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部下のやる気を引き出す「コーチング」スキル入門

コーチングとは?

コーチングとは、相手の能力を最大限に引き出すコミュニケーションサポートの一つで、相手の取るべき手段や考えを引き出し、相手が自ら考え行動することを促していきます。
そして、相手が望んでいる目標を自ら達成することができるように、相手の持っている個人的な特性や強みを活かして、その能力と可能性を最大限に発揮することを目的としています。
そのため、一方的に指導するコミュニケーションではなく、相手との「双方向的」な質問型のコミュニケーションが基本となります。
今回のコラムでは、主に上司と部下におけるコーチングのポイントや実践例なども含め、具体的なコーチングの3大スキルと感謝の効果についてご紹介します。

部下を「信じる」ことから始まる

コーチングにおいて、もっとも大切なことは部下を「信じる」ことです。その理由の一つに「ピグマリオン効果」があります。ピグマリオン効果とは、上司や教師などが部下や学生に対して高い期待を持つと、その期待が実際のパフォーマンス向上に繋がるという心理的効果の一つです(ロゼンタールとジャコブソンの研究 1968年)。

例えば、上司が部下に対して「あなたならできる」と信じて期待をかけると、その部下は期待に応えようと努力し、実際にパフォーマンスが向上する可能性があります。上司のポジティブな期待やサポートが、部下と接する際の言葉や態度にあらわれ、部下の自信やモチベーションを高めることにつながっていくと考えられます。逆に「この職員はだめだ」と否定的な先入観があると、その思考が言葉や態度にあらわれ、部下のモチベーションを低下させたり、反発や対立を生んでしまうこともあります。
部下を信じて期待をかけることは、ピグマリオン効果を通じて部下のパフォーマンス向上に繋がります。期待されることで部下は自信を持ち、より良い成果を出すために努力するようになります。部下を「信じる」というポジティブな態度は、部下の可能性を引き出し、潜在能力を開花させることにつながっていきます。

コーチングの3大スキル

①傾聴

傾聴とは、部下の話に耳を傾けて熱心に聴くという意味です。上司が訊きたいことを訊くのではなく、部下が話したいことを受容して共感することが傾聴です。この傾聴するスキルをマスターすることによって、部下との信頼関係を強固にすることができます。傾聴はコーチングの基本と言われています。以下に傾聴のポイントを整理します。
・うなずき
「うなずき」とは、部下の喋っている音が聴こえているというサインです。うなずくことによって、部下は自分の声が聞き手に届いていると思い安心しながらコミュニ  ケーションをとることができます。
・あいづち
「あいづち」とは、相手の喋っている文が伝わっているというサインです。あいづちを打つことによって、相手は話していることが理解されていると思い安心します。あいづちを打たないと、部下は自分の気持ちが伝わっているかどうか心配になったり、誤解されていないかと不安になったりしてしまいます。
・アイコンタクト
「アイコンタクト」とは、相手の話している気持ちが伝わっているというサインです。アイコンタクトをすることで、相手は話している気持ちが伝わっていると思い安心します。アイコンタクトをしないと、部下は自分の気持ちがコーチに正確に伝わっているかどうか心配になったり、誤解されていないかと不安になったりします。
・言い換え
「言い換え」とは、相手の話した内容を要約して伝えることです。言い換えは相手の話していることの意味が伝わっているというサインとなり、相手は話していることの意味が伝わっていると思い安心します。言い換え(要約する)をすることによって、部下は上司が自分のことをちゃんと理解していると感じます。

②承認

承認とは、相手の行動・考え・発言を認め、支持することです。つまり、「承認」とは、相手の全てを認めるという姿勢が基本になります。しかし、むやみやたらにほめて、おだてることが良いのかというと、そうではありません。コーチングの「ほめる」とは「相手の考え・行動を認めた上でほめる」というところが重要です。つまり「承認」とは、単純に結果のみをほめるのではなく、「相手の考えの変化や成長をほめる」ということが重要になります。以下に承認のポイントについて紹介します。
・YOUメッセージ
相手の行動や成果に対して、直接的に評価や賞賛を伝えるメッセージです。たとえば、「あなた担当するデイケアの利用率はとてもよい結果でした」といった具合に、相手の言動や行動など成果を認め、称賛します。ただ、YOUメッセージを多用すると、相手が「自分は評価されている」と感じ、プレッシャーに感じて居心地が悪くなったり、人によっては「お世辞ばかり言いやがって」とひねくれてしまったりする場合もあります。
・Iメッセージ
 「私は感動した」、「私はとても嬉しい」など、メッセージの主語が「私」となるメッセージのことです。たとえば、「あなたがそのプロジェクトを成功させてくれたおかげで、私もとても嬉しい気持ちになりました!」といった具合に、自分の感情や反応を率直に表現します。Iメッセージは「私はこのように感じているのです」というメッセージであり、メッセージを受け取った人は充実感を感じたり、達成感を感じたりすることが期待できます。そして、Iメッセージには「批評や評価の気持ちは含まれていない」のが特徴です。
・WEメッセージ:
 WEメッセージはIメッセージよりも更に高い充実感や達成感を感じやすいメッセージです。「ずいぶん頑張ったな。課長もよくやったとほめていたぞ」と、メッセージの主体に、「組織」や「第三者」が含まれており、組織に認められ、組織貢献が出来たことが、ダイレクトに表現されているからです。WEメッセージは使う機会が少ないので、もし使える機会があったら積極的に使っていきましょう。

③質問

コーチングにおける「質問」のスキルは、非常に重要です。質問は相手の思考を引き出し、目標達成や問題解決に向けて、自分で進んでいく力をサポートします。以下に質問スキルのポイントを紹介します。
・拡大質問と特定質問
拡大質問は、相手の考えや状況を広げて深めるための質問です。たとえば、「このプログラムは利用者様にどんな効果が考えられますか?」という質問は、相手に広い視点で考えることを促します。これにより、相手はさまざまな可能性に気付くことができます。
特定質問は、特定の情報や詳細を引き出すための質問です。たとえば、「具体的にどのようなステップで問題を解決しましたか?」という質問は、特定のアクションや結果について詳しく知るために使います。これにより、具体的な情報を明確に把握することにつながっていきます。
・未来質問と過去質問
未来質問は、将来の目標や計画について考えるための質問です。たとえば、「次のプロジェクトではどのような改善を行いたいですか?」という質問は、未来の行動や目標設定に焦点を当てます。これにより、相手が未来に向けての計画やビジョンを描くサポートなります。
過去質問は、過去の経験や出来事について振り返るための質問です。たとえば、「以前のプロジェクトで成功した要因は何でしたか?」という質問は、過去の経験からの学びを得るために使います。これにより、過去の成功や失敗からの洞察を得ることができます。
・肯定質問と否定質問
肯定質問は、相手の前向きな考えや行動を促進する質問です。たとえば、「このプロジェクトで最も成功した点は何ですか?」という質問は、ポジティブな面を引き出すことを目的としています。これにより、相手は成功体験や自分の強みに気付くことにつながっていきます。
否定質問は、問題点や改善点に焦点を当てる質問です。たとえば、「このプロジェクトでの主な課題は何でしたか?」という質問は、問題や改善の余地を明らかにするために使います。否定質問は相手が物事をネガティブにとらえる可能性もあるため、慎重に使用する必要があります。

感謝は「存在承認」になる

私が大切にしている「感謝すること」も、コーチングスキルの一つでもあります。
感謝の表現は、部下が行った具体的な行動や努力に対し、その人自身の存在や役割が重要であることを伝えることになります。
たとえば、上司が部下に「あなたがプロジェクトを手伝ってくれて本当に助かった。ありがとう!」と伝えたとすると、その言葉にはその人の具体的な行動に対する感謝を示していますが、同時にその人がそのプロジェクトにとって価値のある存在であると認めるものでもあります。つまり感謝を表現することは、チームにおいて「あなたは大切で価値のある存在」という「存在承認」にもつながるのです。
存在承認は、自己重要感やモチベーションを高め、お互いの信頼関係を強固にし、職場における心理的安全性を高めるなど、多くのポジティブな影響を与えます。それは、個人の成長を促すだけでなく、チームのパフォーマンスを最大限に引き出し、より高い成果をあげることへとつながっていくのです。

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小山智彦

小山智彦

認定作業療法士 感謝の伝道師

日本作業療法士協会 認定作業療法士。介護現場の人間関係やチームワークで悩む日々の中、どん底の時に感じた深い感謝の想いと10000回の“ありがとう”に触れ、「人やチームの問題は感謝で解決できる!」と確信。 感謝を伝える「サンクスカード」の普及と独自の理念「サンクス道」を展開する。国際学会での発表、介護情報誌での執筆活動、研修や大学での講義など行い、講義では感動で涙する受講者が続出している。 ★「感謝の文化を作ることで『利用者様への感謝』が増え、ケアする人もされる人も幸せになる『寄り添いのイノベーション』が生まれます。私自身のこれまでの経験と想いを、コラムを通じて多くの方へ伝えていきたいです。

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