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専門家コラム

異業種から介護の道へ~ある親子との出会い~

「異業種から介護への転職」というテーマをいただいて、自分自身を振り返ってみました。

「なぜ福祉の世界に入ったんだっけ?」

もともと福祉系の学校を卒業した訳でもなく特に福祉を意識せずに製造業の会社の事務として働き、今の主人に出会い結婚、結婚後も会社員として働き第一子を設け退職、子育てをしている普通の主婦でした。
二人目が産まれてなにげなしに広報を見ていると「ヘルパー3級の資格取得できます」と書かれた記事を見つけました。当時は県が主体となって養成をしていたと記憶しています。友人の勧めもあり二人の子どもを実家に預け研修に通いました。
未知の世界の学びがとても新鮮でわくわくして、もっともっと知りたくなり、そのままの勢いでヘルパー2級の資格も取りに行きました。今振り返ると、よく子育てをしながら頑張ったなぁ~と思います。

研修の様子

資格を取ると次は「実際にヘルパーとして働いてみたい」と思うようになりました。まだ介護保険の制度が始まる前だったので、某所の「有償ボランティア」に登録しました。
「有償ボランティア」とは、ご利用者から1時間いくらで頂いた分から些少の報酬を貰うことです。いろんなお宅にお邪魔しました。高齢のご夫婦の家にお邪魔して食事を作ったり、一人暮らしの方の家にお邪魔して排泄のお手伝いをしたり、特別養護老人ホームに入浴のお手伝いをしたり、ドライヤーで髪を乾かしたり・・限られた時間の中でどれもこれも楽しかったです。
その中でも私が一番印象に残ったことがありました。シングルマザーで男の子と女の子(ちょうど私の子どもと同じ年)のいるお家で依頼内容は「保育園の送迎・お弁当を含む食事作り・お風呂に入れて就寝の準備をする・掃除」という内容でした。毎日だったので3人チームで訪問していたと記憶しています。
お母さんは末期のガンで全身に転移、別室のベットで横になっていつも辛そうでした。

あるとき、入浴の際に男の子の身体にたばこを押しあてたようなあざを見つけました。
当時は児童虐待が今ほど大きく取り上げられていなかってたせいか、チームの中での噂話だけでした。

ある日、支援が終わり帰ろうとお母さんが寝ている部屋を覗くと男の子が立っていました。
何やらお母さんに自分の腕を差し出していました。お母さんは男の子の腕にたばこを押し当てていました。
そのときハッとしました。お母さんが男の子にではなく、男の子が自らお母さんの痛みを共有していたんだと・・そのときに思いました。「この子たちが幸せに暮らせるような社会を作りたい、そのためにこの仕事を続けたい!」と心に誓いました。
その後二人の子どもは里親に引き取られ依頼は終了になりました。最終日にお母さんに挨拶するため部屋に初めて入室を許されました。
部屋の中は痛みを忘れるために吸っていたたばこの吸い殻が散乱していました。
お母さんからは、か細い小さな声で「今までありがとうございました。」と一言だけありました。

あれから30年が経ちました。
2000年に介護保険制度が導入され、介護保険の仕事にシフトしました。3年で介護福祉士を取得し、訪問介護員、サービス提供責任者、管理者を経て、居宅介護支援専門員の資格を取り、介護支援専門員として働きながら「みんなの居場所まるごーと」を運営してきました。

今もあのときあった親子のことは忘れたことはありません。福祉の世界に飛び込むきっかけは人それぞれあると思います。私が今もこの仕事を続けてこられたのは、今まで出会ってきた人たちのお陰だと思っています。

介護の世界は肉体的にも精神的にも負担が大きく「3K」と呼ばれた時代もありました。
しかし、最近では「新3K」や「5K」という言葉も生まれており職場環境の改善が進んでいます。
介護職は大変であることは事実だけど、そこで得られた経験や出会いはそれ以上に「やりがい・生きがい」に感じられる仕事だと私は思います。今年念願の社会福祉士を取得しました。また新たなことにチャレンジしたいと考えています。
「チャレンジを恐れない」、「ピンチはチャンスに変える」をモットーにこれからもこの世界で頑張っていきたいと思います。

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岩崎典子

岩崎典子

新潟県ホームヘルパー協議会・会長、児童・民生委員

燕市出身。訪問介護事業所のサービス提供責任者、管理者を経験。独立型の介護支援専門員として仕事をする傍らボランティア団体「marugo-to(まるごーと)」を2018年に立ち上げる。地域共生型の居場所として現在も活動を続けている。また、新潟県ホームヘルパー協議会・会長、児童・民生委員としても地域の方々と共に活動している。

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