医療介護福祉の学び情報メディア

専門家コラム

他職種リスペクトのチームビルディング

はじめに

 介護やリハビリテーションの現場において、「チームアプローチ」や「多職種連携」という言葉は日常的に使われています。しかし、本当の意味で職種間の垣根を越え、お互いの専門性を最大限に引き出し合う関係性を構築することは、決して容易ではありません。日々の業務の忙しさに追われるなかで、どうしても自職種の役割を果たすことだけに意識が向き、他職種の苦労や専門性への理解が後回しになってしまうこともあるでしょう。
 そのような現場において、チームを真の意味で機能させるためには他職種への深いリスペクトが必要です。本コラムでは、日々の実践のなかでどのようにしてリスペクトを形にし、良いチームへと成長していくのか、そのポイントについて紹介します。

自分の成功は単独では決して生まれない

 例えば、作業療法士等のリハビリテーション専門職が介入し、利用者様の身体機能が向上したり、今までできなかったADL動作ができるようになった場合、それは介入した一つの成果であり、働く喜びにつながります。「自分のアプローチがうまくいった」「専門性が発揮できた」と、専門職としての達成感を感じる瞬間です。

しかし、その成功は、果たして自分一人の力で成し遂げたものなのでしょうか。

 例えば、リハビリの場面で利用者様が良いパフォーマンスを発揮できた背景には、他職種の多くのサポートが存在しています。そもそも、その利用者様がリハビリを受ける機会を得られたのは、ケアマネジャーさんが生活全体の課題を的確にアセスメントしてくれたからです。そして、リハビリの時間だけでなく、それ以外の24時間の生活において、介護職員など他職種の皆さんが丁寧な日々のケアを行い、体調を整え、精神的な安心感を提供してくれているからこそ、利用者様は前向きにリハビリに取り組むことができます。

「あなたのおかげ」と言葉にすること

 成功体験を目の当たりにしたとき、「自分が頑張ったからだ」と主張したくなるのは人間の自然な心理かもしれません。しかし、チームビルディングにおいて重要なのは、その気持ちを静かに手放し、「〇〇さんのおかげです」と相手への感謝に変換する冷静さと謙虚さを持つことだと思います。
 そして、心の中で感謝するだけでは相手に何も伝わりません。それを「ちゃんと言葉にして伝えること」が非常に重要となります。「〇〇さんが毎日丁寧に水分補給を促してくれているおかげで、今日はとても活気がありました」「〇〇さんの立てたプラン通りに環境調整をした結果、ご本人の笑顔が劇的に増えましたよ」。このように、相手の具体的な行動がどのような良い結果をもたらしたのかを言語化して伝えます。
 この「感謝の言語化」を組織の文化として根付かせるために、非常に有効なツールとなるのが「サンクスカード」です。サンクスカードは感謝の気持ちを手書きでカードに書いて相手に伝える仕組みです。日々の業務に追われていると、改まって感謝を伝えるタイミングを逃してしまいがちですが、サンクスカードを活用すると、「ありがとう」の気持ちが相手の心にしっかりと伝えることができるでしょう。

成功体験が自分だけのものでなくなる

 感謝を言葉にして相手に還すことの最大の効果は、一つの「成功体験」が自分だけのものではなくなり、チーム全体の共有財産にもなり得るということです。リハビリ職から「あなたのおかげです」と伝えられたケアマネジャーさんは、「自分のアセスメントとプランニングは間違っていなかったんだ」と、自身の専門性に対する自信や誇りをもつことができます。また、現場の介護職員も「私たちが毎日やっている地道な介護や声かけが、確実にこの人の生活を良くしているんだ」と、日々のケアの意義を再確認することができます。
 成功体験を独り占めせず、あえて黒子のような存在として、他職種を輝かせる。この関わり方を実践することで、利用者様の笑顔は「私が引き出したもの」から、「みんなで一緒につくったもの」「共に体験した喜び」へと変化します。職種の壁を越えて「あの時、みんなで頑張って良かったね」と喜びを分かち合える経験が、そのチームをより強く成長させるでしょう。

稼働率改善にもつながる

 ここまで述べてきた他職種リスペクトの姿勢は、職場の人間関係やチームの雰囲気を良くするという効果だけではありません。デイサービスやデイケアなどの稼働率の改善にもつながる場合があります。
 例えば、デイサービスで利用者様に良い反応が見られたり、ご自宅での自分らしい生活の変化に結びついたりしたとき、私たちはそれを事業所内だけの喜びに留めておきがちです。そのような場合、担当のケアマネジャーさんに連絡を取り、「今日、こんな素晴らしい笑顔が見られました。〇〇さんがこのデイサービスにつなげてくれたおかげです。本当にありがとうございます」と具体的なエピソードと共に喜びを共有します。
 ケアマネジャーさんも、自分がプランニングした結果、利用者様が幸せになり、さらにその事業所のスタッフから心からの感謝とフィードバックをもらえれば、とても嬉しい気持ちになります。この「喜びの共有」の積み重ねは、ケアマネジャーさんとの信頼関係の構築にもつながっていくでしょう。
 その結果、「またあの事業所に相談してみよう」「この利用者様も、あそこのデイサービスなら安心して任せられる」と、似たような課題を持つ方や、支援に悩んでいるケースを優先的に紹介してくれるようになります。成功を相手に還し、他職種をリスペクトするコミュニケーションは、巡り巡って「また一緒に仕事をしたい」という強い動機付けとなり、最終的に事業所の稼働率向上にもつながっていくでしょう。

 他職種連携の本質は、専門的な知識をぶつけ合うことではなく、お互いの専門性と日々の労力を心からリスペクトし合うことにあります。自分の成果を手放し、「相手のおかげ」と言える勇気を持つこと。その小さなコミュニケーションの積み重ねが、スタッフ同士の心をつなぎ、チームの結束力を高め、結果として利用者様へのより良いケアへと繋がっていきます。明日から、身近な仲間に「ありがとう」「あなたのおかげです」と伝えること「他職種リスペクトのチームビルディング」を始めてみませんか。

  • 記事を書いた専門家
  • 専門家の新着記事
小山智彦

小山智彦

認定作業療法士

「感謝には人やチームの課題を解決する力がある」と考え、感謝の気持ちを伝える「サンクスカード」の普及に取り組んでいる。国際学会での発表や執筆活動、研修や大学での講義などを通じて感謝の文化づくりと幸せな職場づくりを推進し、「ケアする人もされる人も幸せになる」ことを目指している。 日本作業療法士協会 認定作業療法士/日本実務能力開発協会 認定コーチ/一般社団法人Well-Being DESIGN 認定Well-Being Dialogue Cardファシリテーター/ポジティブ心理学実践インストラクター

  1. 他職種リスペクトのチームビルディング

  2. 介護現場に潜む「確証バイアス」の罠

  3. 「ミスは絶対ダメ」の空気が、現場の息を詰まらせていないか?

関連記事

PAGE TOP