転々としながら、理想を追い求めるあまり、同僚や上司の“足りなさ”ばかりが目につき、誰かを「敵」に見立てては我慢の限界を超えて転職を繰り返してきました。
けれど、今振り返れば、その背景には「自分も認められたい」「わかってほしい」という、満たされない想いがあったのだと思います。
現場で働く人の心が癒され、自分を責めずに“等身大の自分”を受け入れられるようになったとき、チームの空気は変わります。
「できる人」ではなく、「支え合える人」が増えていくこと——それが、これからの新潟の福祉現場に本当に必要な変化です。

まとめ

介護・医療の現場は、制度や構造だけでなく「人の心」で動いています。疲れたとき、迷ったとき、「何のためにこの仕事をしているのか」を思い出せる職場であってほしい。そのために、現場の声を吸い上げ、誰もが安心して働き、笑顔でケアできる環境をつくることが、これからの新潟の介護を支える一番の力になると期待しています。このコラムが医療従事者の皆さんのお役に立てれば幸いです。 

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時田幸子

時田幸子

看護師

会社員、フリーター、主婦を経て看護師国家資格を取得。看護師歴23年。 病院・(特養・有料)老人ホーム・サ高住・ディサービス・訪問看護ステーション勤務。 多数の心理学を学びセミナーを主催。ガン患者様・ご家族様へ傾聴ボランティア歴10年。現在は講師業、セミナー主催、個人カウンセリング&LINE相談活動中。 NPO法人日本ゲートキーパー協会認定講師 ・ 一般社団法人日本ストレスチェック協会認定SMFT ・アンガーマネージメントキッズインストラクター・ 再決断療法心理カウンセラー・トラウマ解消心理セラピスト・ パステル画でイラストや曼荼羅アートを描くことや己書という筆文字を通して、心の癒しと自己表現する場作りのお手伝いも楽しんでいます。

  1. 新潟県の高齢福祉施設における現場課題と改善策

  2. 転職を繰り返す人の心理と期待

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