医療介護福祉の学び情報メディア

介護ココロのケア

『自分の気持ちに嘘をつかない』アサーティブコミュニケーションとは

ケアカレッジ「介護のココロのケア」担当、グリーフケアアドバイザーのトサです。

私たちは一匹狼!としては生きて行けず、集団での社会生活を送っているため、どうしても「対人関係」というものに悩まされます。

組織・集団・学校・会社…
集団の中で生きていくためには、コミュニケーションというものはとても大切なものですが、コミュニケーションがうまく取れない…と悩む人もたくさんいます。

えぇ、私も若干の「コミュ障」気味で、上手に自分の気持ち・意見を伝えることが苦手でした。

特に「断る」「NOを言う」ことで申し訳ないという罪悪感が刺激されたり、自分の力不足で「NO」を言わなければいけないときには、自分の非力さに無力感を感じたり…
ただ「NO」を言えば終わりのシーンでも、様々な感情が絡み合ってしんどくなって、結果自分をガマンさせて「NO」を飲み込んで自分がどんどん疲弊するという『自分いじめ』を長年繰り返してきました。

そんな私ですが、今は以前よりずっと気軽に「これは私にはできないな」「この日は都合が悪くて参加できない」と、自分を守るための「NO」が言えるようになりました。

コミュニケーションが苦手になったのはどうして?

過去に自分が発言したことを笑われて恥ずかしい思いをした、自分の意見を無視された、誰かを傷つけてしまった、自分の意図とは違う捉え方をされてしまった…などなど、コミュニケーションの中で「痛い」体験や「悲しい思い」「恥ずかしいと感じる」事があると、素の自分のコミュニケーションに対する自信がなくなっていきます。

幼少期に親や先生といった上の立場(絶対に感じるような存在)の人からコミュニケーションに関して否定されてしまうと、思った以上に自分に対する自信を無くしてしまい、大人になっても心の中で大事に

・私の話は面白くない。
・私の話は聞いてもらえない。
・私は自分の意見を言ってはいけない。

という「教え」を守り続けて苦しむことがあります。

私たちは【自分を大切にして愛すること】が何よりも大切です。

『シャンパンタワーの法則』というものがあるのですが、ピラミッド状に重ねあげられたシャンパングラスの一番上からシャンパンを注ぎ入れると、まず一番上のグラスがしっかりと満たされて溢れたものが下にこぼれ落ちて他のグラスを満たしていきます。
これと全く同じで、自分を大切にして満たしてからではないと周りの人を大切にすることは難しいんです。

自分が空っぽのままで誰かを大切にしようと奮闘し、自分を置き去りにしてしまう状態は【犠牲】の状態で、どんどんと疲弊していきます。
コミュニケーションにおいて『自分の気持ちに嘘をつかない』ということも、自分を大切に扱う事につながります。

そこで今日は、自分の気持ちを大事にして伝える【アサーション(アサーティブ)】というコミュニケーションをご紹介したいと思います。

アサーティブ・コミュニケーションとは?

英語のアサーティブ(assertive)という言葉は「自己主張する」「はっきり主張する」という意味があります。

ここで言う自己主張というのは自己中心的に自分の我を通して一方的にに主張するということではなく、自分の気持ちを大事にして相手を尊重しながら自分の主張を伝えること。

アサーティブ・コミュニケーションとは【相手の意見を尊重しながら、誠実に自分の主張を届ける】コミュニケーションです。

思いつくままに自分の思った事を口に出して要求する人は『単にうるさくわがままな人』『我が強く難しい人』ですが、アサーティブ・コミュニケーション(アサーション)は、自分の気持ちにウソは付かずに【I message(アイ メッセージ:主語を「私」にした伝え方)】をすることで自分の事を大切にして言葉を届けるコミュニケーション。

自分が今、どんな気持ちを感じているのか?大事な自分の「感情」を素直に感じてあげて、言葉を選び『私はこんな風に感じています』と本音を伝えることで、相手の権利を侵害せずに自分の気持ちを表現するのが「アサーティブ」です。

心理学の格言(?)のようなものに、次のような言葉があります。

本音は人を傷つけない

私たちは自分の本音を人に届けることが「怖い」と感じることが多々あります。
受け入れてもらえなかったら傷つくから。悲しい気持ちになるから。寂しいと感じるから。

大事なデートの約束を、直前になって彼が仕事の都合でキャンセルしたという場面を想像してみてください。

あなたはそのデートを楽しみにしていて、前日の夜はパックをしてお肌の調子を整え、新しいワンピースを買ってそれを着て出かける予定でした。
ドタキャンに対して、うわーーっ!と怒りが湧きますが、その怒りの下には「会いたかったから残念で寂しい」という本音が隠れています。

けれど、彼が遊んでいてデートがドタキャンになったのではなく、仕事を調整しようとしたにも関わらず、どうにもならず…でのキャンセルです。

寂しいって言ったらバカにされるかな?
会いたいって言ったら嫌われるかな?

嫌われたくないから…と、本音を伝えることを飲み込みますが、自分の本音を押さえるために使う「怒りの感情」はくすぶっているため、彼に対してかわいくない態度を取ってしまいます。
「どうせ仕事の方が大事なんでしょ?」「仕事が忙しいなら、できない約束して期待させないでよ!」
こんな風に自分の本音を隠して相手を攻撃してしまうんです。

でも、本当に言いたい言葉は違いますよね??

飲み込んだ言葉の代わりに言ってしまう言葉の奥には『私は悲しかったんだよ、寂しかったんだよ、それを察してよ』という思いが隠れています。
でも、本音を伝えている訳ではないので、余程じゃないと相手はあなたの中にある感情に気付けません。

同じようにあなたも「言ってくれないと分からない!」と相手に対して感じたことがあるのではないでしょうか?

ちょっと話が逸れてしまいましたが、アサーティブ・コミュニーション(アサーション)というのは自分の中にある「本音」(この例の場合では「寂しい」「会いたいと思っていた」)を大切にしながら、相手の気持ちを尊重して自分の気持ちを届ける『自分と相手を大切にした』コミュニケーションです。

気持ちは「伝える」「伝えない」を選んでいい

コミュニケーションの中で自分の気持ちを「伝える」「伝えない」というのを選ぶことができますが、伝え方には3つのパターンがあります。

みなさんもきっとご存じの【ドラえもん】の登場人物を使うと分かりやすいので、3つのパターンをご紹介します。

攻撃的なパターン

相手の気持ちを無視して自分の気持ちを主張します。
「俺が1番」という気持ちがあるので、周囲をコントロールしようとしたり支配しようとします。
ドラえもんでは「ジャイアン」のような表現方法をする人。

意見を口にせず主張できないパターン

自分の意見は口にせず、相手を優先して曖昧な表現をし、何かを断るときにも言い訳を挟んでしまいがちです。
「言っても分かってもらえない」「私はダメなんだ」という自己否定の気持ちがある反面、相手に合わせてあげているのに私のことを分かってくれていない…とモヤモヤしたものを心に抱えやすい傾向があります。
ドラえもんでは「のび太くん」のようなコミュニケーションタイプ。

アサーティブな対応ができる

ドラえもんでは「しずかちゃん」のように、相手を尊重して大事にしながら、ちゃんと自分の意見を伝えられるタイプです。
状況に応じて「言えるけど、言わない」ことを自分で判断して選び、自分の意見を必要な時にはちゃんと伝え、相手の意見を受け入れたうえで互いに納得のいく解決策を見つけられる、コミュニケーション面で理想的な状態。

いつも自分を押し殺してコミュニケーションをしている人にとっては、「自分の意見を言ってもいいんだよ!」と言われると、どうしても自分が『ジャイアン式のコミュニケーションをしてしまうのでは??』と抵抗を持つ人が多いのですが、自分の気持ちを伝えるために目指すのは『しずかちゃん式の方法』です。

自分の気持ちを大切に伝えつつも、決して相手を傷つけることを目的とせず、相手の意見にもしっかりと耳を傾ける「しずかちゃん」がお手本だと思えば、自分の意見を伝えることは悪い事には見えませんよね!!

コミュニケーションにおいて、目指すのがしずかちゃんだとしたら、私が好きなのはこの部分です。

「言えるけど、言わない」という事を自分で判断してOK。

自分が今どんな気持ちを感じているのか「自分の気持ちに寄り添い」ながら、言う・言わないを自分の意志で選んでいいということ。

コミュニケーションというと「何かを発現する」という風に思いがちですが、「伝えない」を選ぶというコミュニケーションをしてもいいんです。

何でもかんでも「自己主張」「自己開示」をする必要はありません。
大事なことは、自分がどう感じているのかを「自分が感じて受け止める」ということで、自分と違う意見の人に対して「それは私とは違う!」と伝えることが自分を大事にする方法ではなく、「この人と私の考え方は違うんだなぁ」と自分の思いを自分が『分かってあげる』ことをしてあげることが何より大事です。

その上で「私はこう思ったけれど…」と伝えてもいいですし、伝えない事を選ぶコミュニケーションを選んでもいいんです。

自分の気持ちを無視せずに受け入れ、どう表現するかを自分で選ぶ、というのが何より大切なんです。

自分の意見・自分の気持ちを相手にきちんと伝えることがコミュニケーションの上で大事だと分かってはいますが、ずっと自分を我慢させてきてしまったり、過去に傷付いた経験があると「自分の気持ち」を言う事に怖れを感じてしまいます。
アサーティブ・コミュニケーションを目指すために、最初の一歩は外に向けて何かをすることではなく、自分の内側で自分に向き合ってあげることです。

・自分の気持ちに気付いてあげる
・自分を大切に扱い、自分がどう感じたのかを自分が聞いてあげること

言いたいことを飲み込んでいると、いつの間にか「自分がどう思っているか?」という大事な自分の感情が分からなくなっていることが多々あります。

なのでまず、自分の気持ちを「分かってあげる」自分とのコミュニケーションを増やしていくことが、コミュニケーションを上達させる基礎になります。

コミュニケーションというのはスキル

コミュニケーションは「スキル」ですから、練習や実践を繰り返せば上達できるものなので、自分を傷付けずに慌てずゆっくり、上達していければいいんですものね!!

目標とするコミュニケーションが「しずかちゃん」なら、頑張り過ぎずにお風呂に入って、ゆっくりゆっくり成長していけばいいと思えば、肩の力も抜けます…よね???

最後に、私がアサーティブについて関心を持ったきっかけになった1冊の本をご紹介します。
自分をわかってあげる自己愛心理学 (高橋 美保さん著・アスカビジネス)】

自分を大切にすることができないと、周りの人も大切にできない、という事を教えてくれる素敵な一冊です。

難しい専門書ではなく分かりやすく自分を愛することの大切さを教えてくれるのでオススメの一冊です。

周りの人の気持ちをしっかり大切に思いながらも、自分の大事な気持ちも守りながらコミュニケーションをする「アサーティブ」について、ササッとご紹介してみましたが、何かがちょっとだけでもお役に立てる情報だったら嬉しいです。

  • 記事を書いた専門家
  • 専門家の新着記事
トサ

トサ

グリーフケア・アドバイザー

株式会社ドットコム・マーケティング在籍。 2021年、グリーフケア・アドバイザー1級取得。 2022年、動物医療グリーフケア・アドバンス講座終了、23年10月よりペットライフグリーフケアアドバイザー認定に向けてステップアップ予定。 人生で最もつらく答えのない苦しみに対峙するのが喪失体験です。『哀しむことは愛すること』という言葉を胸に、愛で見守り・愛で受け止め・愛で支えるグリーフケアを目指しています。 グリーフケア分野以外のお悩み相談・カウンセリングでは、自分に優しさを向けて思いやり、自己受容する生き方のサポートを得意とする。

  1. 誰かを攻撃してしまうとき、心のずーーっと奥深くにあるものとは

  2. 「よくできた!」ってスペシャルなこと。毎日は「ほどほどに」を目指して、特に力が必要な時期は無理しないことが大事。

  3. 傷付いて頑張って「自立」した今の私がいる。弱さを嫌って身に着けた「自立」は、今の私を幸せにしていますか?

関連記事

PAGE TOP