ケアカレッジ「介護のココロのケア」担当、グリーフケアアドバイザーのマミコです。
今日は「グリーフ」というものについて、少しだけお話させていただこうと思います。
グリーフとは
Grief(グリーフ)とは、直訳すると『悲嘆』。
大切な存在、大切なものやコトを喪失した時に「ごく自然に起きる」心と身体の反応のことを指しています。
グリーフを感じる一番大きな出来事は、死別。
大切な命を失ったときには、言葉にはできないほどの「耐えがたい大きな悲しみや痛み」に飲み込まれます。
最近では「グリーフケア」という言葉も広がり始め、
グリーフケア = ご遺族ケアというイメージ
をお持ちの方も多いと思いますが、
グリーフは「死別」に限らず、喪失を体験するたびに起きています。
例えば、失恋もそうですよね。
大切に想う人との関係を「喪失」すると、体の一部をもがれたような痛みや悲しみに沈み、しばらくは立ち直れないと感じることもあります。
他には、愛着のある大事なものを割ってしまった・落としてなくしてしまった、というのも「喪失」です。
この場合の喪失で受ける悲嘆は、別離で感じるものとは異なるかもしれませんが、人によってはしばらくの間気持ちが沈み、涙がこぼれたり、どうにもならないことを悔いて悩むかもしれません。
他にも、喜ばしいはずの卒業でも、これまでの居場所や関係性を「喪失」することで切ない気持ちを感じたり、役職を持っていた人が役職から外れることで、自分のこれまでの努力や価値を「喪失」したような気分で力が入らないなんてこともあるでしょう。
このように、私たちの人生の中では、数えきれないほどの「喪失」を体験し、その時々で「大小の差はあれどグリーフ」を感じ、乗り越えています。
グリーフの大きさ
グリーフは時に暴力的な強さで襲い掛かり、何もできないほどに気落ちしたり、生きるのをやめたくなってしまうくらいに激しく私たちを苦しめることがあります。
悲嘆は、愛着のないものには起きません。
グリーフが大きい・強いのは、喪失対象への愛着が大きいから。
死別のグリーフを考える時、ニュースで見聞きする「遠くの国」で起きた悲しい事件の被害者の死を思うときと、身近な存在の死で受ける悲しみは、全く同じではないですよね。
もちろん、痛ましい事件の被害者のことや、ご遺族の心情を思うと胸が締め付けられたり、感情移入して苦しくなることはありますが、やはりそれは直接の「自分事」ではありません。
では、自分の大切な存在、パートナーや恋人、親や子どもや友達が亡くなったとしたら、どうでしょうか?
ズカズカと侵入してくる悲しみは大きくて強く、グリーフに支配されてしまうのではないでしょうか。
こんなに悲しいのは、愛しているから。
こんなに苦しいのも、愛しているから。
愛するからこそ、悲しくてつらいんです。
愛していれば愛しているほど、グリーフは大きくなります。
グリーフ発生時の心と身体の変化
喪失からのグリーフに飲み込まれると、心身に様々な影響が現れます。
* * *
涙が枯れるくらいに泣いたはずなのに、次から次へととめどなく涙があふれてくる。
胸が締め付けられるように痛い。
眠れない、食べれない。
後悔や自責の念が次々にわき、苦しくてどうしようもなくなる。
心細くて一人でいられない。
逆に誰にも会いたくない。1人でじっとしていたい。
無気力・無関心になる。
身の回りのことに気が回らなくなる。
季節感がなくなったり、仕事に行けなくなる。
周りの人には分かってもらえないと疎外感を感じる。
自分の世界への色彩を感じられなくなる。
やり場のない怒りを感じたり、攻撃的になってしまう。
体が勝手に震える。
心臓がバクバクしたり、冷や汗が止まらない。
眠れたと思ったら汗びっしょりで飛び起きる。怖い夢を見る。
夢の中で亡くなった人に出会い、目覚めて涙する。
後を追いたくなる。
無反応で何も考えられなくなる。
現実感がなく、どんなことにも心が動かなくなる。
体重が著しく減少してしまう。
アルコールに依存してしまう。
食べることで安心を得ようと、過食になる。
うつ的な不調から抜け出せず、医療的介入が必要になる。
どこにも病気が見つからないのに、体が痛んだり不調が続く。
* * *
この他にも様々な症状や反応があり、それが複雑に絡みあったりして、グリーフの中にあるときには自分では思いもしないような感情に支配されて行動することはたくさんあります。
「失う」わけですから、寂しさや悔しさがにじむのは当然ですよね。
喪失後に胸が痛い…と言う表現がありますが、文字通りに心臓に影響を及ぼして心筋症になるということだってあります。
大きく深く、そして強いグリーフの中にあるときには自分ではコントロールできないような、心身の変化が起きてしまうので、どうぞ周りの人を頼り、頑張れない自分に「それでいいんだよ」と言ってあげてくださいね。
グリーフの最中にある時には、
この気持ちが落ち着くことはあるのだろうか?
グリーフから回復することができるのだろうか?
ということ自体も不安になるものですが、私たちはみんな、悲しみと折り合いをつけて共存していける、素敵な力をもっています。
レジリエンスとは
先に、私たちは「大小さまざまな喪失を体験し、乗り越えている」と書きましたが、この『乗り越える力』のことを【レジリエンス】と言います。
イメージは柳の枝。
引っ張られると大きく揺れてたわみますが、枝はポキリと折れることなく、その枝はまたしなやかに戻ります。
私たちも柳の枝のように、悲嘆によって心と身体に大きなダメージを受けても、時間をかけてしなやかに回復していける力を持っています。
強く大きなグリーフの渦中にあるときには、とてもじゃないけれど立ち直れそうにないと途方にくれますが、
グリーフは必ず回復して行くと言われています。
でもね…
回復までの時間は人によって異なります。
だから「すぐに回復できない」自分がいたとしても、どうか急ぎ過ぎないでください。
私がグリーフケアの講座に参加した際に、ある方は「20年かけてようやく」グリーフと付き合えるようになり、レジリエンスを実感できたとおっしゃっていました。
体も心も、ちゃんと回復できるようになっていることを知っておくだけで、グリーフの中にあるときに「希望」を持つことが出来るけれど、人によって回復までの時間は異なっていて、そこに「良し悪し」は存在しないことも、合わせて覚えておいていただけると、哀しみの中にある自分を追い込まずに優しくしてあげられるかもしれません。
グリーフからの回復の「長い」「短い」
グリーフからの回復時間は、人それぞれです。
死別によるグリーフは、一般的には「4年」ほどで回復すると言われていますが、誰しもがこの時間に合致するというものではありません。
先ほど、愛着の度合いが高ければ高いほどグリーフは大きくなると書きましたが、グリーフからの回復が早いから愛着がないわけでも、長いからいいというものでもありません。
死別による喪失は、どんなに願い・祈りを捧げても、もう失った命と出会い直すことが出来ません。
そこに立ち止まり、会いたいとどんなに願っても、その願いは叶わない。
とても受け入れがたいけれど、どうしようもないこと。
だから、哀しくともそれを受け入れて、哀しみと共存しながら少しずつ日常を取り戻すことが早くできる人もいて、時折そんな自分に対して
こんなに早く受け入れることが出来る自分は、あの人を愛していないのではないか?
私の愛は、足りないのではないか?
と、回復して行く自分を許せなかったり、愛情が足りないと錯覚して不安を覚えてしまうことがあります。
でも、そんなことはないんです。
愛していないから立ち直るのではなく、グリーフからはみんな「立ち直っていく」んです。
その期間が違っているだけで、愛がないわけではなく、「愛しているから受け入れることを選ぶ」のだろうと思うんです。
祈り乞うほどに会いたいと思うのに、会えないことを受け入れるって、なんて大きな愛なんでしょうね。
グリーフは本当に苦しくつらい状態ですから、そこから少しでも早く回復できているならば、それは素敵なことですから、どうぞ「早い回復」が出来ているご自身をニッコリ受け入れてあげてください。
最後に
今日は、グリーフという言葉や、どんな時にグリーフを感じるのか、またグリーフが心身に影響を及ぼすことや、哀しみや苦しみから立ち直る力のことについてご紹介させていただきました。
めちゃくちゃザックリした内容ですが、いつ・誰でもグリーフに飲み込まれてしまうことがあり、悲嘆の中にあるときには回復できるのだろうか?と不安になるものですから、
「いつになるかは分からないけれど、回復して行けるものなんだ」
ということを知っていただきたいなと思っています。
それは、哀しみや絶望の中の「針穴ほどの小さな希望」になってくれます。
とてもとても小さいけれど、どんなに小さくても暗闇ではなく、希望の光はちゃんとあるのだ、と。
生きているというのは、大小様々な喪失体験の連続です。
喪失があれば、そこには『グリーフ(悲嘆)』がありますから、死別に限らず喪失後の痛みがあれば、自分を労わるグリーフケアを意識し、いつも以上に自分に暖かいまなざしを向けてあげられますように。
なんて、言うは易く行うは難しで、哀しみや苦しみなどの感情はネガティブで重たく、できれば感じたくないので早く何とかしようとしますし、グリーフが引き金となる罪悪感や他責の気持ち(罪悪感が自分に向くと自責・他人に向くと他責になります)もモヤモヤしますから、そんな自分を許せなくてもがいちゃうものです。
だからこそ、私は今、グリーフの中にあるんだと知っておくことで、嫌な感情や嫌な自分になることを許してあげられたらいいな、って思っています。
ただでさえしんどい中にいるのに、自分をさらに追い込んでしまったら、傷口に塩を塗ってしまうようなもので、回復しようにも悪化しちゃいますものね。
また別の機会に、グリーフの時に起こりやすい様々な反応、グリーフが大きくなってしまう要因、どんな言葉やサポートがあたたかいと感じるのかなど、グリーフケアについてのお話をさせてもらいたいな、と思っています。
今もしもあなたが、大切な存在を失い哀しみの中にありひとりでは抱えきれないと思われるならば、どうぞグリーフケアを専門にしている人からの支えを活用してくださいね。
▼悲嘆回復ワークショップ(日本グリーフケア協会)
https://hitan.net/