寝たきり老人の身体に起きていること
俗にいう寝たきり老人さんの健康状態について、前回の記事(“寝たきりゼロ”はもう古い!寝たきりでも「重度化予防」こそを!①ご挨拶と連載の趣旨)で『「褥瘡は看護・介護の恥」と言われることがあるように、「拘縮は看護・介護の恥」という考え方や価値観が当たり前になっていってほしい。(なぜならそれは十分に実現可能だから)』と書きました。
しかし寝たきり老人さんの身体に起きていることは、褥瘡や拘縮だけではありません。
写真は私自身が「ありがちな寝たきり老人の姿」を再現したものですが、なにか見たことあるなぁ、という印象をお持ちの方が多いのではないでしょうか?“身体の変形”が目につきますが、他にも以下のようなことが起きています。
・呼吸苦 ・嚥下障害 ・るい痩・不良な栄養状態
・褥瘡 ・拘縮 ・身体変形特に頭頚部姿勢
・全身的な筋緊張亢進~強張った身体
・繰り返しがちな誤嚥性肺炎や尿路感染症
・骨粗鬆症と骨折事故 ・便秘
まだ上げることができるかもしれません。
注意したいことは、「これらの諸症状をまとめてきたすような“特定の疾患”があるわけではない」ということです。
実際の既往を確認すると、脳出血や脳梗塞など脳血管障害の既往をお持ちの方・大腿骨頚部骨折のような整形外科外傷の既往をお持ちの方・特定の疾患や外傷はなかったが加齢に伴い“こんな”寝たきりになったという方など、様々です。特定の原因疾患・外傷はないが、なぜか皆さん同じようの姿の「寝たきり」になっている、ということです。もちろん、全ての方が完全に同じ状態になるわけではありません。拘縮(関節の動く範囲が狭くなり固まること)も上下肢とも屈曲拘縮する方が多いですが、中には伸展拘縮してしまう方もいらっしゃいます。
しかし、全員「拘縮が進む」ことは変わりありません。
廃用性症候群の終末の姿
まずしっかり認識したいことは、これらの寝たきりの姿は特定の疾患・外傷の結果ではなく、「廃用性症候群」の終末の姿である、ということです。(症候群=同時に起きる一連の症候のこと。原因不明ながら共通の病態を示す患者が多い場合に、そのような症状の集まりに名をつけ扱いやすくしたものである。(ウィキベディア))
図は私自身が1990年代から「廃用性症候群」を理解してもらうために用いていた「概念図」です。
廃用性症候群は、介護保険制度開始時に「生活不活発病」とも言い換えられ、それまでリハビリテーション医学関係者の間でしか知られていなかった廃用性症候群が、高齢患者・要介護高齢者に関わる多くのスタッフさんに知られるようになりました。
前回、「寝たきりゼロへの10か条」を紹介しましたが、その内容は「廃用性症候群=生活不活発病を予防する」ためのもの、と言えます。生活不活発病と言えば、まだある程度は健常に過ごしている方が必要以上に衰えないように「健常~虚弱高齢者」を対象として、要介護状態になることを防ぐ「介護予防」を強調した表現と言えます。しかし、廃用性症候群は「介護予防」に関係するだけではありません。本連載のテーマ『(すでに)身動きできない寝たきり者さんでも“重度化予防”』という点でも、同じく大切な要素となります。
上にあげた「寝たきり老人の身体にみられる諸症状」は、『廃用性症候群の諸症状』と言えるわけです。
関連しあう、ということ
ちなみに、「廃用性症候群」というキーワードでネット検索してみますと、概念図としてベッドに臥床している方の回りに「褥瘡」「拘縮」「筋力低下」といった様々な疾患状態をあらわす単語が配置してある、という図が多く確認されます。しかしそのような理解、つまり「動かないでいると様々な疾病状態が起こる」という理解では不十分です。
私があげた図では、関節拘縮・筋委縮といった疾病状態とは別に「歩行不安定」「転倒」といった“状況”を書き込んであります。そしてそれぞれが矢印でつながっていますね。つまり個々の疾患が別々のこととして起きているのではなく、状況も含めて“全て関連しあっている”という理解、そして“全体としての悪循環”に陥っているのだ、という理解が大切です。
なぜそういう理解が大切なのかと言えば、例えば褥瘡という問題が起きた時に褥瘡部に対する医療的処置を行って治癒したとしても、それだけでは「褥瘡の問題は解決しても、廃用性症候群の悪循環に陥っている」という根本的な問題は一切解決しておらずそのままでは褥瘡も容易にまた再発するだろう、と予想されるからです。
廃用性症候群の最大の「悪化要因」は?
では、今回ここまでで説明しているような「廃用性症候群/生活不活発病についての意識・知識」をしっかり持って、重度要介護高齢者さんへのケアに当たっていけば、「廃用性症候群の悪化/重度化の予防」が実現できるか?といえば、『今現在、普通に行われているケア技術』では難しいと思います。
『生活不活発病を予防する=社会生活場面を増やし心身活性を上げることで、心身機能の低下を防ぐ』ことは十分に可能だと思います。しかし、『寝たきりレベルの方々の拘縮を予防する』ということ、これは廃用性症候群についての知識や意識を持っていても、「現状普通のケア」では難しい、ということです。
では、何が必要か?今回説明した廃用性症候群についての理解を持った上で、褥瘡や拘縮といった個々の疾病状態について、『廃用性症候群の大きな悪循環の中で、どんな仕組み(機序)でこのような疾病状態が起きてくるのか?』ということの理解が必要です。そこを理解できれば、ではそうならないようなケアは?となります。
重度化予防のためにこれから必要とされる知識と技術
その上で必要な技術とは?既に意識もなく自律的に動くこともできない最重度の障害状態で活動量を増やすことも不可能な方にとっての「廃用性症候群悪化予防のための技術」とはどのようなものか?実は列挙するだけでは「?」と思われる面があるかもしれませんが、とりあえず上げてみます。
姿勢ケア
座位シーティング、臥位ポジショニング、ベッド背上げの使い方
移乗介助方法の見直し
ベッドから車椅子へ投げ出すような力任せの介助は避ける。
動作介助や姿勢変換介助法の見直し
例えば臥位で丸太を転がすような乱暴な介助は避ける。
認知症ケア
必要以上に不隠に陥らせることがなく穏やかに過ごせてもらえるように。
※介護者の穏やかな表情と態度で、とにかく急がない急がせない支援の実現
とりあえず思いつくまま上げてみましたが、各項目ごとに自信が持てますか?これら一見バラバラに思える諸技術が、実は重度障害高齢者の重度化予防につながります。その理屈(機序)は、改めて説明を続けたいと思います。